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小説・漫画批評

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『うれしい悲鳴をあげてくれ』 感想

『うれしい悲鳴をあげてくれ』 感想

今回は3ヶ月くらい前に読んだ『うれしい悲鳴をあげてくれ』という短編集エッセイ・小説集について紹介します。
興味ある方は読んでってください!

ロックバンド、スーパーカーの作詞・ギターを担当し、現在は作詞家兼音楽プロデューサーのいしわたり淳治の短編エッセイ・小説集。

収録されているエッセイや小説のほとんどは音楽の話ではなく、いしわたりが世の中をどのような角度で見ているかという話。

さすが作詞家と

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藤本タツキ『ルックバック』論

藤本タツキ『ルックバック』論

『チェンソーマン』の作者、藤本タツキ先生のチェンソーマン完結後初の長編読み切り作品『ルックバック』がジャンプ+にて配信された。

京アニ放火事件への哀悼のような作品であり、緻密に計算され尽くした構成で、感情を揺さぶる大傑作だ。

一部ネタバレになる内容がある。アプリのジャンプ+で無料配信されているので読後に読んでいただきたい。

京アニ放火事件の影響この漫画を考えるうえで鍵となる要素は主に4つ。

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存在の耐えられない軽さ

小説に描かれる「存在の軽さ」の問題最近、以前読んだ小説を読み返している。

『存在の耐えられない軽さ』は、共産党の一党独裁に抵抗したチェコスロバキアの作家ミラン・クンデラが1984年に発表した小説だ。

皆さんは存在の「重さ/軽さ」を感じたことがあるだろうか?

人生においても、物語においても、多くの人が苦しむのは存在の重さだ。

恋人に束縛されて自由がない、
親に勉強しろ、結婚しろと言われる、

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極楽の蓮池のふちを独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃったお釈迦様が娯楽で糸を垂らす話に対する所感

 芥川龍之介の『蜘蛛の糸』という短編は日本で生まれ育った人なら大抵の人が話を知っているし、冒頭の「ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。」という一文は、有名すぎて誦じることも可能って人もちょくちょくいるのではないかと思う。

 一応あらすじを説明しておくと、御釈迦様が極楽の蓮池の下を覗くとその真下にある地獄でカンダタという男が苦しんで

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『ジョジョ・ラビット』 ナチスを描いた作品たち

 先日アカデミー賞にもノミネートされている『ジョジョ・ラビット』を鑑賞してきました。弱虫で周囲からいじめられ、イマジナリー・フレンドのヒトラーを持つ少年ジョジョが、密かに匿われていたユダヤ人の少女との交流を経験して成長していく物語です。The Beatlesのドイツ語版 I Want To Hold Your Handsが流れ、少年の弾けるような感情が描かれるオープニングから、エンディングまで、無

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『響』 なぜ誰も共感できない天才の物語が支持されたのか?

『響』 なぜ誰も共感できない天才の物語が支持されたのか?

 先日、マンガ『響 〜小説家になる方法〜』を読了しました。2017年にマンガ大賞を受賞し、2018年には平手友梨奈主演で実写映画化もされた人気マンガです。僕もマンガ大賞を受賞したタイミングでこの作品を読み始め、色々思うところがありながらも、なんだかんだ最終巻まで読破してしまいました。

 僕は正直言ってこのマンガを手放しで賞賛できません。その最大の理由は主人公の響のキャラクターにあります。響には弱

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『NieR: Automata』と『風の谷のナウシカ』〜実存は本質に先立つか〜

『NieR: Automata』と『風の谷のナウシカ』〜実存は本質に先立つか〜

タイトルでいきなり「実存は本質に先立つか」などと書いてしまったため、読む気力を削いでしまったかもしれませんが、今回は『NieR:Automata』というゲーム作品と宮崎駿の漫画版『風の谷のナウシカ』について。考えてみようと思います。

この2作品を扱う理由は、アンドロイドと機械生命体の戦いを描いた『NieR:Automata』が明らかに『風の谷のナウシカ』の原作を下敷きしており、漫画『風の谷のナウ

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青空にブルーインパルスが飛ぶ「ゆるふわ国家」をデデデデを通して考える

青空にブルーインパルスが飛ぶ「ゆるふわ国家」をデデデデを通して考える

東京の青空にブルーインパルスが飛んだ。5本の飛行機雲を残して去っていった。

飛行機雲の意味は医療従事者への感謝とエールらしい。ごめんなさい、僕にはちょっと意味がわからない。

正直言って、そのお金で医療設備を拡充するなり、生活に困っている人への支援金に充てて欲しいと思う。

浅野いにお氏が『ビッグコミックスピリッツ』で連載している『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(通称デデデデ)

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