展覧会レポ:浮世絵の巨匠たちが描く美しい春画 - 北斎と歌麿の名作を堪能
【約2,400文字、写真16枚】
細見美術館で開催中の「美しい春画」展。正直に言って、公共の場で春画を見ることに抵抗がありました。北斎や歌麿のタブーに触れているような気がして。
でも、興味は抑えられません。実際に足を運んで確かめてきました!
春画ってなんだ?
春画とは、つまり性の営みを描いた絵画です。
平穏な日常生活を続けている私が見ていいものなのでしょうか。
展示の解説ツアーがあるというので、まるで秘密のパーティーに招かれたような気持ちで扉を開きました。禁断の世界に足を踏み入れ、私が目にしたものは…!
会場に足を踏み入れると、女性の割合が多いことに気づきました。女性の欲望に無知な私としては、その光景に驚きと動揺で足元がグラつきます。
江戸時代の浮世絵師は、誰もが春画を手がけており、それは特別なものではなかったと樋口先生が説明してくれました。
そもそも浮世絵は、街の様子を描いた洛中洛外図屏風から始まったそうです。次第に描く対象が街の風景から人々の姿へと絞られていったのですね。
新興都市である江戸は、極端に女性が少なかったそうです。そこで暮らす男性たちの「娯楽といえば、芝居と遊里、そして好色本や荒唐無稽な金平本であった。」¹といいます。
春画は、江戸庶民を楽しませただけでなく、武家社会からも需要があったことが近年明らかになってきました。
「女の一生を季節の花に重ねて、移ろいゆく時の流れとともに表した名品。」⁴
実物を目にするのは初めてです。洒落が効いていて、なぜか心が揺さぶられました。
北斎の春画
「北斎という名を問えば、《富嶽三十六景》という親しみ深い作品名が、まるで合言葉のように返ってくる…」² 私も同じです。
しかし、北斎の師匠である勝川春章は肉筆美人画の第一人者でした。北斎の肉筆春画というだけでも貴重ですが、《肉筆浪千鳥》は日本国内の美術館では初展示だそうです。しかも12枚セットで展示されています。
「すべての線と色が絵師の手で引かれた正真正銘の一点ものである。」⁴
北斎の肉筆春画のコーナーでは、摺(す)られた作品と肉筆画が隣り合わせに展示されています。
山本ゆかり氏は、浪千鳥の評に「本図は北斎様式の美人、豊麗な色彩、意表をつく構図、圧倒的な官能性(略)肉筆ならではの迫力ある表現や驚くような奇抜な構図で人間の肉欲のさまを捉えている。」²と述べています。
繊細で優美なだけではありません。人間の身体におかしな歪みがあったり、不自然なのに、なぜか絵として違和感がないのです。
身体が絡まり合う感情の世界に引き込まれ、没頭してしまいます。これぞボットー体験!
歌麿の美人画
歌麿は、来年度の大河ドラマで取り上げられる蔦屋重三郎のもとで、優美な美人大首絵を創始した人物。美人画の第一人者です。
「画風は扇情的であり、ほかと比べると、俗っぽさの強く表れた作品である。」⁴と書かれている通り、ユーモラスです。
スペースの限られた版画で、ここまで表情や仕草、さらには内面まで表現できたことに驚きました。「~完成された歌麿の美人画風を見ることができ、流麗な線や、しなやかな描写などの、成熟した官能表現を見てとることができる。」⁴
春画は個人の密かな楽しみという常識では、この作品を理解できません。横幅が1メートルを超える大きな掛軸で、美術館では初公開の作品です。
「掛軸とは、原則的に床に掛けられ複数の眼で鑑賞させる絵画である。独り楽しむ作品形態ではないのだ。これらの春画掛軸はどのようなシチュエーションに置かれたのだろうか、想像してみたい。」⁴
階段で画面を分けつつ、階段の途中で愛し合う様子と、下では女性が一人で…。大胆な構図と見事な身体表現が特徴です。三人の匂いが漂ってきそうな作品で、その表現にグッときてしまいます。
「~彼ほど女性たちの細やかな仕草や内面までを汲み取った浮世絵師はいない、と言えるほど、その観察眼と画力は突出している~」³。
春画は美人画の一つ、というより、ある意味、頂きなのではないでしょうか。
講演会に残席アリ!
10/27(日)講演会 追加募集のお知らせ
ご注意
今回、特別な内覧会に参加しました。撮影と写真の使用も許可していただきました。
通常開館中の撮影は禁止です。ご注意ください。
フォーチュンクッキー
春画を全面に押し出したショップが開店しています。
娘へのお土産にいいかもと思ったのですが、クッキーからこの絵が出てきたら、パパはどんな顔をすればいいのでしょう。まだ私には偏見があるようです。
ソース;
¹:安村敏信『浮世絵美人解体新書』世界文化社、2013
²:内藤正人[監修]『北斎肉筆画集成』双葉社、2018
³:浅野秀剛[監修]『歌麿 決定版』平凡社、2016
⁴:解説パネル「美しい春画」展(細見美術館)
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