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認知症初期、行きなれた場所で迷子になるのを防ぐには?
かなり認知症の進んでいる方でも、生活習慣ルーティーンのしっかりしている方は、長い間自立した生活を送れているケースがあります。家族の方が、「あれ、お父さん認知症かしら?でも結構しっかりしている、気にしすぎかしら」、と判断しづらい場合に、予期せぬことで認知症の初期症状が現れることがあります。
行きなれた場所で迷子になる。
何度も行ったことのある場所で、トイレに行った後、元の部屋に戻ってこれない。
車や自転車を停めた場所が分からなくなる。
普段つかっている高速の出口を逃してしまう。
毎年訪ねている親戚宅で急にトイレが見つけない。
娘、息子の家に遊びに行き、トイレが見つけられなくて廊下で阻喪してしまう。
トイレの中で、便座の蓋を開けられず(特に白い便器の蓋は認知症が進むと認識しずらい。)蓋をしたまま用を足してしまう。
このようなことで認知症が発覚することがあります。
まだらボケ、なんて言葉(この言葉を肯定しているのではありません)があるように、初期の認知症の方は認知障害が出ている部分としっかりしている部分があるため、ご本人にとっても特に外出先でのトイレの失敗はかなり堪えます。
車の位置や、高速出口は携帯電話やナビゲーションを利用することもできますね。鍵などは、首につるしておく、カバンにひもでつるしておく、鍵を探す専用の音を出るものを買って張っておくこともできます。
トイレに行く際に迷子になる、あるいはトイレを見つけられないケースは、事前にちょっと工夫をしておくと、防げる確率が高まります。
認知症初期の家族さんがトイレを見つけやすい工夫
「トイレ⇒」と書いた張り紙を家中に張ること。
このポイントは、2〜3枚張るのではなく、一階に10枚ぐらい張るのです。
イメージは、「トイレ⇒」の3メーターくらい先に、次の「トイレ⇒」の張り紙があり、そのまたちょっと先に「トイレ⇒」の張り紙があり、張り紙をどんどん辿ると「トイレ」の張り紙のある扉にたどり着く仕組みです。これは、認知症初期の方が訪ねてこられる場合だけでなく、勿論その方のお宅でもお薦めです。場合によっては「便所」と書いたほうが分かりやすいこともあるかもしれません。私の父はアルツハイマーが進んで来ると、トイレよりも便所と言う言葉によく反応してくれました。
トイレになかなか行ってくれない認知症初期の方への声掛け
認知症初期の方は、自分でもおかしいと分かっているため、逆にプライドが高くなったり、、癇癪をすぐ起こすようになったりと、なかなか対応が難しいです。出来てないことを指摘されるとムキになり「自分で出来る」と言って、助けを拒否する事も多く見られます。介護をされる方々の共通の悩みの種、と言っていいほど。
「出かけるから、トイレ行って」、と言っても「今は出ない」とか「行きたくない」と拒否され、結局出先でトイレの失敗があったりして。キーっとなった経験のある方も多いかもしれません。
あなたが生身の人間だったら、きっと疲れがどーっと出るとおもいます。これが何度も重なると、「だから言ったのに」っとキレてしまったり。こちらも体力に限界のある人間ですから、そんな気持ちになるのは普通です。本当に出先でのトイレの失敗は、介護をされている方を精神的にも、肉体的にも疲れさせます。そんな時に、
とっておきのトイレへ誘う声掛け
があります。それは、
「今から出かけるから、みんなトイレ行くよ」
「私もトイレ行くから、お父さん(またはお母さんも)も一緒に行っておこう。」
そこで嫌だ、今は出ないし行きたくない、と言われても、明るい声で
「行きたい人も行きたくない人も全員行くから、一緒に行くよー」
「私も今行ったよ。お母さんも無くても行っといて。」
「外のトイレ汚かったら嫌やし、みんな行くよー」
と全員行く雰囲気で持っていく方法です。心理学でいうところの「一般化」です。とにかく、行くのが当たり前の空気を作って、持っていきます。これ、なかなか効果ありです。
また、便座に座っても出にくい場合、手を洗う水道などの流れる水を見せるとちょろちょろっと出る場合があります。私はやったことがありませんが、「膀胱の上のあたりを少し押さえて刺激を与えると出やすい」と仰っていた家族さんもおられました。
認知症の方への言葉がけは「手を変え品を変え」
ここでもう一つお伝えしたいのが、認知症の方への対応は同じ手が通用する時と、しない時があるという事です。なので、「みんなトイレに行くからお母さんも行くよ。」と言ったら「そう?」と言って言ってくれる時と、それでも行ってくれない時があります。
なので、一度駄目でも、時間を置いてシラっと同じ声がけしてうまく行くときもあります。
一番大切なのはあなたのセルフケア
とにかく一筋縄でいかない家族介護。
あなたやあなたの家族さんがされている事は、とても特別なことなのです。体力も、心や脳のエネルギーも大量に必要とする仕事です。
ですから介護が必要な家族さんのスケジュールをカレンダーに書き込むのと同じ重要度でもって「自分を癒す時間」を日々のスケジュールに組み込んで頂きたいと思います。
セルフケアと言うと
運動。朝、晩5分でも10分でいいからストレッチする。
よく寝る、時々昼寝をする。
健康的な食事。
と言うことを思い浮かべるかもしれませんが、実は
深夜ダラダラ好きなドラマを見る
携帯で布団に入ってから好きな漫画を読む
愚痴る
お笑い、バラエティ番組を見て笑う
などの余り生産的には見えないかもしれない行為が、今のあなたに必要な「癒し時間」かもしれません。自分がほっとできる日々のセルフケア時間を罪悪感を感じずに取る、そして小さいことでも良いので、定期的な「自分へのご褒美」を先に計画しておくことも、介護で燃え尽きない為にとても大切です。そう、介護者の方は「自分へのご褒美」を定期的に計画しておくことです。
自分をまず大切にする。
ここで大切なのは「自分が元気じゃないと他人を大切に出来ない。だから、自分を労る事はとても大切な私の仕事」「自分を慈しむ事は善」「私は自分を大切にして偉い」と、自分が休む事、自分を大切にすることを全肯定する事です。介護を受けておられる家族さんを残して、元気だったはずの介護をされている方が先に倒れるケースを何件も見てきた私が言うので、間違いありません。イライラしたときに、「今日はお母さんの家に手伝いに行こうと思ってたけど、腹立ってるから無理。」とやめておくことだって、自分が燃え尽きるのを防ぐための大切なセルフケアかもしれません。
そういう私も罪悪感を感じずに休むという事が出来るようになるまで、とても時間がかかりました。働き者の日本人「まず自分を大切にする」というのは、なかなか馴染みのない考え方かもしれません。特に私の様に「頑張ったときだけ褒められて」育った方が読んでおられたら、頑張らないでいることや、自分の体調を優先するということが出来るようになるまでには、子供の頃に培われた色んなビリーフを手放していかないといけないかもしれません。ですが、Practice makes perfect(練習を積めば必ず習得できます)。あなたが心身ともに健康で、介護とお付き合いしていくために、まずは「罪悪感を感じずに休むと決める」こと、そして「罪悪感を感じずに休む練習」を少しづつでもして頂きたいと思います。
ちなみに最近の私のお気に入りのセルフケアは
「ちょっと高級な美味しいお菓子を買って、夫や息子に隠れて1人で食べる」です。