インターミッテント・ファスティング (断続的断食)
「ダイエット」って、いろいろな方法がありますよね。
大半は、一時期の流行で終わり、「ああ、こんなダイエットあった、あった」と半分懐かしみ、「なんで、あんなダイエットやったんだろう」と半分後悔しちゃいます。
そういう「流行りダイエット」から「鉄板ダイエット」に格上げされているのが、「インターミッテントファスティング」です。
なんといっても、クリニックから「インターミッテントファスティング」の処方がでるくらいです。よくよく調べていくと、単に「体重を減らす」だけでなく、「疾病を治しちゃう」こともできるようです。
今回はインターミッテントファスティングについてとりあげてみます。
インターミッテント=断続的?
インターミッテント( Intermittent )は「断続的」「ときどきとぎれる」「間欠性の」という意味です。ファスティングは「断食」を意味しますので、「インターミッテントファスティング」は「中断をはさむ断食」になります。カジュアルに表現するなら「プチ断食」でしょうか。
「プチ断食」は、若者の流行(はやり)言葉に聞こえますが、インターミッテントファスティングは、学会や論文で真剣に議論される「学術的なキーワード」です。体重管理はもちろんのこと、糖尿病、高血圧、脂質異常などメタボリックシンドロームや、リウマチや癌などの炎症を改善させる健康法として注目され、研究されています。
インターミッテントファスティング には多くのバリエーションがあります。大きく分けると、時間軸を「時間(hour)」で区分するものと、「日(day)」で区分するものに分けられます。前者は「TRF(時間制限食)」と呼ばれ、 1日に数時間のファスティングを行います。後者は、1週間に数日を決めておき、数日のファスティングを行います。「5:2(ファイブ・ツー)」という方法が有名です。
TRF(時間制限食)
食事と食事の間隔を空ける方法が時間制限食【TRF(Time-restricted feeding)】です。「 インターミッテントファスティング 」の方法ではもっとも浸透している方法です。
私のまわりのアメリカ人に尋ねると、大半の方は 「 インターミッテントファスティング =TRF(時間制限食)」と考えているほどでした。
もともと多くの文化・宗教で実践されてきたファスティングです。たとえば、イスラムの方々はラマダーン中、1か月の断食を行います。この断食はTRFです。日の出から日没まで( 13時間以上 )断食をします。
アスリートを対象にした研究では、ハードなトレーニングを行っても「体脂肪は減るが、筋肉は減少しない」ことが分かっています*。ラマダーン中、イスラムのアスリートは大変だろうなぁと思っていましたが、アスリートも実践することができる方法のようです。
食事可能な 時間帯を「栄養ウインドウ(nutritional window)」 と呼びます。栄養ウインドウを8時間に設定した方法が「16/8」です。
朝8時に朝食、午前12時に昼食、午後4時に夕飯(夕方ではないですが…)と8時間の間に3食をいただきます(2食でもOK)。午後4時から翌日の朝8時まで、16時間断食をします。
「18/6」では18時間ファスティングを行い、6時間の間に食事をとります(例、8時に朝食、11時に昼食、14時に夕飯)。
論文を読むと 「16/8」 、「18/6」、 「20/4」が一般的な方法のようです。
*Effects of eight weeks of time-restricted feeding (16/8) on basal metabolism, maximal strength, body composition, inflammation, and cardiovascular risk factors in resistance-trained males. J. Transl. Med. 2016, 14, 290.
5:2(ファイブ・ツー)
ファスティング時間を設定するのではなく、ファスティング日を設定しようという考えもあります。もっとも有名なものは、「5:2(ファイブツー)」です。
「5:2」は1週間のうち、5日は普段の食事をとります。食べたいものを自由にとって大丈夫です。2日をファスティングデーにあてます(ファスティングデーは連続してとってはいけません)。1週間のスケジュールを確認し(パーティーや飲み会があるでしょうから)、ファスティングできる可能日を設定します。
ファスティングデーは、何も食べないのではなく、1日400~600キロカロリーに抑えます。 水分はコーヒーやお茶なども含め、たっぷりとることができます。ただし糖分は控えなくてはいけません。
600キロカロリー以下の食事と言っても、すべての人がやり遂げられるわけではありません(アドヒアランスが良くありません)。そこで、医療の現場では、徐々にカロリーを落としていく方法がとられます(後述)。
4:3とADF(隔日)
ファスティングを1週間に3日行うと「4:3(フォースリー)」です。
「4:3」では、「食べ放題の日」を二日連続でとれる日が1週間に1度だけあります。これを「必ず2日に1日はファスティング」にしたのが、「ADF」です。「alternate day fasting」のことで、一日おきに断食と通常の食事を繰り返します。
実践可能な処方箋
英国では医師がインターミッテントファスティングを処方します。継続性を高めるため、徐々に負荷を高める方法がとられます。
TRFでは毎日18時間のファスティングを推奨します。初月は、週に5日間、14時間のファスティングから始めます。2か月目は、週に5日の16時間ファスティング、3か月目は週5日間の18時間ファスティング。4か月目に毎日18時間ファスティングを行います。
「5:2」の場合は、初月は週に1回のファスティングから始めます。そのときの食事は1日1000キロカロリーまで可能です。
2か月目は、週2回のファスティング(1000キロカロリー)を行います。3か月目は750キロカロリーまで落とし体を慣らします。4か月目に目標の週2回のファスティング(500キロカロリー)を行います。
科学的な検証が進む
世の中にはいろいろなダイエット方法があります。「~~の食材をとりましょう」「~~の食材をとらないようにしましょう」「~~の栄養素をとりましょう」「水分をとりましょう」などなど。
これだけ情報が氾濫する中、 インターミッテントファスティング が他と異なるのは科学的根拠です。2020年7月の時点で、検索可能な論文は599報あります。体重管理に加え、糖尿病、血圧、脂質異常といったメタボリックシンドローム、癌、リウマチ、喘息など疾患に関する研究が行われています。
「5:2」と糖尿病食
糖尿病の食事療法は一般的には、低脂質のカロリー制限食です。
インターミッテントファスティング とカロリー制限と比較した研究*では、両方ともHbA1c、体重、体脂肪、内脂肪組織を減少させました。参加者数が少なく大規模の調査が必要という断りがありますが、「インターミッテントファスティングの方が体重減少に効果的だろう」と報告されています。
*The effects of intermittent compared to continuous energy restriction on glycaemic control in type 2 diabetes; a pragmatic pilot trial. Diabetes Res. Clin. Pract. 2016, 122, 106–112.
メタボリックシンドロームの改善
下のテーブルはインターミッテントファスティングの臨床試験をまとめたものです*。
このようにインターミテントファスティングは体重、血糖値、脂質、血圧といったメタボリックシンドロームに関係深い数値を改善するだけでなく、炎症を抑えることも分かります(CRP,IL、アディポネクチンなど)
*Intermittent Fasting in Cardiovascular Disorders-An Overview. Nutrients. 2019 Mar 20;11(3).
抗癌作用
インターミテントファスティングの抗がん作用は、着目されている分野です。いくつかの臨床試験では癌の縮小や、延命率の向上が報告されています*。
*Fasting and cancer: molecular mechanisms and clinical application. Nat Rev Cancer. 2018 Nov;18(11):707-719
Energy restriction and the prevention of breast cancer. Proc Nutr Soc. 2012 May;71(2):263-75.
効果のメカニズム
では、なぜインターミッテントファスティングが体重のみならず、代謝系全般を改善させるのでしょうか?
ひとつ考えられるのは、絶対的なカロリー量の減少です。ファスティング以外の日を「食べ放題」にしても、総カロリーは減少します。インターミッテントファスティングを行った人を調べると、実に73%の人では摂取カロリーが減っていました*。
しかし、カロリーだけが原因ではないようです。
*Metabolic Effects of Intermittent Fasting. Annual Review of Nutrition Vol. 37:371-393
生体時計の調整
わたしたち人間の遺伝子は、夜の大半を寝て過ごすようにプログラムされているようです。 夜間食事をすることで、生体時計(サーカディアンリズム)が乱れ、代謝異常をおこします。実際に、夜間の食事はHbA1cの数値を上げ、糖尿病リスクが高まることが知られています。
TRF(時間制限食)では、夜の食事をしません。 生体時計を本来の形に回復させ、代謝効率を高めます。
* Metabolic Effects of Intermittent Fasting. Annu Rev Nutr. 2017 Aug 21;37:371-393.
腸内細菌の回復
腸内細菌の多様性、細菌数は環境に応じてダイナミックに変化します。1日の中でも変化があり、生体時計との関係も示唆されています。慢性的に腸内に栄養がある場合、菌の周期変動(cyclical fluctuations)は失われます。結果、生体時計のズレへとつながります。
腸は小さな分子を吸収し、大きな物質は吸収しないようになっています。栄養は吸収して良いのですが、体内のアレルゲンとなる分子量の大きな物質は吸収しないのです。腸管上皮細胞は栄養を選択的に吸収しまし。しかし、上皮細胞のターンオーバーが衰えると、大きな物質も吸収されてしまいます。「リーキーガット症候群」と呼ばれ、免疫疾患や肝炎の原因となり深刻な問題です。
インターミッテントファスティングにより、腸内細菌を正常化させます。ひとつは、失われた菌の周期変動を呼び戻すこと。もうひとつは、腸を休ませることにより、腸の選択吸収性を高めることです。
長寿遺伝子への影響
研究者は経験的に、カロリー制限食が動物の寿命を延ばすことに気が付いていました。研究が進んでくると、カロリー制限と長寿遺伝子の関係が明らかになってきました。
しかし、カロリー制限を人間に応用するのは困難です。食事ができないことでQOL(生活の質)が落ちてしまいます。そこで、実践可能な代替法が考えられます。こうやってインターミッテントファスティングは生まれたのです。
インターミッテントファスティング はカロリー制限のように苦しくなく簡単に長寿遺伝子( SIRT遺伝子 )のスイッチを入れてくれます。
結果、抗酸化能が高まり、オートファジーが働きはじめ、DNAの修復能が高まり、インスリンが減少し、mTORが減少し、ケトン体が増加します。
ケトン体
インターミッテントファスティングにより体内のケトン体が増えます。ケトン体と聞くと、「イクラや白子に入っている体に悪い物質」というイメージがあるかもしれません。体内でつくられるケトン体は代謝を高めます。
また、脳の栄養として優秀で、ケトン体を高めることで、認知能力の向上が示唆されます。
非常識な健康法が常識に
私たちの常識は、「1日3食は体に良い」ではないでしょうか。実際に、朝食を抜く方は血糖コントロールが悪く、糖尿病リスクを高めるとされています。
1日3食が広まったのは、日本では江戸時代の中期からです。それまでは1日2食が一般的でした。農業が始まるまでの人間は、狩猟に依存し、数日間食事をとれないことも多々あったでしょう。
空腹の際、人は病気にならないよう治癒力を高めました。また、精神を鋭敏にし、獲物を捕れるように進化したのかもしれません。空腹を感じるとき、体内では長寿遺伝子が発現し、私たちが本来もつ「抵抗力」が現れます。
宗教がこの人間の本能を利用し、断食を儀式に取り入れたように、現在、健康や医療の分野で、インターミッテントファスティングが受け入れられています。
巷にあふれる「怪しげな健康法」とは異なり、多くの医師や研究機関が、科学的なプロトコールを作成し、倫理委員会を通し、臨床試験を行い、論文を書き、査読付きの論文に報告し、科学的根拠をつみあげています。
しかし、まだ不明な点は多々あります。多くの研究では肥満や過体重の方を被験者に選んでおり、ダイエットにより、健康効果を上げているのかもしれません。
今後、より詳しい研究が行われていくでしょう。