1円玉の旅ガラス
博報堂が出版する雑誌『広告』が2019年7月にリニューアルした際に、「価値」について様々な視点を投げかけることをテーマに、雑誌を1円で販売しました。1円なのに680ページという分厚さにしっかりとした記事という不可思議さ。1円だとそもそも取引する店にさえ利益が出ないため、普通の本屋ではなく限られた流通経路で販売され、販売部数も1万5,000部ほどだったので、一時期ネットオークションでは随分高額で取引されていました。
1984年の創刊から70年以上の歴史をもつ大手広告代理店出版の本で、新しく編集長に就任すると同時にこんなパンクな企画を仕掛けたのが、小野直紀さん。独立起業することなく、広告代理店の中でプロダクト部門を立ち上げて、ものづくりを行う・・など革新的なお仕事をされてきた方です。
『会社を使い倒せ!』という本のタイトルそのまま、どうすれば社内にいながらイントラプレナーシップを発揮し、尖った企画を上司や会社を納得させて実行させられるのかは、この本の中で語られています。印象に残ったのはフリーで働けば自由はあるけど、結局デザイナーだったら誰かに企画提案し実現させていく流れになるのは、企業内にいても同じ。だったら大きな組織の中で、より社会的インパクトがある方法論で行動しようとする作者の姿勢。
なお、2021年2月に出版された415号では『流通』をテーマに、その本が書店に並ぶまでの全250種類の流通経路を可視化する、というように攻めの姿勢は相変わらずです。
1円玉といえば子どもの頃NHKだったかな、で流れていた童謡に「1円玉の旅がらす」という歌がありました。最近はキャッシュレス化が進みコインを使うことはどんどん減ってますが、この歌がでたのは消費税が導入された時だったんですね。
会社を使い倒せ!(2018年、小学館集英社プロダクション、小野直紀)