『世界は、どれほど確固たるものか』について、SF作家からならうこと
相変わらず、幾つもの本を並行して読んでる。その一つが、『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』。著者のリズマン バークは、人気ゲームのクリエイターで、『この世界は、コンピューターで作られたシミュレーションみたいなものである』という仮説についての本である。まだ、最初の方を読んでいるところ。
シミュレーション仮説に興味を持っている理由は、前にも、紹介した私のイチオシサイト、『魂のインターネット』で、作者の野口氏独自のシミュレーション説を読んだから。彼のシミュレーション説は、『これが事実』あるいは『現実』ではなく、『こう考えてみては』という提案として紹介されており、理系らしく、いっさい矛盾がない上、図入りで、理路整然。私が、前から疑問に思っていたことが、パズルでもするように、おさまる感じがあった。
ところで。リズマン・バークの本の最初の方で、SF作家のフィリップ・K・ディックの、短編小説『アジャストメント』が、紹介されていて、そっちも読んでみた。非常に短いので、すぐ読めて、また面白い。私は、フィリップ・K・ディックの『アンドロイとは電気羊の夢を見るか』が好きで、それについては、下のエントリーで書いた。これは、映画『ブレードランナー』の原作本である。
短編『アジャストメント』では、世界を、管理しているテック管理チームみたいなのがおり、時間と空間を凍結して、コンピューターのハードウェアを調整(アップデート)する感じではあるけれど、さらにマニュアルな感じで、世界の事象の調整(アジャストメント)を、必要に応じて行っている。この凍結状態は、ビデオの停止ボタンを押すようなもので、人間含めて、全ての時間、物質が凍結されるのだが、主人公は、手違いから凍結されず、調整作業最中の世界に、足を踏み入れてしまう。
興味深いのは、バーク氏によると、ディックは、実際にこのように、世界を『管理している』チームのようなものいると、信じていて、「実際に調整が行われている」と、奥さんに言っていたという点。調整が行われた後には、前の世界から変化があり、その変化が、唯一、調整されたことを示した事象らしい。
さて。これは、ディックの妄想なのか、現実に、世界は、そんな調整が行われているものなのか、私は、もちろん、わからないのだけれど、すごい話だ。
ディックの短編で楽しかったところは、『調整チーム』の人たちが、どちらかというとサラリーマン、あるいは小役人で、時間と仕事に追われている所だ。世界を、管理する人たちといえば、悪者を想像するところが、ただの雇われ職員。やってることは、アップデートされる世界に住んでる人たちと、変わらない。
イーロンマスクが、世界は、99%の確率でシミュレーションだと思うと、言ったらしく、今、仮想現実説は、一部でだろうけれど、ちょっとした流行になりつつある。流行には、乗らない方が良いという仮説も、私なりにはあるので、注意して、この辺りのことは、考えてみている。
(なお、リズマン バークの本や、ディックの言葉などは、ツィッター(X)でまとめて書いてくれている方がいて、知りました。ただ、誰だったか、忘れてしまいました。)