もしアベンジャーズエンドゲームがあと23%頭が良かったら
これはエンドゲームのクライマックスです。
▼解説:
この記事の画像と台詞は全てThe Warp Zoneが公開したYouTubeから引用しました。投稿者に広告収入が発生するように一度でもリンクを踏んでいただけると嬉しいです。
オリジナルは英語だけなので、関西弁に翻訳したのは私のセンスの問題です。
YouTubeのCC機能をONにすればAI自動生成の英語字幕も出ますので、英語の勉強にも向いてると思います。(ご自身のアカウントの設定を英語にする必要があるかもしれませんが)
●一番おもしろいセリフ
やはりキャプテン・アメリカの「Avengers, disassemble」でしょうね。
これは勿論、あの超有名な「Avengers, assemble」のダジャレです。英語では、動詞の頭にdis-を付けることによって逆の意味にできます。ここでは「集合する」という動詞assembleにdis-を付けることによって「解散する」という意味に変えています。
米軍に所属しているスティーヴが、同じく軍人のキャロル・ダンバースのことを「ダンバース大尉」と呼ぶのも芸が細かくて面白いですね。
●翻訳の工夫箇所
私の翻訳では、読み物として面白くするためにテンポを上げて意訳した箇所があります。特に大きく変更したセンテンスをピックアップして紹介します。
面白さは絶対に意訳の方が上だと思うのですが、原文にあった細かなニュアンスが失われています。一方で直訳は意味こそ正確ですが、冗長で勢いに欠けており、面白みが全くありません。
例えばgiant gaping ax woundは、より発音に忠実に日本語で表記すると「ジャーイアント・ゲーイピン・アークス・ウォーンド」となるのですが、つまり「タータタ」という同じリズムの単語を4つ並べて「タータタ・タータタ・タータタ・タータタ」としていることに面白みがあります。giantとgapingというGで始まる単語を並べているのも意識してやってる筈です。
欧米で幼稚園児や小学生が触れるメジャーな言葉遊びはこのようにリズムを用いたものがほとんどです。なので普通レベルの教養がある大人であればこのくらいの言葉選びはお手の物です。それを日本語のカルチャーに合わせて愉快にするため、今回私は「馬鹿でかい」と「ぶっ刺され」という野蛮なワードを敢えてチョイスして並べました。さらにリズム感を出すために長い文章は区切って、さらにオノで刺された瞬間にフォーカスして少し時制を変えました。もしこれを英和辞書からそのまま持ってきて「巨大な」と「大きくぽっかりと開いた」と書いて、原文通りの構文にしても、読んでいて楽しい文章にはなりません。
後半のfeel good odds of survivalに関しても、日本語直訳で「生存のオッズが良いと感じた」なんて言われても直感的に分かる人は少数派だと思うので、「生き残るオッズが良い→生き残るに決まってる→死ぬわけない」とより直接的で日本人が言いそうな形に変換して、さらにfeelを省いて簡略化しました。ピーターが「なんで死なないの?」と聞いてるから、キャロルが「死ぬわけないやろ」とピシャリと答える形に変えたのです。
特に日本の場合はオッズという単語がギャンブルだけで使われるので、そういう余計なイメージを連想させないためにも、敢えてオッズのくだりは削除しました。欧米では日常会話でも確率の話をするときにオッズと言いますが、日本ではオッズという単語が出てきたら「なぜ急に競馬の話をしているのか」となりかねません。
●翻訳の悩ましいところ
こんな感じで、文化圏に合わせた取捨選択と変換が日常茶飯事に起きているのが映画の翻訳作業の現場なので、すごく業が深い仕事ですよね。翻訳ひとつで映画の印象が大きく変わってしまうリスクを抱えています。意訳を通して翻訳者の人間性が出ると言っても過言ではありません。
これは字幕版ほど重要な問題になります。文章を読むスピードや一度に記憶できる文章の長さ(キャパシティ)は教育レベルやIQによって大きく差が出ますから、大衆娯楽である映画では基本的に読解力の遅い人やキャパが小さい人のレベルに合わせて字幕の文字数を減らす必要が生じます。
こうした意訳はベテラン翻訳家であるほど多用する印象を受けます。これは熟練の技があるからではなくて、最近の若い翻訳家は「アメリカ映画がしばしば英語学習の教材に使われる」ことを見越してなるべく原文に忠実な翻訳を心掛けているからだと私は推測しています。平成の中期くらいにDVDが普及し始めた頃から英語字幕が注目されて、意訳の多い日本語字幕にはクレームの電話や問い合わせが増えたそうです。そうした時代の流れには若い人ほど敏感だと言えるでしょう。
逆に、少し鈍感すぎる大物翻訳家として戸田奈津子氏が挙げられます。戸田氏は少ない文字数で読みやすい字幕を書くスキルでは傑出していますが、強引なアレンジや、軍事関係の知識の薄さ、シンプルに誤訳、先行作品や原作図書や翻訳指示書への参照をサボった故のトンチキな翻訳が多いことがよく指摘されています。有名な例ではロードオブザリングでの翻訳者更迭未遂事件がありますが、私もアバターについて纏めたので是非ご確認ください。いかに映画が、翻訳者の匙加減ひとつでリアリティにこだわった名作ドラマも台無しになるかがよく分かる事例だと思います。
戸田氏の翻訳スタイルについては、30年前の日本人の多くがまだ英語のリスニングが苦手だった世相や、あるいは30年前のまだ物語がシンプルだった時代のハリウッド映画では、最適解だったかもしれません。しかし時代は変わり、日本人は英語に慣れて、ハリウッドの大作映画は複雑性をアップしており、読みやすさ重視の翻訳では対処できないフェーズに入りました。
加えて戸田氏の場合は、過去にいくら世間から指摘を受けても「ネットを使わないから批判を読んでない」とか「一般の方々は翻訳の事情を知らない」といった理由の一点張り(二点張り?)で、全く態度を改める兆候がありません。戸田氏の頑固な態度が直接の原因なのかは不明ですが、最近はしばしば配給会社が字幕監修者をつけることがある始末です。
戸田氏は最近はユニバーサルと専属契約でも結んでいるのか、そちらでよく目にします。私がパッと思い出せるだけで、グリーン・ブック、007ノー・タイム・トゥ・ダイ、TGマーヴェリック、ジュラシック・ワールド・ドミニオン、フェイブルマンズ…とアカデミー賞絡みもしくは大型フランチャイズになると、超大物登板といった具合でひょこひょこ出てきます。百歩譲って起用されてしまうのは業界の慣例上避けられないことだとしても、ユニバーサルは最初に翻訳者の名前を提示するから、本当に嫌になるんですよね。テンションが下がった状態で映画観覧を始めることになるので、気分は最悪です。
いま私が一番懸念しているのは夏公開のオッペンハイマーです。ノーラン監督の難解で精巧に作り込まれた傑作脚本が、戸田奈津子という核爆弾クラスの頑固老人によって破壊されて、映画の繊細な味付けが放射能クラスに汚染されるのではないかと戦々恐々しています。
ノーランの場合は巨大なIMAXシアターで観覧したいので、自宅で字幕を消してブルーレイというわけにもいきません。それでも私のように英語が達者な人は防護服を着ているので対処もできますが、99%の普通の人々は戸田氏のトンチキ日本語を生身で被曝しながらでしか映画の物語を味わえないことが不憫で仕方ありません。
私は10代の頃に戸田氏が全盛期だったので、戸田氏が手がけた日本語字幕をよく読んできました。だからこそリズム感のある意訳が得意なのかなとも思う部分もあります。ある意味で洗礼を受けた世代だと言えるでしょう。しかしながら、戸田氏のように年老いて学習を怠り、周囲に迷惑をかけるような所謂「老害」にはならないように、細心の注意を払って対処したり歳を取ったりしたいものです。
▼出典:
了。
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