見出し画像

12/11【L】ロングコート・マミー - 12日目

文章を書く習慣を取り戻したくて、11/30からABCを頭文字にしたエッセイを毎日書いています。(予約投稿の場合もあり)

#26文字のアドベントカレンダー

あらかじめの注意喚起だが、こちらは学生時代の恩師のお葬式に行った時の話で、漫才コンビのロングコートダディとは全く無関係である。ただの語感で紛らわしいタイトルをつけてすみません。

11月の小春日和。
学生時代の恩師が亡くなったという報せがLINEで届いた。
お世話になっていた学生時代にすでに70代で、亡くなった時には90代。
病気やけが、事故などではなく老衰だったそうだ。

同期と後輩の4人でお葬式に行くことになった。
在宅勤務にしていた会社を15時で退勤し、香典袋を買いに出かける。
11月の下旬にしては暖かい日で、「半袖でもいいくらいだな」と思いながら、コンビニへ向かう。
家に帰って久しぶりに喪服を着る。
一張羅の喪服は黒い7分丈のワンピースだった。
そういえば前に葬式に出た時は夏だったから。

まあ、半袖でもいいくらい今日は暖かいし…

16時になって、家を出た。
数メートル歩いてから気づく。思ったより肌寒いな。
駅までの1キロほどの道のりで寒さがじわじわと体にしみ込んでくる。
歩きながら「失敗したな」と呟く。

上着を着なかったのは昼の陽気で油断をしたせいだけではなかった。
手持ちのコートがキャメルの明るい色か、薄手のベージュのトレンチコートしかなかったのだ。
今日は暖かいし、どちらのコートもいい歳の私がお葬式に着ていくにはふさわしくないし…と思い、そのまま家を出てしまったのが間違いだった。

駅に着く頃には、本格的に体が冷え切っていた。
改札を通りホームで電車を待っていると、冷たい風が吹き抜ける。
体が震え、さらにお腹まで痛くなってくる始末。
寒さに加え、緊張もしていた。

「このままじゃ、もたない…」
途中のターミナル駅で少し時間があることを思い出す。
駅ビルに入れば、きっと何かしら防寒具が見つかるだろうと期待を胸に、目的地までの道中で対策を考える。

改札を出て駅ビルへ入ると、少しホッとした。
エスカレーターで上がっていくと、目に飛び込んできたのはきらびやかな高級ブランド。「いやいや、今はそんなのいらないから…」と内心突っ込みを入れる。

ストール一枚でもいいから、と思って店を覗くが、並んでいるのはシルクやカシミアの高級品ばかりのようで、値段を見て一瞬目を疑った。「ストールに5万円…」

冷え切った体で悩む時間が惜しく、さらに上の階へと向かう。
しかし状況は変わらず、高級ブランド店が続く。
「5万円のストールを買うべきか」と本気で悩み始めた自分に気付く。
冷静になれ…。
そんな自分が少し滑稽にも思えた。

エスカレーターをさらに上がると、ついに目に飛び込んできたのは無印良品の看板だった。「助かった…!」思わず心の中で叫ぶ。店内に入り、すぐにアウターのコーナーを探す。見つけたのはシンプルな黒のロングコート。値段は9000円。これなら買える。「むしろ、これ以上の選択肢はない」と即決。試着もそこそこに、レジへ向かった。

購入したばかりのコートの値札を切ってもらい、その場で羽織った。
(喪服で顔色の悪い女の奇行に無印良品の店員さんも驚いていたかもしれない)

再び改札を通る頃には、体が暖かさを取り戻していた。
さっきまでの震えが嘘のようだ。
電車に乗り、待ち合わせ場所へ向かう間に少し落ち着いた。
無印のロングコートで明らかに「防御力が上がった!」のを感じた。

お葬式は多くの人が集まる、温かみのある式だった。
久しぶりに再会した同期や会場で合流した先輩たちと、恩師の思い出話に花を咲かせた。感謝の念が胸にこみ上げる。

教訓
帰宅後、改めてコートを眺めたが、この先も使えそうなシンプルなデザインと、手頃な価格に大満足だった。
そして、ふと頭をよぎるのは「40代になった今、黒のロングコートを一着は用意しておくべきだった」という反省。

お葬式のたびに着るものに慌てる自分に終止符を打つためにも、この黒のコートを大切にしよう。そんなふうに思った。

※タイトルの素敵なイラストはchatGPTです

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集