イズカワ、魚粉(飼料)について書いてみる。
こんにちは。みなさんは「飼料」と聞いて思い浮かぶものはありますか?きっと身近なものだと感じる方は少ないと思います。私の会社は「伊豆川飼料株式会社」といいまして、その名の通り「飼料」を製造している会社です。今回はその「飼料」のひとつで、ウチの会社が創業以来製造している「魚粉」について書いてみます。(誰得?)
「魚粉」は時々日経新聞の記事になることがあるのですが、2023年6月14日の記事では「8年半ぶりに最高値更新!安い時の9割増し!!」みたいな内容でセンセーショナルに報じられました。
そもそも魚粉って何?って話なんですが、数ある飼料原料の一つで、魚粉の中でも大きく分けて2種類あります。
1つは、ウチの会社で取り扱っているような水産加工業の加工残渣を原料にしたもの。水産加工業者から出てくるマグロやカツオなどの大きめの魚の頭や骨など、人間が食べない部分を加工して乾燥した粉状にしたもの。国内で作ることもありますし、海外で作ったものを輸入することもあります。
ちなみに当社伊豆川飼料では、基本的には国内産の魚粉を複数社から仕入れて、それをお客様の希望に沿う成分になるように混合して「調整魚粉」という名前で出荷しています。
もう1つが今回のニュースでも話題になっているイワシを漁船で取ってきて、食用に回さずにそのまま乾燥加工などをして魚粉にしたものです。大体生の魚1kgから200g~250gの魚粉が製造されるとされています。
もちろんどちらも同じ魚粉なんですが、魚を加工しないと発生しない残渣を使う副産物の魚粉に対して、獲ってきた分の魚を全部使う魚粉は製造量が多く安定しているため、世界的な魚粉の需要(年間500万トンとも言われています)に対して頼りの綱でもあります。主な生産国は中南米に集中していて、ペルーが一番たくさん作っています。国策のような扱いの事業です。年間100万トンくらい輸出してるという統計があります。
えっ!?イワシ、そんなに獲って大丈夫なの?って感じるかと思います。もちろん限りある資源、獲り過ぎたらもちろんいなくなっちゃうので、ペルーなんかは資源調査やらなんやらを元にしてイワシを獲りに行く期間や数量を制限しています。
そして今回2023年の冬の漁(南半球は今は冬)は調査の結果、魚がとっても少ないということで、漁獲枠は約109万トンとされており、例年の200万トン以上の枠に比べて半分以下。その時点で市場は反応し、魚粉価格はグングン上昇しました。そして、実際に試験的に漁に出てみると少ないだけでなく稚魚が多いということで、最初の記事にもあったように漁獲枠を消化しないで禁漁(期限の定めなし)が決まったようです。漁獲量が2014年のようにゼロになるかも!!ということで市場は絶賛大混乱中です。ペルー以外の魚粉の産地も相場が高騰、日本国内にも高騰の気配が見えています。
魚粉ってないとそんなに困るの?と感じた方、多いと思います。魚粉は世界的に家畜のエサや水産養殖のエサに使われています。日本国内の水産養殖においては年間18~19万トン程の魚粉の需要があり、30~40万トンの配合飼料を使う養殖業にとっては主原料中の主原料なのです。世界を見ても世界の人口は増えていて、食料を確保するために水産養殖はどんどん増えています。つまり飼料の需要、魚粉の需要は増える一方です。
魚が魚を食べるの?食べる魚を育てるために魚を獲ってくるの?疑問は色々浮かびますが、現状ではそれが一番効率が良いというお話です。養殖業におけるエサ代は全体のコストの6割以上とも言われており、魚粉価格の高騰は生産コストにダイレクトに響きます。なので低魚粉飼料や魚粉代替飼料などの研究が進められていますが、結局のところ代替飼料のコストや供給量やデリバリー関連、成長率などの面でなかなか本格的に始まっていません。魚粉高騰の話が出る度にこの話題になるのですが、その翌年イワシが沢山獲れるようになって魚粉価格も下がり、いつの間にか低魚粉の話題はなかったことになります・・・そして更に数年後同じ話題が・・・の繰り返し。ですが、ベースとなる魚粉の価格は十数年前に比べると格段に上がっておりそろそろ本格的に解決しないといけない問題です。
魚粉を使わなくなったら伊豆川飼料の存在意味はどうなるでしょうか?当社は漁獲したイワシの魚粉を取り扱っているのではなく、人間が食べるための魚を加工した残渣が原料の魚粉を扱っています。「人間が生きていく過程で発生するものを廃棄することなく有効に利用する」このことはいつの時代になっても大事にしていきたいと思っていますし、共感してくれる方は必ずいると思っています。
長くなりましたが、水産養殖などと同じように畜産や農作物においても世界の食糧需要は増えており、ロシアウクライナ問題でも食糧の確保の重要さが浮き彫りになりました。日本において食料自給率など解決しなければならない課題は沢山ありますが、まずは課題を知るところから。食べ物って一番大事なもので、安いものだけを使い続けるのは持続可能なやり方じゃないなって最近は感じています。