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虜になって食べて知って【イワシとわたしの物語 vol.16】
お目当てのおやつを買って、教えてもらった港まで足先を向ける。初めて出会ったあのときの衝撃から今、彼女は一つまた一つと見えてくる。
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買ってやったぞと言わんばかりに口の端を吊り上げる。
袋の中を覗き込むとお目当ての〈はらぺこイワシ。〉と目が合う。
空は快晴。気分も晴れやか。
少し距離があるけど、とイワシビルのスタッフが〈はらぺこイワシ。〉に使っているイワシが獲れる港を教えてくれた。
場所を調べてみると、確かに距離はあるが、歩いていけない距離ではない。
よし、今行こう。歩いて。
せっかくこんなに天気も気持ちも晴れているのだから。
〈はらぺこイワシ。〉と一緒に買ったコーヒーを片手に港を目指す。
踏み出した右足も驚くほどに軽い。
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はらぺこイワシ。
初めて口にしたときのあの衝撃は忘れらない。
可愛らしい店内に足を踏み入れて、すぐ目に飛び込んでくる可愛らしいパッケージデザインに手を伸ばし、〈はらぺこイワシ。〉ってなんだろうとパッケージ裏の説明を読んで飛び込んできた「丸干し」の文字。
まずそこで一つ目の衝撃がガツンと真正面からぶつかってきた。
イワシの丸干しって、お父さんのお酒のおつまみとばかり思っていたからだ。
顔を赤らめながら、焼酎をくいっと喉に通して丸干しをガジガジとかじる。
そんな想像しかなかったのに、まさか食育として「子供のおやつに」と売られているなんて。
お店のスタッフさんから聞いたときは声を出して驚いた。
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二つ目の衝撃は、「苦くない」。
「丸干しは苦いもの」
勝手にそんなイメージを持っていた。
だが、実際食べてみると、噛めば噛むほど魚の旨味が広がってそこに仄かに感じる苦みがくせになっていく。
〈はらぺこイワシ。〉は朝どれのウルメイワシを使っていて、お腹に餌が残っていないから苦くないらしい。
少しずつ食べていこうと思っていたのに、「へえ」とパッケージ裏の説明に感心しながらつまんでいると気づいたら全部平らげていた。
恐るべし丸干し。
口にするまで存在もなんとなくしか知らなかった丸干しに今では虜になっている。
そして、虜になった丸干しのイワシが揚がる港に今、足を運んでいる。
近づくたびに胸が膨らんで、足はスキップすればふわりと浮いてしまいそうだ。
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気分がいいので、途中で見つけた公園の猫にこの丸干しを一匹渡してやろう。
丸干しの香りに誘われて寄ってはきたが、警戒されて結局振られてしまった。
「美味しいのに」
行き場を失いかけた丸干しはもちろん彼女の口の中に入っていく。
自然と口角が上がる。
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到着した港は思っている以上に心がはしゃいだ。
静か。静かだけど静かだけではない。寡黙だけど胸には情熱を秘めている男の人のような、そんな空気が漂っている。
港ではキャップを被って動き回る姿や話し合う真剣な表情を自然と目で追う。
港ってこんなにかっこいいんだ。
「今日は暑いね」と話しかけた男性が、イワシが揚がるのは朝の8時だと教えてくれた。漁師さんは早朝の朝4時から6時にイワシを獲るらしい。
パッケージの説明通り、本当に朝どれだ。
少し期待した水揚げの光景にお目にはかかれなかったが、せっかく来たのだから少しこの場所で〈はらぺこイワシ。〉を食べながら海を眺めることにした。
この〈はらぺこイワシ。〉はこの海から生まれたのか。
なんだか家で食べているときとは違う特別感を感じてぞわわっと全身の肌が粟立った。
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口の中で塩味と旨味がじんわりと広がっていく。
あのとき、お店で〈はらぺこイワシ。〉と出会うまで、丸干しもよく分かっていなかった。それに、イワシに種類があることも〈はらぺこイワシ。〉でウルメイワシを使っていると説明を読んでから知った。
〈はらぺこイワシ。〉一つで、次々と知らなかったことが次々と出てくる。
大人になっても知らないことばかりだ。
一番身近な食べ物だって、こうも知らないことで溢れている。
食育と〈はらぺこイワシ。〉
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食育といえば、子ども。
子どもたちには食育を。
子どもたちには体にいいものを。
それって、子どもたちだけじゃなかったかもしれない。
子どもに食育をと、子どもに体のいいものをと考えるたび、知らなかったことを知っていく。体が喜ぶものを食べていく。
私たち大人だって一緒だったんだよな。
みんなで知って、みんなで食べて。
それでいいんだよな。
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美味しくて、いろんなことを教えてくれる。
やるじゃないか。〈はらぺこイワシ。〉。
帰ったら、いつも遊ぶ子供たちに、友達に今日知ったことを教えよう。
そして、一緒に〈はらぺこイワシ。〉を食べるんだ。
その前に、もう一匹。
Model 山瀬加奈
衣装 ナミル衣料店 Instagram(@namilu_iryoten)
撮影 脇中 楓 Instagram(@maple_014_official)
撮影地 阿久根新港
文章 橋口 毬花
イワシとわたしの物語
鹿児島の海沿いにある漁師町、阿久根と枕崎。
そんな場所でイワシビルと山猫瓶詰研究所というお店を開いている
下園薩男商店。
「イワシとわたし」では、このお店に関わる人と、
そこでうまれてくる商品を
かわいく、おかしく紹介します。
わたしと山猫 vol.1 少女が踏み入れた秘密の場所
枕崎の山奥へと進む少女はある店を探していた。
突如として現れるその店の不思議な雰囲気に少しの緊張を覚えながらも、ゆっくりと足を踏み入れる。
イワシとわたし vol.15 私のための朝を過ごす
一人旅の朝。彼女は求めていた朝食に心を躍らせていた。
そうそう。これが食べたかったんだ。
彼女がこの場所に泊まり、この朝食を食べるのにはちゃんとしたわけがある。ゆっくりとごはんと時間を噛みしめるこの時間は彼女にとって必要な時間だった。
and more…
モデルインタビュー/オフショット
はらぺこイワシ。に込められた想い
イワシとわたしのInstagramではnoteでは見れなかった写真を公開しています。
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