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「妻くんといっしょ」サウンドトラック ービリー・ホリデイの声は、ドラえもんに似ているか?
7月2日に中村総一郎さんが主催するclubhouseに出た。「妻くんといっしょ」サウンドトラックと題して、私の新作「妻くんといっしょ」に出てきた音楽をかけた。時間の関係もあり、ほとんど作品の説明もできず、ただ曲を流す感じになったので、改めて解説したい。
タイトルは「妻くんといっしょ」サウンドトラックだが、副タイトルは「ビリー・ホリデイの声は、ドラえもんに似ているか?」
「妻くんといっしょ」に、妻くんがビリー・ホリデイを聴いて、ドラえもんの声に似ている、と言ったというエピソードがある。「妻くんといっしょ」サウンドトラックを選ぶのなら、まずこの曲だと思った。
本当にドラえもんの声に似ているかどうか、他の人にも聞いて、感想を言ってもらいたかったのだ。
さて、かけた曲の順番に解説していく。
① チャットモンチー 東京ハチミツオーケストラ(「東京ハチミツオーケストラ」)
「東京ハチミツオーケストラ」という短編の同名作品。この小説を書いたきっかけはシンプルで、2018年、チャットモンチーが解散して衝撃を受けたから。解散直後、過去アルバムを聞き直していた。ファーストの1曲目はやはりいい曲だなあ、と改めて思い、その感動を作品にしたかったのである。
その結果、できたのがこの作品。まあ、その感動が伝わっているかどうかは、自分でもよくわからないのだけど。
書き出しはこうだ。
私は自分に禁じていることがある。
居酒屋の店内で頭髪が薄い初老の男性がワシは甲子園に出たのだ、と自慢げにしゃべっている姿をたまたま目撃したのである。いまは野球をやっていないであろう人間が過去の栄光を吹聴する。その姿をひどくかっこ悪いと思ってしまったのだ。
そういう姿を人に見せたくない。そういうことをいう人間になりたくない。
そう思って以来、その約束を守っている。
私は高校から専門学校にかけて、ガールズバンドで、ギターを弾いていた。赤いギターで、レッドと呼ばれていた。ボーカルが超美形で、巨乳で、布の薄い衣装で過激なパフォーマンスを見せたこともあって、ネットでちょっとした話題になった。主戦場はライブハウスである。インディーズのレーベルから声がかかったこともある。
だが、専門学校を卒業するとき、進路について意見の食い違いがあり、解散した。
② フジファブリック 「ブルー」(「妻くんといっしょ」)
「アオハライド」という人気少女漫画がある。アニメ化され、映画化もされた(主演は本田翼)これはアニメのエンディング曲。アオハライドとは、「アオハル(青春)+ライド(ride)」=「青春に一生懸命乗っていく」という意味を込めた作者による造語」(ウィキペディア)
「妻くんといっしょ」のなかのサマーフェスに参加したときのエピソードに出てきた言葉。青春だなあ、と思うできごとに出会うと、私はアオハライドを思い出す。ちなみに、作者の咲坂伊緒さんはその後、やはり人気作「思い、思われ、ふり、ふられ」を描き、実写映画化。いまは「サクラ、サク。」を好評連載中である。
アオハライドのくだりはこうである。
隣にいた妻くんに聞くと、さきほどまで妻くんの隣にいた女の子二人組をナンパしていたという。そして振られた。それで、男たちはスクラムを組んだようだ。
「おれたち、最高だよな」
「お~」
そんな雄叫びが聞こえてくるようだった。
青春だなあ。少女漫画のたとえで申し訳ないが「アオハライド」である。
まあ、ナンパに失敗しただけなのだが。
③ マイルス・デイビス フットプリンツ(「フットプリンツ(足跡)」)
マイルスが黄金のクインテットと呼ばれた時代の楽曲。マイルスが最高のメンバーを得て、音楽の頂点をめざしていた時期の作品である。作曲はウエイン・ショーター。私はこの曲が好きだったので、小説とは直接関係がないが、タイトルにした。
呼び止められて、振り返った。誰もいなかった。墓石に雪がしんしんと降りつもっている。
池袋、雑司ヶ谷霊園は、夏目漱石先生のお墓がある場所である。永井荷風先生や泉鏡花先生も眠っている。
ある日、私は漱石先生の小説を読み、激しく感動した。その勢いのままお墓参りをすることにした。
小説家志望である。高価な万年筆と原稿用紙をしこたま購入し、机に向かって初めての小説を書いている。構想を練らないで書き始めたせいか、たびたび行き詰まる。そんなときはアパートから出て、目的も決めずに歩く。広い道路に突き出る。やや離れたところに信号機が見える。私はせっかちな性分なので、そこまで歩くことをせず、左右を見て、車がきていないことを確認すると、道路を横断する。それが当たり前になっているのだ。
私は猫だ。無鉄砲な猫だ。
④ クラフトワーク ポケット・カーキュレーター」(「東京山脈少女」)
私はテクノやテクノポップが好きで、小説によく出している。ここの記述はこうだ。
私の心にそっと語りかけてくるような優しいメロディだった。私は音楽に関心がなかったのに、思いがけず立ち止まった。ガラリ。私は音楽室のドアをあけた。そして、ピアノを弾いている男子を見た。髪は短く、からだを揺らしながら、真摯にピアノを弾いている顔つきがかっこよく見えた。いまから考えれば、その曲を作ったのは先輩ではない。先輩はピアノを弾いていただけだ。でも私はその二つをうまく分けて考えることができなかった。
「心に響きます」
私はおずおずと近寄るといった。
その男子はバンド名と曲名を告げた。その男子は嘘をついたわけではない。私が勘違いしただけだ。美しい曲をピアノで弾くことができる人間は純粋な魂を持っている人間だと。
「知っている?」
男子が聞いたので、私は首を左右に振った。
「原曲はテクノポップなんだ」
テクノポップという音楽ジャンルは初耳だった。
バンド名は明示されていないが、私の頭のなかではクラフトワークの曲が鳴っていた。
⑤ ソニック・ユース 「ピース・アタック」(「タイガー・タイガー」)
「タイガータイガー」の書き出しはこうだ。
ニルヴァーナやパール・ジャムが大好きな十代後半の女の子がいた。女の子にロックスターとしてのカリスマ性はない。音楽好きの平凡な女の子だったが、ソニック・ユースが好きな男の子と出会って、バンドを結成した。
バンド名はタイガー・タイガー。二人が好きだった小説からバンド名を取った。小説の原題はTiger! Tiger! !が付いているが、主に単語のリズム感の観点から!を省いた。他意はない。
女の子は男の子に対して好意を抱いていたが、強い恋愛感情はなかった。男の子も同様である。音楽に限らず、興味の対象の方向性が似ていた。話をしていても、おたがいのこまかいところまでわかってしまうのである。
ニルヴァーナやパール・ジャムも出てくるので、それらのバンドでもよかったのだが、私はソニック・ユースにした。やはりソニックユースが大好きだから。これは9.11に触発されて書かれた曲だそうだ。アルバム「ソニック・ナース」収録。
偉大な
偉大なアンチ憎悪のこと
春は戦争の季節
犯罪のボスにすべての目が注がれる
エレクトリック・ギターの弦
勇気が花開く
(訳:沼崎敦子)
エレクトリック・ギターの弦
勇気が花開く
と言うフレーズが感慨深い。ミュージシャンとして、エレクトリック・ギターの弦で、戦争には対抗するのだ。そうすれば、
「勇気が花開く」。
⑥ ビリー・ホリデイ love come back to me
⑦ ビリーホリデイ ビリーズ・ブルース(「妻くんといっしょ」)
これらがかの問題の曲である。果たしてドラえもんに似ているか、聴いた人の感想が知りたい。
⑧ 矢野顕子 ラーメンたべたい(「妻くんといっしょ」)
矢野顕子さんの名曲である。アルバム「オーエス オーエス」に収録。1984年の曲だ。何百回聴いたか、知れない。
男もつらいけど 女もつらいのよ
友達になれたらいいのに あきらめたくないの
泣きたくなるけれど
わたしのこと どうぞ思いだして
この歌詞が好きだ。
この曲が入ったエッセイは、池袋のラーメン事情を綴ったもの。ラーメンを食べていると、いまでも脳内にこの曲が聴こえることがある。たまにね。
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![緒 真坂 itoguchi masaka](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/129786147/profile_8b0cb2ebe27489aa70617ff07ef916d4.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)