今際の際のダンディズム
祖父が救急搬送されて数日経った深夜。
病院からの着信で悟る。
「もうそろそろお別れかも」
87歳で肺炎と腎不全。
むしろ「今まで元気に生きてくれてありがとう」だ。
何とか一命を取り留めた祖父が言った。
「もうしんどい。早う死にたいわ」
この場合は、どんな返事が適切なのだろうか。
何も言わず悲しい表情で微笑み、手を握るのが正解?
「ミエコさんと同じこと言うてる!笑」
私はあろうことか祖父の元妻の名前を出してしまった。
コレは流石に間違えた。
が、しかし、出してしまった言葉はもう取り戻せない。
私は「本」という言葉を贈る商売をしたり、文章を書いて言葉を届けているにも関わらず、しばしばこういった空気が読めないというか、もはやぶち壊す失言をしてしまう。
(関係各所の皆様、大変申し訳ありません。
いつもあたたかく見守ってくださり誠にありがとうございます)
気を取り直し、祖父に何かほしいものや必要なものがあるか聞いた。
「髭剃り」
「…ん? 髭剃り?」
つい先程まで死にたいと言っていた人の発想とは思えず聞き返した。
「定期的に剃らんとな」
自分が87歳になり、いろんな病気が重なり、息も絶え絶えの今際の際で、身なりを気にする余裕はあるだろうか。
どうせもうそろそろ死ぬんだろうし、もうええか。と自分の人生ごと放置してしまいそうだ。
やはり戦時中の厳しい時代を生き延びて、豊かになった時代では紳士でモテた人は違うと思った。
(本人談ではなく周囲から聞いたのでほぼ間違いない)
そして、祖父の哲学というか、この美学を勝手にこう名付けた。
「今際の際のダンディズム」
私は何ズムがいいか考えてみた。
……ロマンチズム、いいんちゃう?!
ということで、今際の際になった時
「めっちゃいい人生やったから悔いないわ」
「来世はもっと楽しくなると思うとやばいな」
と思えるように生きていきたいと思います。
皆様も今際の際は何ズムがいいか、ぜひ妄想してみてください。
(ズムに縛られなくてもいいですよ!笑)