泣く少女

私は小学四年生の時にトイレ掃除が一緒だった友人から、とある悩みを相談された。

彼女は目鼻立ちがはっきりとしている美人さん。

とても可愛い彼女から悩みを相談されるということは私にとって正直ドキドキしたことだった。

「本当に誰にも言わないで」と俯く彼女。
「もちろん」と頷く私。

彼女は「赤ちゃん産まれちゃうかもしれない」と蚊の鳴くような声で確かに言った。

本から得た情報によって、人間も動物と同じように交尾をすることで子供を授かる。という事は知っていた。
しかし、私は小学生の時、そういう行為について詳しく知らなかった。

だから、悪気はなく彼女に対して「どんなことをされたの?」と聞いてしまった。
私は今、その行いに恥じている。辛い思いをした人にそんなこと聞くなんて、心の傷を深くえぐる非情な行為だと今なら分かるからだ。

それでも彼女はざっくりと行為について教えてくれた。正直理解することは出来なかった。

そして彼女は話を続ける。

とある親戚の男に二人きりになった隙を狙って、身体を襲われたことが幾度もあったこと。
とても怖かったこと。
今、「赤ちゃんが出来ちゃうかもしれない」という不安で心が削られてしまっていること。

それらは大きすぎる負担やつらさの氷山の一角に過ぎないはずだ。
きっと、彼女はもっと話してくれた。
でも不甲斐ない私は忘れてしまった。

私は相談を受けて、解決策を講じた。

きっと、その解決策なんて彼女は幾度も考えて諦めたことなんだろう、
とは思いながら、想像力のない私にはそれくらいしか考えられなかった。

今ならわかる。
彼女は犯罪の被害を受けていて、
とても心が辛い状況だということ。
でも、私は警察じゃない。男に罪を償わせることは出来ない。
しかし、私にもできることはあったかもしれない
彼女はきっとすごく心細いこと。
あの小さい背中で支えきれないほどの不安ばかりを彼女は背負っていたこと。
だったら、求めていた答えば違うはずだ。
きっと彼女は傷ついた心に寄り添って欲しかったんだ。

今、寄り添い方が分からない。
本当に分からない。

今、私が1番知りたいのは数学でも、
現代文でも古文でもなく、
傷ついた大切な人への慰め方だ。
涙を前向きに変えてくれる優しい言葉だ。
優しい抱き締め方だ。

いつか分かりますように。
あの時泣いていた私を前向きにしてくれたあの人のように、優しく、寄り添った言葉を大切な人にかけられますように。

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