デザイン思考とはなにか――「IDEO デザイン・シンキング」
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『デザイン思考の教科書』に掲載されている論文を読みながら、デザイン思考とはいかなるものかについて考えていく連載企画第1弾です。10本の論文が掲載されているので第10弾まで続く予定です(予定です)。よろしくお願いします。
note新エディタベータ版を使ってみているのですが、改行と段落が区別されたのいいですね。引用する際には出所について書く欄も用意されたとのことなので、これから使っていきたいと思います。わくわく。
今日の論文
今日みていく論文は以下のものです。
本論文ではデザイン思考の全体像と大事な点を押さえられればと思います。
デザイン思考のアプローチ
まず冒頭でデザイン思考とはなにかについて、そのアプローチを定義しています。
人々のライフサイクルと製品・サービスのライフサイクルという2つのライフサイクルの交点ないし接点についてみていくこと
その際、直接的な観察を通して深い理解を得ること
そうしてイノベーションに活力を与えること
これがデザイン思考のアプローチであるとしています。つまり、思考すべきは製品・サービスそのもののアイデアだけではなく、それを使って構築されるシステム全体にまで及ぶということです。
これらを「デザイナーの感性と手法を用いて、人々のニーズと技術の力を取り持つこと」によって実現していくこと、また、「現実的な事業戦略にデザイナーの感性と手法を取り入れ、人々のニーズに合った顧客価値と市場機会を創出すること」がデザイン思考の専門領域であるとしています。(P. 3)
デザイン思考の3段階のプロセス
では、実際にどういったプロセスを経て実行されるのでしょうか。ここでは「スペース」という言葉によってそれが説明されています。
それぞれのプロセスは次のように定義されます。(P. 11-12)
着想 inspiration
観念化 ideation
実現化 implementation
この説明を受けて、d.schoolによるデザイン思考の5つのフェーズがハニカム構造で描かれている理由が腑に落ちました。ひとつひとつのフェーズがデザイン思考というシステム全体にとって欠かせない要素であり、密接に作用する連続体である、ということを図化したということなのでしょう。
ヒット製品の条件としての経験
議論は見た目の部分にも及びます。
と思いきや、すぐに見た目に留まらない議論に戻ります。
として、こういった「経験を思い描くと同時に、それらに望ましい形を与えるツールがデザイン思考である、としています。(P. 19)
見た目が重要なことはもちろんであるけれども、そこから得られる感情面や機能面に関わる経験、そしてそこで与える意味づけこそが大切になってくる。それらを全体的に捉えるツールにデザイン思考が最適である、ということなのでしょう。
この文脈からもやはり、デザインとは意味なのだ、ということが読み取れるような気がします。
ちなみに、ニーズと欲求の違いについてはこの記事の解説がわかりやすいです。
人間中心であるということ
後半では問題解決におけるイノベーションの重要性とそこでこそデザイン思考が活きることについて議論が展開されます。
現在は「どこを見ても、イノベーションなくしては解決できない問題が山積している」として、
と結びます。例として挙げられる問題は、
経済的に手が届かない、あるいは技術的に難しい医療サービス
一日にわずか数ドルで生活しようとしている何十億人もの貧困層
地球の限界を超えるエネルギー使用
授業についていけない人たちをいまだたくさん生み出している教育システム
新技術または人口移動によって崩壊した市場に直面する企業
なのですが、これらはこの論考が発表されてから10年以上が過ぎた今も変わっていないように思います。むしろ、コロナ禍にあっては、現在の方がより強く「変化の必要性」があるかもしれません。
デザイン思考を身に付ける
それではこのデザイン思考を身に付けるためにはどうすればよいのでしょうか。『デザイン思考の教科書』にはこの論考から10年経ってから書かれた文章「デザイン思考を振り返る」も掲載されていて、その中にこの問いへのヒントがあります。
身も蓋もない物言いに聞こえてきますが、これこそが長年にわたり続けてきたからこそ言える真理なのでしょう。励ましの言葉ももちろんかけてくれています。
物事をより大きな部分に係留して捉える、俯瞰して眺めることが大事になるのかもしれません。
アジャイルとデザイン思考
リーン・スタートアップでも使われるアジャイルの考え方についても触れられていたので最後に見ておきたいと思います。
相互補完的という意味でリーン・スタートアップとデザイン思考は相性がいいのだと思いますが、この2つの違いは現場レベルで明確に共有されていないと痛い目を見ることになります(実体験)。
すでに見たようにデザイン思考は「容易ではない」(P. 29)ため、採用する際には辛抱強くことを進める必要があります。「意味のあるインパクトを生み出すレベルに到達する前に諦めてしまう」(P. 29)ことがないように。