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「わからない」は進歩の種

公務員になって3年目。
パソコンが一人一台配布され、職場のIT化が進み始めた頃。
私の周りにはたまたまパソコンに強い同期や先輩、上司がいて仲良くしていただいていた。
その人たちは配布された一人一台パソコンを使って、いつの間にかIT系に明るい他部署の人たちと繋がり、サークル的なものを作っていた。
そしてなぜか、まったく明るくない私も仲間に入れてもらっていた。
サークルメンバーは部署が違うので、話したいことがあればネットワーク上でハンドルネームを使い会話をしていた。
会話の内容はだいたい我が自治体のIT化の遅れを嘆き、もっとこうしたい、ああしたい、こうすればいいのに、といった歯痒さを共有し合っていた。
私はその会話を覗いてはいたが、専門的な言葉が飛び交っていたので「なんとなく遅れているんだな」ということくらいしかわからなかった。

ある日そのサークルでオフ会をすることになった。
普段ハンドルネームで呼び合っていたメンバーが初めて顔を合わせた。
ハンドルネームと部署と名前を自己紹介すると、
「あ〜あなたが○○(ハンドルネーム)さん!」
と初対面なのに初対面でない感じが面白かった。
IT系にまったく明るくない私は完全に場違いで、会話にはあまりついていけなかった。
「マリーちゃん、今の話わかる?」
と上司に聞かれたので、素直に、
「ここまではだいたいわかりましたが、この辺りからよくわかりません」
と答えた。
すると上司が、
「この子のいいところはこれよ。わかったところとわからないところをきちんと伝えてくれる」
と思いがけないところで褒められた。
「はぁ」
間の抜けた声が出た。
「君がわからないということは、職員のほとんどがわからないということだから。じゃあ僕らはどうわかりやすく説明すればいいか、って考えられるのよ」
なるほど。
確かにこのサークルのメンバーは当たり前のようにカタカナ言葉を駆使しているけれど、平々凡々な私のような職員はフツーそんな言葉知らないもんな。
それにしても「わからない」と言って褒められるとは思わなかった。
それが自分のいいところって認識、なかったな。

それから年月が過ぎ。
私も後輩に教える立場になり上司が褒めてくれた意味がよくわかるようになった。
どこがわからないかをきちんと伝えてもらえると、こちらももっと噛み砕いて説明できるし、自分の伝え方が悪かったのかなと反省もする。
また文書を作成する時、自分は担当だから当たり前に理解していても、住民のみなさんには伝わりづらいのかも、という視点を常に持つようになった。
だからパートさんに、
「これ、意味わかります?重箱の隅つつくつもりで気になるところじゃんじゃん教えてください」
と住民目線でチェックしてもらうようになった。
わからないことを素直にわからないと言うことも大切だけど、わからないと素直に言ってもらえる雰囲気づくりも大切なんだ、と学んだ。

私が「わからない」と言ったあの時、上司はとても嬉しそうだった。
嬉しそうに褒めてくれた。
今ならその気持ちがよくわかる。

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