義母と催眠商法と私
夫から、
「母ちゃんがなにやら怪しい電気の椅子に座る無料体験に毎日行ってるから、できたら一度一緒に行ったってくれへん?」
と頼まれた。
ん?
なんだそれは?
そういえばたまに無料体験ののぼり旗が立っているところに高齢者が集まっているのを見かけたことがあるけど、ああいうやつのことか?
夫曰く、義母は友達に誘われて行き始めてから毎日足繁く通っているらしい。
「あんなの怪しすぎる。ネズミ講みたいなもんや。高額商品買わされかねん」
と夫は警戒心MAXだ。
だったらあんたついて行ってやんなさいよ、と思ったが、夫は夫で土日は畑仕事などで忙しいので、ここは私の出番だなと黙っておいた(夫は平日はゴリゴリのサラリーマン、土日は農作業の休みなし人間なので)。
帰宅した義母に声をかけると、義母の方から無料体験の話を振ってきた。
「体にいいからマリーも一度行ってみな。私も足が悪かったけどずいぶん歩きやすくなったんや」と。
そんなことがあるのだろうか?
とりあえず義母の話に耳を傾けた。
・毎回電気の流れる椅子に座りながら健康のためになる話が聞ける(ほう)
・足がずいぶん楽になって歩きやすくなった(へぇ〜)
・病院の薬は石油でできている(ん?)
・血圧の薬を飲むのをやめた(えっ!?)
・血圧が下がってきた(ほんとに?)
というようなことだった。
無料体験に行っているだけならともかく、お医者さんに出してもらった薬を勝手にやめてしまっているのはよろしくない。
とりあえず聞き役に徹し、聞き出した話を夫に伝えた。
夫も薬を勝手にやめていることは知らなかったようで驚いていた。
義母は会場で聞いてくる話を信じきっていて、なかなか夫の話に耳を傾けてくれないそうだ。
夫のことだから、
「そんなとこへ行くな!なんで無料なんかを考えなあかん。商品を買わせるためやろ!」
といった感じでズバズバ義母に言っているのだろう。
なので、私は義母を否定しない立場に徹し、情報を聞き出す役目をすることにした。
血圧の薬を勝手にやめてしまったことが心配だったのと、義母にどのようにして薬をやめたいと思わせたのかが知りたくて、偵察に行くことにした。
その前に少し予備知識を入れておこうと思い、いろいろググってみた。
夫が言っていた電気の椅子というのは、どうやら電位治療器と言うらしい。
そして我が家と同じように親御さんが無料体験にハマったという方や、高額な電位治療器を購入してしまった方がいた。
そもそも電位治療器とは
そして、電位治療器について調べていると催眠商法(SF商法)という文言が現れた。
催眠商法(SF商法)とは
え。
義母が話している感じにそっくりなんだけど。
だとすると、やっぱキケンかも。
いざ、体験会場へ
予備知識を叩き込みアンテナをビンビンに張り巡らせていたが、義母の前では単純に無料体験に興味がある体で接した。
義母と一緒に会場に着くと、たくさんの人が集まっていた。
見渡す限り全員70代、80代に見えた。
40代の私は完全に浮いていた。
会場の中に入ると、ズラリと椅子が所狭しと並んでおり、それぞれの椅子の横に機械が設置されていた。
義母は慣れた様子でその椅子に座る。
私も義母に倣って座った。
「椅子に座っているもの同士で触れ合ったらあかんで。電気流れてるから」
と義母に言われ、ちょっと緊張した。
機械の電源がオンになっていることはわかったが、電気が体を流れている感覚はわからなかった。
定刻になると、スタッフのお兄さんが前で話し始めた。
お兄さんが、
「今日初めての方いらっしゃいますか?」
と参加者に声をかけたので手を挙げた。
するとお兄さんが参加者に、
「拍手でお迎えしましょう!」
と言うと拍手が湧いた。
その後、お兄さんが私に近づいてきて、
「今日は誰のご紹介で?」
と尋ねてきたので、
「姑です」
と答えた。
「どのように勧められましたか?」
「体にいいので一度行ってみたら?と」
すると隣りに座っていた義母に、
「どんな感じで勧めてもらいました?」
と話を振った。
「いっぺん行ってみたら?体にええで、と」
するとお兄さんが、
「勧めてもらったお義母さんに大きな拍手」
と言ったので会場内からまた拍手が湧いた。
スライドを使って説明が始まると、まず電位治療器の効能について「頭痛、肩こり、不眠症、慢性便秘の緩和」とさらりと説明した。
予習しておいてよかった。
これは家庭用電位治療器に表記が認められている効能だ。
すると初体験の私に話を振られ、
「何か健康で気になることはないですか?」
と尋ねられたので無難に、
「肩こりです」
と答えた。
すると参加者に、
「ここに通うようになって何かしら体調がよくなった人?」
と尋ねた。
するとまあまあの人が手を挙げた。
次に、
「肩こりが良くなった人?」
と尋ねると、何人か挙手していた。
「通ってもらうと効果が表れてくるので、 みなさんがんばって来てくださいね!」
と参加者に呼びかけていた。
次に、参加者にスタンプを押すためスタッフのお兄さんたちがひとりひとりに声をかけながら回っていた。
明るくて元気な楽しいお兄さんと話ができたら高齢の方たちは嬉しいだろうな、と思った。
その後は、ストレスの話、水質汚染の話、食品添加物の話など、不安を煽るような話の中にユーモアを交えて言葉巧みに説明していた。
水質汚染の話では水道水の成分の話をしつつ、この会社の浄水器の性能の良さを説明していた。
食品添加物の話では、体の巡りを良くして害のあるものを排出しましょうと話していた。
これはこの電位治療器の「慢性便秘の緩和」につなげるための説明だな、と感じた。
最後に、
「自分たちは一切勧誘はしません。 ただし皆さんには宣伝をお願いしたいんです。大切な人にこそ教えてあげてください」
と締めくくっていた。
私が感じた問題点
・スタッフのお兄さんを「○○ちゃん」と呼び、親しみを持たせている。優しくて話が上手で面白い。また一生懸命に見えるので、お兄さんの言うことなら…と信じてしまいかねない。
・参加者に拍手をさせ、紹介したこと参加したことがとてもいいことに思わせている。
・家庭用電位治療器の本来の効能は「頭痛、肩こり、不眠症、慢性便秘の緩和」のはずなのに、何かしら効果があった参加者に手を挙げさせることで、いろんなものに効果があるように感じてしまう。また、これはあくまで参加者の感想であって、スタッフは電位治療器の効能以上の説明はしていない、と主張することができる。
・「みなさん頑張って来てくださいね」と健康のために参加することが良いことだと思わせている(本当に体にいいのかもしれないが)。毎日参加させ健康講話を聞かせ続けることで信じ込ませる(洗脳する)ことができる。
・嘘は言っていないのかもしれないが、説明が不足しているために必要以上に不安を煽っている(例:薬は石油でできている、など)。
・期間限定の店舗であるため、閉鎖してしまうと電位治療器を使用できないという不安が生まれ、購入してもいいかもと思ってしまう可能性がある。
・一切勧誘はしないと言い切ることで、強引な勧誘には当たらない。
これらのことから、これは催眠商法(SF商法)なのでは?と感じた。
(あくまで個人の感想です)
電位治療器の値段
義母が後日もらってきたパンフレットを見せてもらったら、とんでもなく高額で「はぁ⁉」と思わず声が出た。
「一番人気のセット商品」と書かれていたものは、私の欲しい軽自動車を新車でフルカスタムしても余裕でおつりが来る値段だった。
機械単体でもウン十万とかなり高額で、とてもじゃないが庶民がホイホイ買える値段ではなかった。
これらの高額商品を年金で質素な生活を送っている高齢者に販売するのは、いくら良い商品であったとしても、売り方が良心的ではないと思った。
その後
義母は無料体験会場へ行くのをやめた。
高血圧の薬を勝手に止めてしまったために血圧が上がってきてしまい、夫にこっぴどく叱られたのだ。
義母が、
「マリーももう行ったらあかんよ」
と忠告してきたので、
「わかった。やめておくね」
と話を合わせておいた。
そして、
「あの機械、めちゃくちゃ高いんやなぁ。車一台余裕で買えるやん。あんな高いの誰が買うんやろねぇ」
とさりげなく批判しておいた。
我が家は幸い高額商品を購入せずに済んだが、ひょんなことがきっかけで無料体験会場に足を踏み入れてしまうことがある。
義母もきっかけは「友達」だった。
我が家のように敷地内同居をしていたら親の動向もある程度把握できるが、離れて暮らしているとなかなか掴みづらいと思う。
他愛もない会話ができる関係を築いておかないと、思わぬ損害が出かねない。
親御さんと話ができる貴重なお正月はもう過ぎてしまいましたが、今後もちょくちょく親御さんと雑談されることを強く強くお勧めします。
ぜひこの記事をネタにして、親御さんと話してみてください。