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『少女は卒業しない』が今年の日本映画トップレベルで良かった件(ネタバレ感想)

まだ2月が終わったばかりですが、もしかしたら令和5年のマイ日本映画No.1になるかもしれない素敵な映画でした!

同世代のリアルな心情を鮮やかに描き出し、共感を呼ぶ作品を発表し続け『桐島、部活やめるってよ』や『何者』など映像化作品も数多の直木賞作家・朝井リョウの連作短編小説が、10年の時を経て待望の映画化。青春時代に味わうすべての感情を詰め込んだ原作に感銘を受け、監督・脚本を手掛けたのは、高校生を主人公に描いた短編映画『カランコエの花』が国内映画祭で13冠を受賞し話題を呼んだ中川駿。商業長編映画デビューとなる本作では、原作の持つ瑞々しさと甘酸っぱさをそのままに群像劇へと構成を変え、繊細な少女たちの心の機微を丁寧に描き出す。

映画オフィシャルサイトより引用

本稿ではネタバレありで気づいたことや感じたことを書きたいと思います。

ちなみに私は原作小説は未読です。

▼あらすじ

#ネタバレ

群像劇なので、一般的な映画で用いられる三幕構成はあまり感じられなかったですかねえ。特に時間配分の定石からは結構逸脱していたような気がします。それでも無理にまとめてみると…

第一幕:前日
 ここは山梨県の田舎にある高校。今年度での廃校が決まっている。じきに校舎は取り壊され、教材や図書などの備品は近隣の高校や自治体に分配されることになる。明日はいよいよ最後の卒業式である。
 料理部の山城まなみは卒業生代表として答辞を担当する。今日も調理室に忍び込んで彼氏と弁当を食べる。ずっとこのままで居られたらいいのになあと呑気にボヤく彼氏にまなみは「そうだね」とだけ静かに答える。
 バスケ部の後藤は3ヶ月前から進学のことで喧嘩している彼氏と和解してから卒業すると決心する。後藤は東京進学で、彼氏は地元の大学に進む。このまま自然消滅するのだけは避けたい。
 軽音部(部長)の神田は明日の校内ライブに備えて準備をしている。人気投票でトリは同じ中学出身の森崎のヘビメタ当て振りバンドになった。森崎に密かに片想いしている神田は森崎と校庭の桜の木の下でツーショットを撮る。
 帰宅部の作田は教室の喧騒が苦手だったが、図書室管理担当の坂口先生から「自分も苦手だったけど勇気を出して話しかけてみなさい」と言われ、その日初めてクラスメイトと話す。

料理部:山城まなみ(河合優実)と彼氏(窪塚愛流)
女子バスケ部:後藤(小野莉奈)と倉橋(坂口千晴)
軽音部:神田(小宮山莉渚)と森崎(佐藤緋美)と後輩(田畑志真)
帰宅部:作田(中井友望)

第二幕:前夜〜卒業式
 作田は本屋で偶然に帰宅中の坂口先生と鉢合わせる。作田は声を掛けた成果を報告する。卒業間近のタイミングでなぜ変わろうと思えたのかという坂口先生の問いに、作田は「山城さんが答辞を読むからです。彼女は前に進もうとしている」と答える。
 後藤は彼氏に電話して式の後に二人で花火をする約束を取り付ける。
 まなみは明け方に悪夢で目が覚める。そして弁当を作る。
 作田は図書室の本を持ってバスで登校する。
 まなみは調理室に忍び込んで弁当を一つだけ置く。
 神田は軽音部の後輩から森崎のバンドの衣装が盗難に遭ったと報告される。自力で演奏できない当て振りバンドなので出演を危ぶむ声が軽音部の後輩を中心に上がるが、神田はライブを予定通り行うと決める。
 後藤は久しぶりに彼氏と登校するが道中でまた喧嘩してしまう。もう関係修復は不可能だろう。
 いよいよ、卒業式が始まった。
 まなみは卒業生入場の時に彼氏の母親と目が合う。母親が手に持っていたのは…彼氏の遺影だ。実は昨日弁当を食べていたのは、まなみの記憶だったのだ。去年の夏に、彼氏は窓から落ちて死亡した。答辞を読むために登壇したまなみの感情が昂り意識が遠退いていく。

第三幕:式の後
 調理室の机で突っ伏すまなみ。親友が付き添って慰めてくれている。
 作田は図書室で坂口先生にずっと借りパクしていた本を返そうとする。坂口先生に薦められたこの本は、作田にとって御守りだった。坂口先生は一度だって返却を催促しなかった。しかし作田は卒業を機に返却しようと昨日本屋で同じ本を買ったのだ。坂口先生は新品の本を代わりに受け取り、図書室の本はずっと持っているようにと作田に告げる。
 神田は卒業ライブを見守る。森崎はアカペラで素晴らしく歌い上げる。神田だけは知っていたのだ、森崎が本当は歌が上手いことを。それもとてつもなく。神田はそれを隠しかたった。独り占めしておくために。森崎が高校ではマトモに歌おうとしなかったのをいいことに。でも卒業だからもういいかなって神田は思った。森崎の衣装を隠したのは神田だったのだ。
 体育館から漏れ聞こえた歌声に惹かれてまなみもライブ会場に駆けつける。まなみは思わず声を漏らす。彼氏にも見せてあげたかったと。
 後藤は屋上で独り花火をしていたが、彼氏は約束通り来てくれた。束の間の大はしゃぎ。そして帰り道、いつもの待ち合わせ場所で二人は別れる。もう恋人として会うことは無いのだろうと二人とも分かっている。涙が出てくるが、二人とも振り返ることはしない。
 作田は図書室を後にする。手には「御守り」を抱えている。
 神田は校門で待ち伏せする。しかし今やスターになった森崎には多くの生徒が取り巻いて写真を撮っている。神田は微笑んで一人その場を立ち去る。
 まなみは体育館に一人残っている。彼氏の姿が現れる。(おそらく)先ほどは上手く読めなかった答辞を、今度は彼氏のためだけに読む。
 今日、私はさよならします。世界のすべてだったこの“学校”と、“恋”と。

めちゃ良いじゃん!!

▼考察:タイトルの意味

少女は卒業しない」というタイトル。

本編では直接的な言及セリフはなかったと思います。

これは対偶命題を考えると分かりますね。

すなわち「卒業するのは、大人の女性」ということです。

つまり少女から大人への成長譚。

4人とも「このまま」を望んでいました。

しかし卒業という不可抗力に押し出されて、嫌でも「成長」してしまう。

本作では主人公格の4名が全員別れを経験して物語が終わります。

まなみは彼氏の思い出と、後藤は遠距離恋愛になる彼氏と、神田は片想いだった森崎と、作田もまた片想いだった坂口先生と。

あるいは作田は「引っ込み思案だった自分」との別れだったのかもしれませんね。この映画が4人を描いた群像劇で「少女の成長」に重きを置くなら、作田も「前に進む」要素が必要になるので。まなみ=答辞、後藤=電話、神田=森崎のお披露目、といった3人がポジティブなアクションをしていたので、これに対応する作田のアクションはクラスメイトに声を掛けることになるでしょう。

別れを経験して、少女は大人の女性になるんですねえ。

…と言葉にすると、もう何千万回と使い古されたテーマですが。(笑)

それをすごく繊細に描き切った、良い映画だったと思います。

特に作田のエピソードに顕著ですが、たとえば夜に本屋で坂口先生とばったり会った時に、夜道は危ないからと坂口先生は途中まで作田を送るのですが、その時に作田がじっと見つめるのは坂口先生の左手の薬指に光る指輪だったり、それを坂口先生は左手に持ってる大きなスーパーの買い物袋いだと勘違いして「今日は僕が当番なんですよ」と悪意の欠片もなく言っちゃって「あ、そうなんですね」とだけ返す場面など、抑えた脚本(過剰にドラマチックにしない演出)が非常に良かったです。

*このまま「先生、好きです」とか安っぽいドラマなら言いかねないけど、それをしない潔さ!

▼考察:時を戻そう

映画を見ていて、一点だけ気になったシーンがありました。

第一幕でまなみが彼氏と弁当を食べるシーンでは、少しだけ時計の針が巻き戻っているのです。

その直前にある森崎のヘビメタ当て振りバンドの練習シーンでは時刻が13時30分くらいだったのですが(時刻の割に窓から差し込む光がずいぶん傾いていたのでよく覚えています)、まなみと彼氏の調理室のシーンになると時計が12時15分くらいに戻っていました。

ここに強く違和感を持った私は「あれ?編集で後からシーンの順番を入れ替えたのだろうか」くらいに思って観ていたのですが、実際は違いました。調理室はまなみの回想シーンだったから時刻が巻き戻って見えただけだったんですね!

第二幕で、卒業式当日にまなみが早朝の調理室に弁当を届けに来たときに、画面の奥で国旗がズラーっと並んでるのを見つけて、映画内で語られる一足先に時制操作のマジック(弁当は回想シーンだったこと)に気づいた私は「そういうことかーー!」ともう脳内では大興奮でした。(笑)

*この時点では5個しかなかったのに一夜で何十個も増えるわけないのでね。

そう考えると、先のバンド練習のシーンでは、監督は分かっていた上で敢えて日光を斜めにして、時間が巻き戻った感覚を演出していたのかもしれません。こうして見返すと、音楽室と調理室では窓から差し込む日光の角度が全然違います。

このような些細な伏線は他にもあります。

映画ではまなみの初登場シーン(下駄箱)に彼氏が登場しますが、彼氏がササッとどこかに行ってしまった直後に登場したまなみの親友がその彼氏について何も言及しません。ちょっとくらい冷やかしそうなもの(何か話してたの?とか)ですが、どうしてだろうと私は違和感を覚えました。でも彼氏はまなみだけに見えている幻覚だったから親友は無反応だったんですね。

それによく考えれば彼氏がずっとYシャツ(夏服)でした。まなみをはじめ殆どの生徒はセーターやブレザーを着込んでるのに、一人だけ不自然です。うーん、私は序盤の段階では彼氏の薄着に気づかなかったです。もしかしたらファッションに興味がある人や高校生に近い年齢の視聴者なら、時計じゃなくて制服の夏冬の違いで違和感を持つのかもしれませんね。

一応、これが回想シーンであることは基本的には隠す(分からないようにする)演出だったと私は捉えています。冷静になって考えると①夏服は不自然②卒業式前日から調理室で国連つくるなんて言わない、などなど気づくための仕掛けは複数ありましたけど。分かってて観ると気づくリピーター向けの仕掛けだったのかなあと思いますね。

▼考察:あの歌が上手い少年は何者か

第三幕で、まさかの『DANNY BOY』をアカペラで披露した森崎。

Danny Boyといえば、あのBeatlesのライブアルバムで某曲の終わりに上機嫌で歌った鼻歌としてワンフレーズだけ収録されているあれです!(笑)

渋い選曲やなあ。

彼を演じたのは誰だったのか、検索したら…

CHARAと浅野忠信の息子でした!

そりゃ歌が上手いし、雰囲気あるのも納得だわ〜!(笑)

言われてみると父親にそっくりやな(笑)

しかも、私が去年マイベスト10に入れた『ケイコ、耳を澄ませて』で岸井ゆきのの弟を演じていたのも彼だったのですね。髭がないので雰囲気はかなり違いますが。あちらではギターを弾いてボクササイズしていただけなのでノーマークでしたが、本作では流石に歌声を無視できなくて調べたら、まさかの優良血統のサラブレッドでした!

余談ですが、去年の日本映画で一番良いと思った作品も河合優実が出演している『愛なのに』でした。河合優実は他にも『PLAN75』や『ケイコ〜』にも出演していて、とりあえず日本映画なら彼女が出ている作品を観ていれば間違いないという状況になりつつありますね。

▼考察:愛すべき脇役たち

ネットだけを見てると、公式サイトでさえもオミットされているのですが、主演格ではない脇役キャストも皆さん素晴らしい演技だと思いました。本作は同じ朝井リョウ原作なのでどうしても『桐島、部活辞めるってよ』と比較されがちで、桐島を期待していた観客には物足りないと感じる部分が出てくるのは仕方ないことだと思いますが、この「共演陣の層の厚さ」だけは明確に本作が優るポイントです。

バスケ部の後藤をサポートしてくれた倉橋(坂口千晴)、軽音部の運営を支えてくれた後輩(田畑志真)はすでに名前を出しましたが、作田の卒業アルバムに書き込んでくれたキャリー(花坂椎南)も、答辞で失敗してしまったまなみに寄り添う親友(丸本凛)も、軽音部で真面目にやってるバンドマン(林裕太)も、全員がナイスキャストだったと思います。

桜川智(軽音部PUZZLE)…林裕太
宮下遥(まなみの親友)…丸本凛
倉橋洋子(バスケ部)…坂口千晴
さち(作田の卒アル)…花坂椎南
小西真由美(軽音部の後輩)…田畑志真
岡田亜弓(在校生代表)…瀧七海

特に倉橋(坂口千晴)と後輩(田畑志真)は、ある種の狂言回しのような役割を果たしていて、その演技の巧さも相まって、観ていて痛快でした。特に坂口千晴は美人なのか個性強すぎなのかの境界線(失礼な言い方かもしれないけどスター級の俳優は大抵これに当てはまるので許して)を行く独特なビジュアルと存在感があるので、もっと主役級で活躍する映画を観てみたいです。

https://youtu.be/N9xVKZ7RmV4

▼余談:振り返り用ビデオ、あります。

最後に、主題歌のMVが「やりすぎ」なくらい映画本編の映像を使っているので紹介しておきます。ぶっちゃけこれを観るだけで、ほぼ映画本編を追体験できる(森崎が歌うシーンだけMVとしては分かりにくくなるのでカットされただけでは?;しかも映画に出てくる順番でシーンが使われるのでもうちょっとしたファスト映画レベルです:笑)ので、鑑賞済みの方が余韻に浸るのに超オススメです。未見の方には、ネタバレになるのであまり薦めたくないかも。(笑)

了。

*この記事で使用した画像は、公式予告編か上記ミュージックビデオのいずれかから引用しました。

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まいるず
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