【私の職業病】字が走り出す
取材をして、原稿を作成する仕事をしている。
対象は経営者から、店のオーナー、社員、スタッフ、先生など幅広い。取材で伺った内容を、読者にきちんと届くように文章にまとめていく。
色んな方の話を聞くのは楽しく、その人の考えに触れていくのは非常に貴重な時間だと思っている。話してもらいやすい雰囲気を作り、取材対象者に興味を持って質問を重ねていくのは、私にとって全く苦ではなく好きな時間だ。
取材時、私はボイスレコーダーを使用していない。
作成する記事のボリューム的に、使用しなくても問題ないものが多いからだ。話を聞きながら、メモを取る。目線は基本的に先方におきながら、手だけを動かす。
すべてを書くことは不可能なので、ここは大事だなというワードだけを、どんどん書き記していく。先方は別にメモを気にしてゆっくり話してくれる訳ではないので(その必要もない)、話を伺いながら、同時に書く。
取材ノートを見返してみても、誰も読めないというレベルではないが、まぁお世辞にも綺麗とは言えない文字が並んでいる。
その文字を拾いながら、文章を構成し、原稿を書き上げるのだ。
この取材をする、という仕事を10年以上している。“早く書く”という習慣が完全に身についてしまっている。
困ったことにこの癖は、取材時以外にも発動する。
例えば、娘の学校からもらってきた書類に、記入しなくてはいけない時。
急いで書く必要は全くないのに、なぜか早く書かなくてはいけない気持ちになってきている。ペンを持って紙に向かった瞬間に、クラウチングスタートを決めているイメージ。
いや、今回はレースちゃうし、走らんでええで、という心の声は届かない。毎回、位置について、用意どん!よろしく、字が走り出してしまう。
待って待って。
意識してゆっくり書こうとしても、次第に我慢ができなくなってに走り出す字。(いや、自分で書いているんですけども)文字を飛ばしそうになる時もあるほどだ。
制御不能のとんだ暴れ馬。なんとかしてくれ。
一方、我が娘。年中の時から習字に通い始めたので、字が非常にキレイ。
「字がとっても上手です」
学校の先生にもお褒めいただいた。親の欲目を抜きにしても、上手やなぁと思う。
私の走り出したら止まらない字、暴れ馬の字と見比べて……。
いや、もう負けてもうてるやん。
娘を見習って、私も大人のペン習字でも始めてみようかな。写経も気になる。心を落ち着けて、ゆったりとして気持ちで。いかなる時も走り出そうとする字を、落ち着かせる術を身に着けたい。
私の職業病は、『字が走り出す』こと。なかなかに手ごわい病である。