
エッセイ | 丸かじり
子どもの頃はリンゴを丸かじりするのが夢だった。片手ではちょうど持てないくらいの大きさで、両手で持っていたくらいの歳だ。
まるまる1つはおなかがいっぱいになってしまうからダメだと言われ、切ってもらったリンゴを2切れほど食べていた。
リンゴを片手で持てるようになった頃、ついに丸かじりするチャンスが訪れた。家にたくさんのリンゴがあり、消費するスピードが痛んでいくスピードに追いついていなかった。そのため、おやつとしてリンゴが出てきたのだ。
丸かじりした感想は「思ったよりもおいしくない」だった。皮は独特な青臭さがあるし、間違えて種を食べるとイガイガして耐えられない。普通に切り分けて食べた方が何倍もおいしかった。
この前、友人からおすすめされてアイスクリーム屋へ行った。小さな店舗のお店ではあるが、素材にこだわっているそうで品数自体は少なかった。
ピスタチオのアイスクリームがおいしいと事前に聞いていたため、それは食べたいと思っていた。他にもいちごのソルベがおいしかったそうだが、期間限定のため私がいく頃には売っていないかもしれないと忠告を受けた。
実際にお店へ行ってみると、やはりいちごのソルベはなかったのだが、その代わりにリンゴのソルベがショーケースの中にあった。
行った時間帯が昼食どきの直後であったため他にお客はいなかったのだが、ショーケースに入ったアイスクリームはすでに残りわずかだった。
私はピスタチオのアイスクリームとリンゴのソルベを注文した。アイスクリームが入ったカップを受け取ると、イートインスペースにある椅子に腰を下ろす。
ピスタチオのアイスはピスタチオの香りと濃厚な味がたまらなかった。これはいつまでも食べ続けられる甘さで、カップと口の間を何回もスプーンが行き来してしまう。
次にリンゴのソルベを食べてみる。ピスタチオのアイスクリームとは対照的でかなりサッパリしている。ピスタチオと比べると甘さはほとんどない。
だが、しっかりとリンゴの味はする。香りも味もリンゴそのもので、野趣のある味わいがしてどこか懐かしい気持ちになった。
アイスクリームを食べているとお店のドアからお客が入ってくる。そのお客はだいぶ悩んでおり、スタッフに何がお勧めかと聞いていた。
スタッフはひととおりアイスクリームの説明をし、最後にリンゴのソルベの説明をした。
「リンゴのソルベは季節限定です。使用しているものはリンゴのみで、甘すぎずサッパリとして食べやすいかと思います」
聞き耳をたてていた私は驚いた。この甘さはリンゴのみだったのか。それだとしたらかなり甘い。
ソルベの所々で見える赤いものはリンゴの皮で、リンゴを丸ごと使用している証だったのだ。
また一口食べると幼い頃に丸かじりしたことを思い出し、懐かしい香りが鼻から抜けていった。
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