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適切な「怒り方」で怒る

私は滅多なことでは怒りません。
イライラしていることはしょっちゅうあるように自覚していますし、それが態度に出ることはあると思います。なんというか、話しかけづらい近寄り難いオーラのようなものが出ている時があるらしく、あ、今怒ってると思ってみんな見てるだろうな、とは思います。

少し前に私の考えるアンガー・マネジメントについて書かせていただきました。

私の場合は、怒りやイライラは抑えつけたり我慢するのではなく、自分の中で受け流すことで緩和してゆくようにしています。つまり、怒りが湧いてきた時点で自分をコントロールして他者に対してそれを向けないようにしているのだと自己分析しています。

そんな私でも、他者に対して怒らないといけない時には怒ります。
そして敢えて怒るからにはそれ相応の覚悟を持ち、相手の行動の変化に繋げるような怒り方をします。

怒るべきとき

怒らないといけない時には怒る、と書きました。
大抵の場合には自分の中から湧き上がってくる怒りは受け流すか、表に出すとしても笑い飛ばして心のゴミ箱に放り込むような感じにはなります。
そうですね、自分が被害者になってしまっていたり理不尽だなと感じたことなどは殆どそういう処理をして、「大したことじゃないよね」と自分の中で片付けているかもしれません。

誰かに対して怒りを伝える時は、相手がやってはいけないことをした時だと思います。例えば、ルールを破ったり、約束を守らなかったり、人を(意図せずとも)傷つけていたり…
人事の仕事をしていると、規則を守らない人や、ハラスメントや心無い言葉で人を追い込む人に出会します。そう言う人に対して介入をして行動を変えてもらうために面談する場面も少なくありません。

そのような時はもちろん、怒鳴ったり罵倒したりせずに冷静に対処するのですが、それでもこちらの怒りが伝わるように意識はします。
理屈だけでは人を押さえるのは無理があります。ある程度の恐怖や脅威を感じ行動を変えないといけないという危機感を持ってもらわないといけないので。

これに加えて、相手が怒っている時に「怒ってる相手に対して怒りを伝える」ことはあります。
その目的は怒りを収めてもらうところにあるのですが、やっていることは他者の怒りをマネジメントすることになってるかもしれません。
相手の怒りを鎮め、冷静に語り合える状態になれるところまで持ってゆくために、相手の怒り以上の大きな怒りが相手に伝わるようにします。

ここでいう「大きな怒り」とは、相手がいかにつまらないことに怒っているのかを気づかせるために、もっと大切なことを相手が損なわせていること、傷つけていることを分からせるための「大義」に近いかもしれません。
例えば、自分の立ち場をわきまえずに我儘がきかないことを怒っているマネジメントがいたとすると、それに対して「あなたが今周りからどのように映っているのかわかりますか?」とビシッと伝えるような場面をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

両者に共通することとして、カッと来ても一拍おいて自分に問うことが必要だと私は思います。
「ちょっと待て、今本当に怒るべき時か?」

胸の辺りがザワザワしたり、頭に血が登ってきてるような体の反応が起きてきたら、(ああ、今自分は怒りを感じているな)と自覚はしますけれど口では、
「ええと、ちょっと待ってください。これってこう言うことですか?」
と言う言葉を発し、相手の主張を受け止め整理する過程で自分の情動を受け流し、それがそのまま表に出ないようにはしています。
呼吸を整えることも同時にしているかもしれません。

そうしながら、これは怒るべき時だなと冷静に判断できたら怒る準備完了です。

コンフロント

NLPを学んでいた時に「コンフロント」と呼ばれる、人との向き合い方を知りました。
英語のConfrontには「直面する」とか「対峙する」、「対決する」といった意味があります。
名詞になるとConfrontationとなり敵対的な対立状態のことを指すことが多いです。
語感からして、それなりの覚悟をもって相手に向き合う状態のことを言っていることがわかりますね。
私なりにこのやり方の印象から言葉を定義すると「冷たい怒り方」。

NLPのセミナーで、アシスタントやサポート・リーダー、あるいはトレーナーとして入っていると受講者に対してコンフロントを行う場面が稀にありました。
それは主に、セミナーの場に相応しくない行動を起こした場合、合意しているセミナーのルールに違反した場合です。
「やってはいけない」と言われていることでもちょっとぐらいはOKと思われないように、相手と正面から向き合い、相手の行動や認識を変えてもらうために行うのがコンフロントです。そうやってルールに厳格さを持たせる意味もあります。

コンフロントの流れを簡単にまとめると以下のようになります。

1)周りから隔離された静かな場所を用意し、相手にそこにきてもらう。
2)相手の真正面に自分を置き、相手のパーソナルスペースギリギリの距離をとる。この時お互いに座っていても、立ち話でもOKだが、姿勢を正して真っ直ぐ向き合い、相手の目を見る。
3)ラポールを切る
4)相手が行った行動について、こちら側がどのように見えたのかを伝える
5)自分たちが共有していたルールについて質問し、理解を確認する
6)相手の行動の意図を聞く。その意図が正しければ認め、間違っていればそれは正しい意図と言えるかを問い糺す。
7)相手の行動が作り出した結果について聞く
8)その結果によって相手が得たもの(メタ・アウトカム)を聞く
9)その結果によって相手が失ったもの(メタ・アウトカム)を聞く
10)その事で今気付いたこと、思うところをを聞く
11)これからどうしてゆくか(行動変容)について聞く
12)行動変容の結果もたらされるアウトカムを聞く

習った時のオリジナルから私なりに手を加えています

相手の行動にはそれに至る理由(意図)があります。
しかし、意図や目的を叶えるための行動が必ずしも正しくない、あるいはルールにそぐわない事はあります。
それを分かってもらうために相手に向き合う方法がコンフロントです。

このコンフロントの最も重要なパートは、文字通り「向き合うこと」事です。
決して、そっぽをむいたり斜に構える事なく、正面から相手と向き合う…

それはある意味で、相手を尊重し、受容する用意があると言う事でもあります。
しかし、全てを受容するわけではありません。
相手の中にあるであろう「肯定的な意図」だけを受容する…そのために向き合います。

なので、上記のプロセスの中では2)と3)がとっても重要です。
正面に座り、相手の目を見て話しかける。これは基本です。緊張感は走るかもしれませんが、ただ事ではないことが相手にも伝わります。
冒頭で少し述べたオーラが出てるかもしれません。

そしてラポールを切る。
ラポールはフランス語のRapport、「橋を架ける」からきている心理学用語です。相手との精神的な繋がり、共感のようなものだと考えるとわかりやすいかもしれません。
具体的には相槌を打ったり、相手の反応に合わせてこちらの表情を変えるのではなく、淡々と機械のような話し方をするようなイメージです。

ラポールを切る効果は、その人との普段の関係性で変わってきます。
普段柔らかくニコニコと優しげに話し合っていた人が、真正面で冷淡な顔をしているのを見るから相手が「ただ事ではない」と思います。つまり普段のやり取りとのコントラスト(濃淡や切り替え)があることが大事です。
なので、一度も話したことがない人とコンフロントする際には、初めはラポールをかけるところから始めます。そして、いきなり切るのです。

文章でどこまでこのニュアンスが伝わるのかなぁとは思いますが、これを真正面からやられるとかなり怖いと相手は感じますし、私も実際にロールプレイで怒られ役をした時にはかなりビビりました。
そして、実際にコンフロントをする場面で実践した際には、相手は涙を流しながら謝ってきたと言うようなことが起きました。

その強烈さを知っているからこそ、私自身は滅多にコンフロントは使いません。
それでも湧き上がってくる怒りはありますので、セルフ・コントロールをきっちりと意識し、使うべき時を選べるようにしています。

怒りによって追い詰めないこと

コンフロントに加えて、怒った時に私がしているのは相手を追い詰めないこと。
やってはいけないことをしたとしても、その後その人が更生することを妨げたり見放したりはしない。更生することを信じて応援をしてゆくこと。
端的に言えば、怒った後のフォローアップです。

たとえコンフロントが上手くいったとしても、それが相手に恐怖を与えるだけであったり、後になって却って怒りを増幅させたのでは何の意味もありません。
私が怒りの連鎖に加担してような形になるのは何としても避け、怒りを断ち切るためにできることをすべきでしょう。

なので、相手が自分の行動を変えるというコミットをしたら、その行動を承認し応援することをします。
具体的には、述べてきたコンフロントのプロセスの12番目の後に、6番目に出てくる相手の意図、それも肯定的な意図を繋げることになります。

「あなたは意図していたこと、大切にしてることがあるのだから、それが相手にも伝わる伝え方をしましょう。あなたにとってそれが大切なのは私は理解できるし、それが相手に曲がって伝わってしまうのはとてももったいないと思う。だから、伝え方、やり方を先ほどおっしゃっていたように変えてみてください。そして、その結果についてぜひまた聞かせてください

これをフューチャー・ペーシング(Future Pacing)と言います。
相手が行動を変えたことで、自分の大切にしているものが守られていることのイメージを持たせ、それによって行動をとるの効果への確信につなげます。

その人を怒りから解放し、前向きに未来へと歩んでいけるようにする…
そう。最後は怒りの終わりを共に作り出してゆく、怒りのエネルギーの出口を未来への道筋として作ってゆくと言うことなのかもしれませんね。

以前のnoteでも書きましたが、怒りは人間にとって最大のエネルギー源だと私は思います。そのエネルギーの平和利用のためにも、コンフロントとフューチャー・ペーシングは有効なのではないかな、と思います。

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