デザイン思考の「共感」について
デザイン思考には5つのフェーズがあるとされています。今回はその1つ目のフェーズである「共感」についてみていきたいと思います。
「あるある」の共感
わたしたちが日常的に使う共感は自分が知っていることを前提に行われると思います。たとえば、「今日は寒いね」「そうだね」という会話はこの共感で成り立っています。『デザイン思考ファシリテーションガイドブック』によれば、この共感は“sympathize”であり、受動的な共感であるとされています。わたしがはじめてデザイン思考と出会ったときに教えてくれた方は、このことを「あるある」の共感と表現していました。「わかるわかる」から始まる共感といってもいいかもしれません。
「あるある」の共感はわれわれが会話をする上でとても重要な要素です。しかし、この共感はイノベーティブな発想をしようとする場合にはあまりうまくいきません。お互いが了解していることに対してなにか別の新しい変化を起こすことは難しいからです。つまり、イノベーティブな発想を引き寄せるには既知と未知とのギャップが必要になる、ということです。
「ないない」の共感
そこで登場するのが「ないない」から始まる共感です(こちらも前出の方の表現です)。『デザイン思考ファシリテーションガイドブック』では“empathize”、「能動的に相手の立場に身を置く」共感、と説明されています。
ここで、デザイン思考を学ぶ上で多くの気づきを与えてくれる動画があるので時間のある方はぜひ観てみてください。動画自体は35分ほどありますが、冒頭の7分間が非常に有用です。簡単に説明しておくと、「Embrace Warmer」という電気の供給が不安定な地域でも新生児を安全に温め続けることができる製品に関するプレゼン動画です。
この事例では、スタンフォード大学の学生たちが「ネパールの早生児が低体温症で亡くなっていること」をきっかけに「安い保育器を作ろう」と考えたのが始まりでした。ここでは「赤ちゃんが亡くなることはよくないことだ」「保育器が安ければいいはずだ」という「あるある」が見て取れます。状況を正確に把握する前に「こうあるはずだ」と判断しているわけです。しかし現地に行ってみると、保育器があるにもかかわらず使われていないことを知るわけです。そこから「どうして?」が始まります。
つまり、「ないない」を見つけるためには「観察する」ことがとても大事、ということです。観察をする場合は「新鮮なまなざし」で事実 fact を探すことが大切です。小さな子どものように「なぜ?」と疑問を持つのです。われわれはどうしても自分の主観でもって物事を判断してしまいます。自分の経験から外れたところにあるものを「見る」ことは案外難しい作業なのです。
観察する方法としては現地を訪れることがもちろんいいのですが(百聞は一見に如かず!)、当事者との会話(インタビュー)も有用な方法のひとつです。この観察を通して、「相手になりきるほどに相手(のニーズ)を理解する」ことをデザイン思考では「共感」と呼んでいるわけです。「ないない」から始まる共感です。相手に関心を持ち、理解を深めることで、彼ら/彼女らが抱える問題を解決に導くことができるようになるはずです。
参考文献
イトーキオフィス総合研究所・一般社団法人デザイン思考研究所『デザイン思考ファシリテーションガイドブック』