きみはだれかのどうでもいい人
詠み終えた後、重い溜息が出ました。
何も解決しなかった。
いや、何かが解決することを期待すらしていなかったかもしれません。
登場人物の心の声を、ただただ追いました。
先日読んだ小説は、こちらです。
「同僚小説」
舞台は地方の県税事務所(地方公務員)。
主な登場人物は納税課と総務課に所属する5人の女性。
職場にアルバイトの女性が入社し、数か月で退職してしまった出来事を追うだけのストーリー。フィクションですが、現実にこの事務所が存在しているかのようなリアル感があります。
小説を読み終えた後の余韻ではなく、社内トラブルを抱えたお客様からの相談を受けた後のような余韻が残りました。
本書の特徴的な点は「視点」です。
全4章で、各章で語り手(主観)が変わる構成。
数か月の出来事を、立場も年齢も性格も異なる4人の女性の目線で4周します。
もし、共感できる女性がいた場合、その女性の章(主観)に「うん、うん」と頷きながら、別の章の同僚視点からみた客観的な姿に唖然とします。私にはまさしくそんな人物がいて、余韻に浸った1週間は他人の顔色をうかがいがちな日々でした(きっと、職場のスタッフは「妙に優しいな」と不思議に思っていたことでしょう)。
逆に日常生活において、なかなか共感できないタイプの方の主観目線というのも面白いところです。
読み終えた後は、登場人物の苦しみや心のSOSになかなか振り返るのもつらい作業でした。職場に限定せず、今まで出会ってきた人を思い返せば、リアルな描写、人物像に思い当たる節があります。「いるいる、あるある、わかるわかる」と頷きながらも、分かっていて自分はどうしていただろうかと自問しました。
少し時間を置き、今回のように書き起こしてみると、私は経営者や管理職の方にもおすすめな小説でもあるなと感じます。
上手くやっているようで、心に何を抱えているのか。仲が良さそうに見えて、双方でどんなギャップを抱えているのか。
「きみはだれかのどうでもいい人」
周りは思っている以上に、自分のことを知らない。
自分は思っている以上に、周りが見えていない。
それがいい・悪いではなく、そういうものだということ。
帯に「そこにあるのか絶望か、希望か」と問いかけがあります。
常に解決しようと思うのではなく、たまにじっと想像しよう。そう思える1冊でした。