笑う女: 光る君へ 16回「花の影」感想
大河ドラマ「光る君へ」16回「華の影」。
見終わったときに、華の影の「影」って、「影」というより「陰」または「翳り」なんだななるほどーと思いました。
影という言葉には形とか輪郭という意味があります(月影、面影、など)ので、最初は、今回は道隆さんち——中関白家の華やかな姿を描くのだなと思ってみていましたが——みなさまお待ちかねの「香炉峰の雪」ですね——後半へ向かうに従って、不吉の黒い影が濃く現れ始めたので、「なるほど」と。
清少納言の「枕草子」にはそういう苦しい事情はほぼ触れられていませんが、あれが書かれた時点ではじつは、すでに中関白家はかなり苦しい立場にあったのはよく知られたところ。
しかし今回の回はそれよりも前の状態——定子は中宮となり、一条天皇との仲も睦まじく、定子さんの実家の勢いも強く、まったくのところ順風満帆、あとは男皇子がお生まれになって皇太子になれば「欠けたることのな」い繁栄となる。
と思われましたが。
まさに、満月になった途端に欠けはじめる月のように、華やかな雪遊びの場面から、次の場面で一瞬にして「下り坂」が現れるのをみて、繁栄、栄華と言っても儚いものと思わされました。
道隆さんは自分の好き勝手はするけれど、「政治」を行う気はゼロなんですね。
彼が糖尿病であり、それによって死を招いたことは史実だそうで、糖尿病の症状の描写がいくつもあったんだそうです。わたしは気づきませんでしたが😅
いわば自分の仕事に取り掛かるだけの気力が失せている。
それは単なる怠慢ではなく、病気のせいだったのかもしれませんね。
(ちなみに、史実の道長さんも糖尿病を患っています)
(遺伝なのか、当時の栄養状態を考えれば仕方がないのか)
今回、視聴者がおっと思ったのは道兼さんでしょう。
今までどうしようもない酷薄な悪役でしたが、妻も子も失い(お亡くなりになったわけではなく逃げられた状態)、死んだ父親には捨て駒にされてすっかり自暴自棄になっていたのを、道長さんに、親父が死んだ今は自由であって、やっと自分が自分として生きられるようになったのではないかと諭され——ある意味、「覚醒」した感じ。
くそ生意気な甥っ子、伊周さんに侮辱されても、視線一つ揺るがない。
端然とした道兼さんをみて、「変わったなこの人」と思わされました。
道兼役の玉置玲央さんがお見事ですねえ。(主張しすぎない口髭がお似合いですね♡)
これほど人物の振れ幅が大きい役もちょっと珍しいのでは。
ともあれ、道隆さんが仕事サボタージュになっている間に、京では疫病が流行り、人がバタバタ死んでいく。
当時の公立の医療機関と言える「悲田院」に調査のために赴く道兼さんをみて本当につくづく、変わったなあこの人、と思いました。
道長さんに何かあったらマズイから道兼さんがが行くと言ったのに、結局同行しちゃう道長さん。
そこでまひろちゃんと再会してしまう、という筋書きでした。
すでに高熱を発し意識のないまひろちゃんを一晩中看病する道長さん。
なるほどツインソウルだったかソウルメイトだったかという設定はこういうふうに反映されるんですねえ。
ふだんは離れ離れではあっても、どちらかの身に切羽詰まった何かが起こると、互いに引き合って助け合うことになる。
まひろちゃんが「私は結婚しません」という宣言こそしないものの、どうやらそういう意志があるとは察していた為時パパですが、あれで完全に、その事情を察しましたね。
しかしそれでも道長さんに対しても、何も言わない為時さんにちょっとほろっとしました。
まひろちゃんに、為時さんは、道長さんが来たことを話すのでしょうか。
高熱にうかされ意識がないのを幸い、そのことは告げないのではないかという気もする。
なんだかんだで為時さんとまひろちゃんは似たもの同士であり、ちょっと見れば「あーなるほど」と、お互いの心情を察してしまうんですね。
あの道長さんについて為時さんがどうまひろちゃんに告げるのか。あるいは告げないのか。
そんなことも気になりました。
今回、いっちばん怖かったのは、道長さんの正妻、倫子(ともこ)さんです。
一睡もせずにまひろちゃんの看病をして帰宅した道長さんをみて、
「殿のお心には、わたしでもなく明子女王様でもない、別の誰かがいるわ」
と告げたあとの、「会心の」笑み。
そしてあの高らかな笑い声。
怖かったです😅
あの笑いを、みなさまはどう解釈なさいましたでしょうか。
ひとつには、「謎が解けた」快、があったとは思います。
道長さんには、とにかく強く想っている誰かがいるのは間違いないが、明子女王(別の妻)なのだろうか、でもそれにしては……と不審に想っていた。
でも今回、「第3の女」がいる、その人だ、と、「謎が解けた」ことで、ある意味、ああそうかとすっきりしたところはあったと思います。
が。
そのあとが、朴念仁のわたしにはわかりません😅
そういう女がいるかいないか。今までははっきりしなかったのでモヤモヤするばかりだったけれど、いるとわかった以上は、その女に「勝ってみせる」という「闘志」の現れ、あるいは嫡妻としての余裕——という解釈を、ツイッター他でもみました。
どうなんだろうなー。
そういうもんですか、正妻の心理って。
ドラマを見ていて登場人物の感情の動きに、そんなに鈍感な方ではないつもりでいるのですが、今回の倫子さんはわたしにはわかりません。
通常なら不快に思うところです。夫には密かに思う人がいるとわかった、なんて場面なら。
まあ不快は不快かもしれませんが、しかし高笑いという表現になる気持ちは、朴念仁のわたしにはちょっと予想がつかない。
ただ、見たときに怖い、と感じるばかりです。
ちなみに。
次回17回の予告動画にて、あの漢詩の件、倫子さんにバレそうになっているらしきシーンがあったので、すでに胃が痛いです。わたしの胃が痛んでも仕方ないんですけど(笑)
華やかな光が暗転していく。その気配。
そんなこんなの16回でした。