【ドロステのはてで僕ら】を三幕構成で読み解く
奇しくも2020年にクリストファー・ノーランの『テネット』とほぼ同時期に公開されて世界で高い評価を得た日本発のSFタイムサスペンスコメディ映画について考察します。
本noteでは結末まで語るので、映画本編を未見の方にはブラウザバックを強く推奨します。
2024年10月13日現在でアマゾンPrimeVideoで視聴できるので、ダマされたと思って、先にそちらを観てから本noteを読んで欲しいです。最初の10分だけで雰囲気を掴むだけだけでも良いので。視聴を始めて面白かったら一気に観ちゃってください。70分なので映画としては短めです。
まずは、物語を三幕8場構成に分解します。
一幕
1)カトウはカフェのマスターである。1階がカフェになっているマンションの、2階にあるカトウの部屋のPCと1階のカフェのモニターが2分の時差を超えて繋がる。
2)カトウはカフェに居合わせた人達と一緒に、戸惑いつつも2分の時差を利用して色々試してみる。更にオザワがPCとモニターを向かい合わせに並べて『ドロステ効果』を起こし、2分より先の未来との交信を可能にする。
二幕
3)オザワは14分未来の自分と交信して、駅前のガチャへ「ゼブラダンゴムシ」を引きに行ってしまう。
4)アヤとコミヤとタナベの三人は4分未来の自分達と交信して、駅の高架下に捨てられたビデオデッキの中に隠された百万円の札束を回収しに行ってしまう。
5)メグミがカフェに来店するが4分後に百万円を回収して戻ってきた三人が現れて、さらに三人を尾行してきた闇金業者が現れて百万円を奪い返し、なぜかメグミが5階の事務所に連れて行かれる。ちょうどオザワも戻ってきて素早く作戦を練る。
6)カトウはモニターを持って5階に行き、仲間たちはPCで未来予知しながらカトウに色々なアイテムを渡して事前対策させる。無事にカトウは闇金業者を倒してメグミを救出する。
三幕
7)カフェに未来から来た時空局の職員(タイムパトロール)が現れて、関わった人達の記憶を消して事態を収拾しようとする。しかし最後に残されたカトウとメグミは記憶消去薬の服用を拒否してタイムパラドクスを起こし、時空局の職員が消えてしまう。未来は改変された。
8)メグミとカトウはとりあえず落ち着いてコーヒーを飲む。実はSF好きだったメグミはカトウと意気投合して、良い雰囲気になる。6分未来の二人がそっとタイムテレビの電源を落とす。
FIN
▼解説・感想:
●構成
1-1:タイムテレビに気付く
1-2:ドロステ効果で未来の見える範囲を広げる
2-3:ガチャミッション
2-4:札束ミッション
2-5:お隣さんがトラブルに巻き込まれる
2-6:闇金業者打倒ミッション
3-7:タイムパトロールとの対決
3-8:未来は自分達で決めるから楽しいんだぜ
綺麗な三幕構成です。
第一幕でタイトルにもなってるドロステ状態を完成させて、第二幕で色々ストーリーを進めつつ本作のヴィランである闇金業者が現れてそいつらと戦って、第三幕で全ての回収するために未来人が現れるも主人公二人の大胆な行動によって「未来は自分で作るもの」というテーマに帰結する。…という完璧な流れでした。
●雑感
脚本も監督も舞台の人達なので、セリフがとても舞台っぽいですね。芸人がやるコントのような味わいもあります。こういう会話は現実には有りそうで無いよなーと思いつつも、これは舞台演劇を舞台ではできない技術を使って作った映画だと思うことで、ストレス無く観ることができました。これは昨年に映画館で観た『リバー流れないでよ』でも感じたことです。裏方も演者も基本的に舞台畑の人達で固めてるから当然でしょう。
そこを受容して観ていると、映画の中でのやや不自然な現象も全て納得することができます。
特に「もう2分後にはモニターを持って救助に向かってるのでマスター今すぐ行ってください」とか、そこですぐに納得してモニターを持って5階に登っていく店長とか、現実的になって考えたら酷いですよ。(爆笑)
でも、全て、これは演劇の映画化だと思うから納得できました。たぶん作り手もそのリアリティラインを狙ってる(=気づいてるけど気づかないフリして突っ走っている)と思いますし。
ドロステココアの缶を小道具として置いてるのはオシャレですね。
途中にセリフで「合わせ鏡のように」という発言があって、それはドロステ効果の説明として不適切なので採用しないで欲しかったなーと思いました。実際に私はこのセリフを真に受けて少し混乱しました。鏡を向き合わせているんじゃなくて、モニターがカメラも兼ねているだけなんですよ。でも、そう発言するとビジュアル的に意味が把握しにくいし、難しいところですね。(苦笑)
2023年の『リバー流れないでよ』を先に観たから余計に感じたのかもしれませんが、2020年公開の本作はカメラの手振れ補正機能が全然効いてなくて、PCで観ていて何度も酔いそうになりました。結構本気で気持ち悪かったです。思い出すだけでもちょっと気持ち悪い。途中で何度か薄目を開けながら観ていました。映画館でアレはちょっと辛かったかも。(苦笑)
▼余談:
この2作が同じ年に公開してるって、なんか運命感じちゃう。
本作の2台のモニターを使って時間を拡張するトリックは非常に複雑で、テネットを初見した時のような混乱を味わえて楽しかったです。
(了)