「世界で一番」ではなく「世界にとって一番」【 B Corp ハンドブック - よいビジネスの計測・実践・改善 - 】
〇 今回の推薦図書
■ はじめに(なぜ読んだか?)
今、世界で注目されている認証制度「B Corp」。B Corpは、アメリカの非営利団体B Labが運営する国際的な認証制度で、社会や環境に配慮した事業活動において一定の基準を満たした企業のみに与えられるものです。
この度、この「B Corp」のガイドブック日本語訳版が出版されました。
「へぇ~、でもこの認証制度、興味ないしなぁ」という方。ちょっとお待ちください。実は私もB Corp認証、受けるつもりがありません(興味がないのではなく、スタートラインにすら立てていないと自覚しているため)。
ではなぜ取得する気が無い認証制度のハンドブックを購入したかというと、近所の個人書店の店主さんの発信が目に留まったからです。
「よいビジネス」には、興味ある。
投稿の翌日、早速本屋さんへ行き、店主さんとこの真意について話しました。面白そうですよね~と会話しながら、パラパラとめくってみたところ「こ、これは!」と購買意欲を掻き立てられ、即購入、即一読、即noteです。今回は「認証を受ける予定がない私」なりのオススメポイントを紹介したいと思います。
■ お勧め⑴:視点と構成
まず本書の構成ですが、非常に読みやすいです。そう感じるポイントは大きく2点。
① 視点=経営者
社会や環境に配慮した事業活動といえば、SDGsが浮かびます。SDGsは、持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標で、取り入れる企業も増えていますね。ただ、これは平和や安全、調和というものを憲章1条に掲げている国連合意によるもので、対象は国であり自治体であり、企業であり、個人1人1人です(うちの下の子(5歳)でさえもEテレの影響で、SDGsのうたをよく歌ってます)。企業がSDGsの考えを導入する場合、企業のビジョンやミッションに直結する要素というよりも、副次的に「取り入れる」要素が多いように感じます。どんな取組かは分かるけれど、いまいちピンとこないという経営者も多いのではないでしょうか。
一方で、B Corpは「企業の認証制度」。社会や環境に配慮した事業活動の魅力や必要性、導入方法を全て「事業者目線」で追いかけます。そして、すべての要素を企業のビジョンやミッションに直結させることを前提に進めていきます。
趣旨に賛同すれば、自社が取り組むべきことが見えてきますし、仮に賛同できない場合や自社のビジョンがまだ明確でないという場合にも「社会・環境への事業活動と企業」という構図の一例がみえてくるかと思います。
② 理念 × 実践
また、読んでいて感じた点は、著者の理念(思想)と実際に行うべきこと(実践)が理路整然とまとめられているということです。
理念ばかりでは理想論ばかりの啓発本のようになってしまいますし、実践編ばかりでは方向性が見えてきません。HPやネットでもB Corpとは何かを調べることができますが、ハンドブックの名のとおり、これ1冊あれば、認証制度が生まれた経緯や当事者の思い、実際の評価指標や手続き等、網羅することができます。
■ お勧め⑵:メッセージ
志の高い取り組みを続けている著者やB Corp関係者。ビジョンやミッション、バリューを大切にしている人々は、同時に強い「言葉」を知っています。本書の中でも、思わずメモしたくなる、思わずどこかで引用したくなるフレーズがたくさんでてきました。
例えば、消費者から支持される商品・会社とは?という問いについて、以下のような言葉が紹介されています。
孫引き引用になってしまいましたが、このような言葉に共感しつつ、また勇気をもらえた気がしています。というのも、前回のnoteで私は同じような問いである「 #値上がりしても買う理由 」というテーマ(日経新聞企画)で以下の投稿をしました。
応援したいと購入したいは同じ方向性にあり、値上がりしても支持されるものは、売り手(人・店・商品)のファンを獲得しているものではないかというものです(正直、投稿する前に、この本に出会いたかった 笑)。このように、日頃感じる「気付き」や「違和感」について、様々な経営者や学者の言葉と照らすことは、この本問わず、ビジネス本の醍醐味だろうと思います。
■ お勧め⑶:実用性
B Corp認証取得のためには、必要なBインパクトアセスメントという5つの評価指標があります。
本書では5つのカテゴリーでそれぞれ12個前後のチェック事項が用意され、その点数で現状の達成具合を把握できます。B Corp目線で60個以上の課題をまず知ることができ、それぞれのチェック項目の意味、対処法、事例、学者目線のコメントが掲載されています。
概要だけまとめると難解そうに見えるかもしれませんが、このような説明が60個以上用意されているということです(すごい)。まだすべての項目に目を通していませんが、私も経営分析やアドバイスの際に、アイデアのヒントとして活用するつもりです。
■ おわりに(日本語版の良さ)
本書は「意識が高い」本です。揶揄するわけではなく、自分自身のビジョンに落胆したり、自社とは別世界の話だと実践に移行せず、読書で終えてしまう可能性もあります。
もし途中で挫折しそうな場合には、最後に登場する日本語版の監訳者・黒鳥社の若林恵さんのメッセージ(P221~)を読むことをお勧めします。使命感と自信をもって語るB Lab関係者の思想を額面通りに受け取るのではなく、一歩引いて俯瞰的に見たコメントを記しています。
認証取得云々ではなく、このような取組みを知り、検証する中で「社会」や「仕事」ってなんだろうと考えてみませんかという導きです。B Corp認証の趣旨に理解しつつも、熱量の差にどこか他人事にも感じてしまった私も、監訳者メッセージを読み進めていく中で「自分たちのビジョンやミッションに取り入れられる要素を1つでも2つでも検討してみよう」と前向きになれました。
また本書(日本語版)制作にもいろいろなストーリがあったそうです。翻訳は多種多様な立場・職業の方が26名集まり、一定期間、ゼミ形式で翻訳の表現や日本での展開可能性を議論して生まれたとのこと。また本書の出版社バリューブックスさんも「本の生態系を作りたい」という理念を掲げ、バリューブックス・エコシステムという制度を設けているそうです。
文章から伝わる学び以外に、いろいろな気付きがあった1冊。
私自身、ミッションやバリューに社会や環境への事業活動を直結させることはまだ考えていません(もちろん副次的に今までも社会貢献活動は取り入れてきているという自負はありますが)。それは個人で解決する問題ではなく、まず社内で共有し、そしてお客様や外部へ発信するだけの礎を築かなければいけません。ただ、方向性としてはお客様を意識した経営から、広く社会を意識した経営へ視野を拡げていくつもりです。そういった意味で、ひとまず私は本書を「B Corpハンドブック」としてではなく「よいビジネス・ハンドブック」として活用しようと思います。
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