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ブルース・クリーンのあとにはクリームを

しもやけ、発症。
というふうに言えば良いのだろうか。
しもやけになった、とは、適切な日本語だろうか。
(※編集中に気づいた。しもやけができた、かな)

ともかくも、しもやけ。
お昼ごろから何となく右手の指が曲がりづらい鈍い感覚はあったもののスマホをずっと持ってたからだろうと思いこんでゲームをしていた。
夕食の準備のためコントローラーを置いたときに気づいた。右手の薬指が赤くなってぷっくらふくらんでいることに。変な声が出た。

慌てて調べてみたらどうやらしもやけ。
すぐにユースキンをヨドバシドットコムさんで注文。明日、届くらしい。アマゾンだと三日ほど待たなければならないようだ。非常事態宣言に伴い発送に遅れが出ているのかもしれない。



しもやけなんて小学校以来ではないかと思う。
ここ数日、とても寒い。
来週でお別れする予定のこの家は首都圏にあるが、昨日、今日と水道管が凍った。
築八十年だけあってどうやってもあたたかくはならない。今この瞬間も吐く息が白い。

古い建物でもしっかりした造りだったり古いからこそ暖をとりやすいこともあるそうだけれど、この家は単純に安普請なのである。
年末、不動産屋さんに賃貸契約解除の連絡をしたら、大家さんの意向で、もうそこに人を入れる予定はないから、掃除もざっとやってくれたら良いよとのことだ。
きっとそうなるだろうと想像していたように、私がこの家の最後の住人になった。



それにしても、このタイミングでしもやけか、と少し気が沈む。
引っ越したらかかりつけの皮膚科から離れてしまうし、転居先で片づけや何やら手を冷やす機会は増えるだろうし。
しばらくはさまざまな手続きで駅まで自転車で二十分の道のりを何度もこいでいかなければならない。手袋を装備しても冷えこむだろう。

ところでこの状況で「手続き」とは、何だか面白いなあ。しもやけの手で日常を続けるための、煩雑なあれこれ。
なお、左手は無事である。なんでだろうと考えてみた結果、座ったときハロゲンヒーターが左側にあるからではと推測。そして右側には大きな窓があって、防寒対策でプチプチを貼っていてもすきま風が無遠慮に忍びこんでくる。
あとはベッドでスマホをいじるとき右手に持っていることも関係しそうだ。操作もスクロールなら右手の親指でできるのだし、左手に比べたらふとんの外に出ている時間は長いだろう。



最近は早朝までずっとそうやってスマホで調べものをしている。
引っ越しに関係するさまざまなこと。買う予定のものや、知っておきたいことや、とにかく次から次へと出てきて気づけばもう五時、最近、毎日そんな調子でいる。そして良く眠れない。四時間か五時間ていど。

今朝はついに夜明けを通り越した。ようやくスマホを置いて眠りについたのは、七時半。
九時に猫さんに起こされてごはんを差し上げてから二度寝しようとしたものの、うとうとしただけで十時には眠気が失せてしまった。
それでも昼まで横になって身体を休めていたが、頭の中はやはり引っ越しのことでいっぱいだ。



たぶん今、私はストレスを感じはじめている。

ストレスって何だろうと改めて考えてみた。
かんたんに言い換えるなら「くよくよしている状態」かもしれない。
きっと調べればもっとちゃんとしたことがわかるだろうけど、ちょっとあまり情報を取り入れすぎるのに向いている時期じゃない。
しもやけはもちろん寒さが最大の原因だとしても、ストレスや寝不足もまったく無関係ではないだろう。

あの部屋のどこに何を置こうか、どこにどんなものをしまおうか、ちゃんとサイズは合うかな、ああしてこうしてそうするとどうなの、暮らしにくいんじゃないか。
今度はアパートの角部屋だけど角部屋って寒い?夏は暑い?
メインルームを二間あるうち角部屋のほうにしようと思ってるけど逆の方が良い?でもそっちの部屋は窓が大きいから夏は陽ざしがすごそうだし、お隣の部屋と接していると猫さんがかわいいお耳でささいな物音を聞きつけちゃって疲れるだろうからやっぱりやめたほうがいいかな。
台所はどうしよう。押し入れはどうしよう。コンセント、足りるかな。ケーブル、届くかな。段ボール、ちゃんとうまく捨てられるかな。

そういうことを今からくよくよ案じたってしょうがない。

参考までに調べておいて良かったこともたくさんあるけども、実際に暮らしてみないことには何とも言えないことのほうがずっと多い。はず。

これまでの引っ越しってどうだったっけ、こんなに不安だったっけ、と思い出そうとしてみれば、大学に入ってから改めて引っ越したときなんか市役所で手続きを何もしないまま卒業まで居座っていた若さゆえの過ちに行き当たった。
住民票の変更すらしないでのうのうと生活していられたって、よくそんなことできたなと感心する。
あんなにいい加減でも何とかなったんだから、あれよりはちゃんとするつもりの今ならそんなに深刻にならなくていいでしょ、と思いたい。



マリッジブルー、マタニティブルーがあるなら引っ越しブルーがあっても良い気がする。
ムービングブルーだと何かつまらないからあえてダサい引っ越しブルー。しもやけは赤いけどブルー。

引っ越しまではだらだらしようともくろんでいたのに、あまりできていない。

そういえば私はせっかちなのか慎重なのか、何かをするときにはじめるまでの時間を持て余すことがとにかく苦痛なのだ。
たとえば人と会う約束をしたら四十分前に待ち合わせ場所にいたいし、そのために電車の時間もしっかり確認しておいて準備も前日にすべて済ませておいても、寝るまえから妙に不安。
予定より一時間も早く目が覚めてしまい、そうするとのんびり過ごすのもこの場合なら苦手だからさっさと駅に向かう。
そして四十分前どころか二時間ぐらい早めに到着し、ようやく安心して楽しみになれる。

たいていの外出がこのパターン。
仕事など定期的になれば違ってくるけれども単発的な用事は下手したら前の晩に急に風邪をひいたことにしてキャンセルしたいぐらいゆううつ。

もちろん誰かと遊ぶとか会うとか、話が出たときからうきうきしてるんです。
でも前の夜からブルーが上まわるんです。



次の引っ越し先なんて駅まで自転車で二十分とかどうなるんだろうと思う。
わかっていて決めたこととはいえ、道に慣れるかな。どこで曲がるかおぼえられるかな。うまく時間を読めるようになるのはいつかな。
というか雪が降ったらどうしよう。いや、歩けば良いか。いやいや、それはそうだけど、そうじゃなくて、引っ越しの前日に業者さんと下準備をするんだけど、不要物なんかを庭に出していくんだけど、その日に雨や雪が降ったらどうしよう。

さすがにそんなことどうしようって言ってもこればっかりは。

雪が降ったら?
引っ越し、一日か二日、延期すれば良いんじゃない?
そうだった。この家、一月末までの契約だから、まあ、遅れるなら遅れるで。
もし二月に突入しても、まあ、何とかなるんじゃないかなあ。
原因が天候や病気や、しょうがないことなら、しょうがないねってなるはずだし、実際しょうがないんだからしょうがない。



よし。落ち着いてきた。

忘れてたけど予定どおりに引っ越しできなくても死なない。
さいしょから綺麗できちんとした環境を整えられなくても死なない。
何か間違えたら訂正すれば良い。困ったら相談すれば良い。今の時点では知りようがない。

大丈夫。死ななきゃ何とでもなるから。
そもそもこの私がうまくやろうとするなんて、どだい無理な話なんだから、へたくそならではのやり方でいきましょう。

うん。落ち着いた。
今夜はよく眠れそう。



しもやけ、治らなかったどうしよう。
病院へ行けば良いだけのこと。はいおわり。ところで右手の薬指がぷっくらしてるから今やせちゃってゆるゆるの指輪をなくすことは絶対ないよ。ためしに外そうとした抜けなかったし。やったね。さすが私だ、ついてる。

そういえばそうだった。私は意外とくよくよするたちだけど、びっくりするくらい強運でもあるのだった。
そうだった。そうそう。そうだ。

きっと引っ越しの前後数日は快晴で温暖です。
私の移動にあわせてブルースカイが広がります。
局地的に神々しい月末となることでしょう。

それでは今夜の機嫌予報はここまで。
また明日。おやすみなさい。






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たかこ(旧いと)
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