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富士登山の想い出〜中国人観光グループとともに〜

上の記事でも少し触れたのだが、私は大学時代にゼミのメンバーで富士登山をした。今日は、その想い出について書いてみたい。

ゼミ生の20人くらいと先生で富士登山をしようという話になったのは大学3年生の頃。誰が言い出したのか、など細かいことは全く覚えていないのだが、とにかくバスを貸し切って大阪から富士山へと向かった。

5合目までバスで行き、そこから登山スタート。確か8合目で仮眠を取り、ご来光のタイミングに合わせて、山頂へと向かう。そんな登山ルートだったかと思う。

5合目のスタート地点で金剛杖を購入。ゼミ生と先生で「いざ!登るぞ!」なんて、笑顔で写真を撮っていた。引率してくれる山岳ガイドさんがついてくれるプラン、ということで他にも私たちと一緒に登る人たちがいるらしい。

その人たちと5合目で合流した。

中国人観光客の5名くらいのグループだった。

その姿をとらえた瞬間、思わず二度見。

なんとその中国人グループの人たちの恰好、革靴にセカンドバック。

え?まじで?ちょっとそこまでコンビニ行ってくるわ、のノリで富士登山?セカンドバック小脇に抱えてるけど、せめて両手は空けようよ。っていうかめちゃスカート短い人もおるやん。え?どういうこと?

私の頭の中は大混乱。

ゼミメンバーも同じことを思ったようで、目を合わせて苦笑い。

私も靴は普段使いの気持ちハイカットスポーツ仕様のスニーカーに、おしゃれなジャージなど持ってなかったので、高校時代の名字が印字されたジャージ着用、ズボンはスキーウエア、みたいなめちゃくちゃな仕上がりではあったが、レベルが違う。もう目が離せない。

動揺を隠せないまま、一緒に登山をスタートした。快調に笑顔で会話を楽しみながら、先頭を歩く中国人グループ。その後ろをゼミのメンバーが続く形だ。

そして、岩を登るターン。中国人グループは革靴で岩を登る。いや、滑るやろ。危ないって。まじか、すごすぎるやろ。

薄暗くなってきた。中国人の一人が、セカンドバックからヘッドライトを取り出し、頭につけた。

いやいや、ヘッドライトは持ってきたんかい。夜は危ない、という情報だけは入ってたんかい。もっと他にも色々教えてあげてよ。ツッコミどころが多すぎて、富士山よりもそっちが気になって仕方ない。

初めは先頭をガンガン行っていたそのグループだが、さすがに遅れを取り始めた。2人いるガイドさんの1人はそちらに完全にかかりっきりになっている。だんだんと登る岩肌が厳しくなってきたので、私も登山に集中し始めた。後ろから「もう先行ってくださーい」というガイドさんの声が聞こえる。

そして、八合目で仮眠し、再度出発したメンバーの中にその中国人グループはいなかった。聞くと七合目でリタイアした模様。

いや、逆によくそこまで、革靴とセカンドバックでたどり着いたな……と拍手を送りたい。

そこから山頂に向けての道は、空が近くて、星も近くて。星に手が届きそうやな、なんて話しながら、少し鼻歌を歌う余裕まであった。20歳くらいの時で体力もあったのだろう。今ならそんな余裕は全くなくへーこらひーひー言うことになるはずだ。

無事山頂について、そこで見るご来光は現実のものとは思えない神々しさ。映像を見ているような不思議な気持ちになったのを覚えている。言葉が出ず何か大きな力を感じざるを得なかった。

あの光景をゼミのメンバーと一緒に見たことは、我が人生の宝物だ。

そして、いざ下山。私は下山の方が断然しんどかった。

太陽が昇ってとにかく眩しいし、砂埃がたつのでしんどい。口までタオルを巻いて、家から持ってきた適当なやっすいサングラスをかけた。登山のために何も買い足さない、という当時の私の気概を感じる。完全に不審者のいで立ちだ。

さらに、バレーボールで少し痛めていた膝に負担がかかり、痛みが出てくる。ジグザグの下山ルートをさらに細かくジグザグに下る。膝への負担を軽減するためだ。ためしに後ろ向きに下ってみたりと試行錯誤しながら、なんとか下山したのだった。そうして私の富士登山は幕を下ろした。

その後、バスで温泉につれていってくれるプランだった。

温泉で汗を流して、バイキングをいただく至福の時間。レストランに着いた時、私の視界にあの中国人グループが飛び込んできた。

彼らは陽だまりに包まれ、何もなかったような顔で談笑しながら、バイキングを楽しんでいた。

その笑顔を見て、「なんかすごいな……」「無事で何より……」とぼんやり思ったのだった。私が富士登山を思い出す時、真っ先に浮かぶのは、革靴にセカンドバックを小脇に抱えた彼らの姿だ。

日本で1番高い山、富士山。軽装で登れる山では決してない。ゼミ生の中には高山病の症状が出た子もいたくらいなのだ。それでも人々を魅了し続ける。

彼らに富士山はどのように映ったのだろうか。良い想い出として残っていたら良いな、と思う。

#一度は行きたいあの場所

#スキしてみて


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