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物語に成れなかった言葉たち。
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#創作

輪郭

輪郭

風を撫でるように思い出の輪郭を辿った。

今、頭の中には君と過ごした、
吐き出した言葉たちが泳いでいる。

ふたりの秘密。
それを投げ掛けては、
知らないふりして薄く跡を残している。

同じ場所を、何度も何度も。
ゆっくりと刻みつけて、
深い溝になるように。

言えない言葉の代わりに、
目の前にない、君の輪郭に触れた。

ミンミン蟬

Twitter300字ss
第七十一回 眠

 ミンミン蟬の鳴き声を聞いてはいけない。

 そんな話を祖母から聞いた。冬の寒い山奥では、季節外れの蟬が鳴くという。

 一緒にいた姉は可笑しげに鼻で笑った。
「蟬は夏の生き物よ。そんな事あるわけない」

 僕もそうだと頷いた。この時までは確かにそうだと思い込んでいた。


 ーーみ゛ぃィいんン、み゛ミ゛ィぃいぃん 
 四方の木々が蝉のような鳴き声

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種子

肉体の死は己の死だと、
人は容易く受け入れる。

皮に入った魂よ、
箱が無ければ失せるモノよ。

その身 如何に汚されようと、
その実 如何に堕とされようと。
種と言うべき心が在れば、
空高く跳べさえするだろう。

実りの末が腐るのみとして、
種子は永遠に語られよう。
嘆きも喜びも得たその先が、
お前の種にも実ることを。

灰殻

誰かの願いが降ってやまない

お腹がぐずぐず燻ってる

あなたのことばが欲しいのだ
私の内を荒らして去った、

素知らぬあなたが欲しいのだ

ここにあるのは深い溝だけ

あなたとあるのはこの溝だけ

どうにも悔しい気がするのは

きっと私だけなんでしょ

後にも先にも散らばった心を

拾い上げることすら出来なかった
今日という日を

忘れやしない

忘れるものか
#詩 #創作 #雑文

ノンエンドロール

続く。何だろうと続いていく。
明日も明後日も明明後日も。
悲鳴を上げた夜だって、明ければただの新しい朝だ。

コンテニューされない日々の中、見えない嗚咽をばら撒いた。
灰色の空を、ビルの細い隙間から見上げる。
この狭さがぼくの世界だ。
喧騒に身を埋めて自己を希釈すれば、
ほら、なんて事ない棒人間だ。

さよならさよなら、かつてあった筈のぼく。
おはようおはよう、カスタマイズされたぼく。
ぼくは死

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ユメノクニ

おもちゃ箱の中は楽園だった。

柔らかい服、甘いお菓子。
みんなみんな、おんなじ顔でしあわせそうに微笑み笑う。

手を取り合って、行こうよ、夢の国。

ふしあわせなんて知らないわ。

幸福だらけの箱庭で、一体何が不満というの?

棄てられるまで、だあれも知らない。

いつか見るのよ、外のガラクタを。
#雑談 #ss #短編 #創作 #詩