『少女は卒業しない』が今年の日本映画トップレベルで良かった件(ネタバレ感想)
まだ2月が終わったばかりですが、もしかしたら令和5年のマイ日本映画No.1になるかもしれない素敵な映画でした!
本稿ではネタバレありで気づいたことや感じたことを書きたいと思います。
ちなみに私は原作小説は未読です。
▼あらすじ
群像劇なので、一般的な映画で用いられる三幕構成はあまり感じられなかったですかねえ。特に時間配分の定石からは結構逸脱していたような気がします。それでも無理にまとめてみると…
めちゃ良いじゃん!!
▼考察:タイトルの意味
「少女は卒業しない」というタイトル。
本編では直接的な言及セリフはなかったと思います。
これは対偶命題を考えると分かりますね。
すなわち「卒業するのは、大人の女性」ということです。
つまり少女から大人への成長譚。
4人とも「このまま」を望んでいました。
しかし卒業という不可抗力に押し出されて、嫌でも「成長」してしまう。
本作では主人公格の4名が全員別れを経験して物語が終わります。
まなみは彼氏の思い出と、後藤は遠距離恋愛になる彼氏と、神田は片想いだった森崎と、作田もまた片想いだった坂口先生と。
あるいは作田は「引っ込み思案だった自分」との別れだったのかもしれませんね。この映画が4人を描いた群像劇で「少女の成長」に重きを置くなら、作田も「前に進む」要素が必要になるので。まなみ=答辞、後藤=電話、神田=森崎のお披露目、といった3人がポジティブなアクションをしていたので、これに対応する作田のアクションはクラスメイトに声を掛けることになるでしょう。
別れを経験して、少女は大人の女性になるんですねえ。
…と言葉にすると、もう何千万回と使い古されたテーマですが。(笑)
それをすごく繊細に描き切った、良い映画だったと思います。
特に作田のエピソードに顕著ですが、たとえば夜に本屋で坂口先生とばったり会った時に、夜道は危ないからと坂口先生は途中まで作田を送るのですが、その時に作田がじっと見つめるのは坂口先生の左手の薬指に光る指輪だったり、それを坂口先生は左手に持ってる大きなスーパーの買い物袋いだと勘違いして「今日は僕が当番なんですよ」と悪意の欠片もなく言っちゃって「あ、そうなんですね」とだけ返す場面など、抑えた脚本(過剰にドラマチックにしない演出)が非常に良かったです。
▼考察:時を戻そう
映画を見ていて、一点だけ気になったシーンがありました。
第一幕でまなみが彼氏と弁当を食べるシーンでは、少しだけ時計の針が巻き戻っているのです。
その直前にある森崎のヘビメタ当て振りバンドの練習シーンでは時刻が13時30分くらいだったのですが(時刻の割に窓から差し込む光がずいぶん傾いていたのでよく覚えています)、まなみと彼氏の調理室のシーンになると時計が12時15分くらいに戻っていました。
ここに強く違和感を持った私は「あれ?編集で後からシーンの順番を入れ替えたのだろうか」くらいに思って観ていたのですが、実際は違いました。調理室はまなみの回想シーンだったから時刻が巻き戻って見えただけだったんですね!
第二幕で、卒業式当日にまなみが早朝の調理室に弁当を届けに来たときに、画面の奥で国旗がズラーっと並んでるのを見つけて、映画内で語られる一足先に時制操作のマジック(弁当は回想シーンだったこと)に気づいた私は「そういうことかーー!」ともう脳内では大興奮でした。(笑)
そう考えると、先のバンド練習のシーンでは、監督は分かっていた上で敢えて日光を斜めにして、時間が巻き戻った感覚を演出していたのかもしれません。こうして見返すと、音楽室と調理室では窓から差し込む日光の角度が全然違います。
このような些細な伏線は他にもあります。
映画ではまなみの初登場シーン(下駄箱)に彼氏が登場しますが、彼氏がササッとどこかに行ってしまった直後に登場したまなみの親友がその彼氏について何も言及しません。ちょっとくらい冷やかしそうなもの(何か話してたの?とか)ですが、どうしてだろうと私は違和感を覚えました。でも彼氏はまなみだけに見えている幻覚だったから親友は無反応だったんですね。
それによく考えれば彼氏がずっとYシャツ(夏服)でした。まなみをはじめ殆どの生徒はセーターやブレザーを着込んでるのに、一人だけ不自然です。うーん、私は序盤の段階では彼氏の薄着に気づかなかったです。もしかしたらファッションに興味がある人や高校生に近い年齢の視聴者なら、時計じゃなくて制服の夏冬の違いで違和感を持つのかもしれませんね。
一応、これが回想シーンであることは基本的には隠す(分からないようにする)演出だったと私は捉えています。冷静になって考えると①夏服は不自然②卒業式前日から調理室で国連つくるなんて言わない、などなど気づくための仕掛けは複数ありましたけど。分かってて観ると気づくリピーター向けの仕掛けだったのかなあと思いますね。
▼考察:あの歌が上手い少年は何者か
第三幕で、まさかの『DANNY BOY』をアカペラで披露した森崎。
Danny Boyといえば、あのBeatlesのライブアルバムで某曲の終わりに上機嫌で歌った鼻歌としてワンフレーズだけ収録されているあれです!(笑)
渋い選曲やなあ。
彼を演じたのは誰だったのか、検索したら…
CHARAと浅野忠信の息子でした!
そりゃ歌が上手いし、雰囲気あるのも納得だわ〜!(笑)
しかも、私が去年マイベスト10に入れた『ケイコ、耳を澄ませて』で岸井ゆきのの弟を演じていたのも彼だったのですね。髭がないので雰囲気はかなり違いますが。あちらではギターを弾いてボクササイズしていただけなのでノーマークでしたが、本作では流石に歌声を無視できなくて調べたら、まさかの優良血統のサラブレッドでした!
余談ですが、去年の日本映画で一番良いと思った作品も河合優実が出演している『愛なのに』でした。河合優実は他にも『PLAN75』や『ケイコ〜』にも出演していて、とりあえず日本映画なら彼女が出ている作品を観ていれば間違いないという状況になりつつありますね。
▼考察:愛すべき脇役たち
ネットだけを見てると、公式サイトでさえもオミットされているのですが、主演格ではない脇役キャストも皆さん素晴らしい演技だと思いました。本作は同じ朝井リョウ原作なのでどうしても『桐島、部活辞めるってよ』と比較されがちで、桐島を期待していた観客には物足りないと感じる部分が出てくるのは仕方ないことだと思いますが、この「共演陣の層の厚さ」だけは明確に本作が優るポイントです。
バスケ部の後藤をサポートしてくれた倉橋(坂口千晴)、軽音部の運営を支えてくれた後輩(田畑志真)はすでに名前を出しましたが、作田の卒業アルバムに書き込んでくれたキャリー(花坂椎南)も、答辞で失敗してしまったまなみに寄り添う親友(丸本凛)も、軽音部で真面目にやってるバンドマン(林裕太)も、全員がナイスキャストだったと思います。
特に倉橋(坂口千晴)と後輩(田畑志真)は、ある種の狂言回しのような役割を果たしていて、その演技の巧さも相まって、観ていて痛快でした。特に坂口千晴は美人なのか個性強すぎなのかの境界線(失礼な言い方かもしれないけどスター級の俳優は大抵これに当てはまるので許して)を行く独特なビジュアルと存在感があるので、もっと主役級で活躍する映画を観てみたいです。
▼余談:振り返り用ビデオ、あります。
最後に、主題歌のMVが「やりすぎ」なくらい映画本編の映像を使っているので紹介しておきます。ぶっちゃけこれを観るだけで、ほぼ映画本編を追体験できる(森崎が歌うシーンだけMVとしては分かりにくくなるのでカットされただけでは?;しかも映画に出てくる順番でシーンが使われるのでもうちょっとしたファスト映画レベルです:笑)ので、鑑賞済みの方が余韻に浸るのに超オススメです。未見の方には、ネタバレになるのであまり薦めたくないかも。(笑)
了。
*この記事で使用した画像は、公式予告編か上記ミュージックビデオのいずれかから引用しました。