エッセイ | 気まずいエントランス
マンションのエントランスは気まずい空間だ。
私は家に帰る時に「目の前を歩く人が同じマンションの住人ではないように」と祈りながら歩いている。マンションの敷地へ入っていかないでくれ、ポケットに手を突っ込み鍵を取り出さないでくれ、などと考えてしまう。エントランスに一緒に入りたくないからだ。
私の住んでいるマンションのエントランスは狭い。お茶を立てるくらいであれば十分な広さではあるが、見ず知らずの住人同士が一緒に入るには狭い。その上、エントランスにはポストとオートロックキーがあるため、先にエントランスに入った人の行動を待たなければならない。
ポストから郵便物を取り出しているのを待っていると「部屋番号をのぞかれているのではないか?」と疑われるかもしれないと思ってしまう。また、先に入った人がオートロックキーを解除し、それに続いて私が入れば「住人ではない人が入ってきたのではないか?」と怪しまれるかもしれない。
そんなことを考えてしまうため、私はエントランスに誰かが居る場合は、エントランスの5m手前くらいで立ち止まり、相手がいなくなるのを待つ。
逆の場合もある。私が先にエントランスに入っているパターンだ。
マンションの敷地に入り、エントランスへ向けてゆっくり歩いていく。その時にエントランス内部を見て人がいるかどうかを確認する。いなければそのままエントランスへ入るのだが、開き扉を閉める時に一瞬だけ後方を確認する。そうすることで後続がいるかどうかも確かめる。
後続がいればオートロックを解除してマンションへ入るが、いなければポストの中を確認してからオートロック解除の流れになる。
こうするとエントランス内で人と一緒にならない。私が嫌な体験を人にもさせないように配慮するのだ。
最近、困ったことが起きた。
エントランスに向かって歩いていると、エントランス内に人影が見えた。
「ポストの確認をしているようだから、ゆっくり歩いていけばそのうちマンション内に入っていくだろう」と考えながら、歩く速度を遅くして近づく。
だがエントランスの手前についてもその人物はまだエントランスにいた。どうやらポストから郵便物が落ちてしまい、拾い集めているようだった。
「長い間郵便物の確認をしていないとこうなるんだよな」と共感しながら、私は少しエントランスの手前で待つことにした。
スマホを取り出して画面を見ようとした時に、後ろから人が来るのが画面越しに見えた。この状況はまずい。エントランス前で立ち止まっている人なんて怪しすぎる。
私はその一瞬でエントランスへ入るかどうかを考えた結果、屋外階段の門扉からマンション内部へ入ることにした。
私も郵便物を確認したかったし、エレベーターで上がりたかった。だが、気まずい空間で板挟みにあえば諦めるしかない。マンションのエントランスは気まずすぎる。
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