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故・竹村健一氏が執筆! 声に出して読みたい『世界珍行漫行』(1972年)

竹村健一氏といえば、報道番組に出演していた論客。2019年に鬼籍に入られていますが、「だいたいやねえ」という口癖とパイプを持っている姿が印象的でした。辛辣なコメントのイメージが強く、てっきりコワい方かと思いきや…。

以前、水道橋博士氏と吉田豪氏の番組でさりげなく登場したのが、竹村氏が書いた『世界珍行漫行』(1972年刊)という本。声に出して言い辛いその本のタイトルは、テレビ越しに見る竹村氏のイメージからは想像もできないくらいお下劣です。いったいどんな内容の本なのか、気になってしまいました。

地元の県立図書館には無く、国立国会図書館にはあるらしいということはわかったのですが、わざわざ国会図書館まで行くのは大変。なので、ネットを駆使して日本全国大捜査。すると、北海道のとある古書店に在庫があるらしいということがわかりました。「この本は歴史的価値があるに違いない」と思った私は、さっそくその古書店から本書を取り寄せることにしました。

で、届いたのが以下の本。

非常にキャッチーなタイトル

新書サイズのこの本は、1972年というオイルショックが起こる1年前に出版されました。もちろん私は生まれていませんし、私の親も大学生だった年。そんな時代の本を、今回時空を超えて読んでみました。

本のポジショニングとしては、これから海外旅行に出かける人に向けて、普通のガイドブックには到底載っていないような事柄を載せたもの。あくまでも1972年当時の本なので、差別偏見エロ盛りだくさん。1972年当時は海外に行く人など今に比べれば少なかったでしょうから、本書に散りばめられたジョークを真剣に受け止めてしまった読者もいたかもしれません。

内容は、竹村氏とその知り合いの海外旅行体験談で構成されています。ここでは、そんな本書の内容を一部紹介していきましょう。


小倉屋の「とろろこんぶ」が麻薬と間違われられ、税関長じきじきに取り調べを受けた話

モロッコの都市・カサブランカの空港での出来事。竹村氏は持参したとろろこんぶによって、同国の税関長に取り調べを受けたそうです。なぜとろろこんぶを持ち込んだのかはツッコミどころですが、税関長に「あけろ」と言われ、とろろこんぶを取り出します。どうやら当局は完全に「麻薬」だと思ったようです。

竹村氏は、その一握りを口に入れて食べて見せます。しかし、税関長は表情を崩さず、(麻薬かどうか)テストすることになってしまいました。結局、持っていた現地の大使あての紹介状を見せ、空港から脱出することができました。「『望郷のカサブランカ』『灼熱地獄のモロッコ』といった甘い期待は、入国第一歩にして裏切られたのだが、元をただせばとろろこんぶが悪かったのである」と本人は語っています。

欧米には日本語の免許証を読めるレンタカー職員はおらず、大学図書館の使用カードで車を借りた人もいるという話

これは本当なのかと思うけれども、本にそう書いてあるので…。まあ、今だったらアウトですけれどね(当時もアウトか)。竹村氏本人も、「事故を起こした時に問題になるのでおすすめしない」と書いています。そりゃそうだわな。

なお、竹村氏は旧小型免許しか持っておらず、したがって国際免許を持っていないとのこと。それでも「10年ずっと外国で運転している」と本当なのかジョークなのかわからない話を書いています。真偽は不明ですが、こんなことを本に書いても問題なかったのでしょうかね…。

ローマのバス停には駅名がないという話

そんなことないだろうと思いつつ、本書にそう書いてあるので当時はそうだったんでしょう。とある日本人女性の話。とあるローマのホテルから出てすぐのところにあるバス停からバスに乗った彼女。そのバス停には「FERMATA」と書かれていたため、急いで紙に「FERMATA」と書いておきました。

安心しきってローマ市街を観光したその女性は、夜遅くなったため、「FERMATA」と書かれたメモをを車掌に見せて「ここで降りたい」と伝えます。しかし、何故か通じません。バスを降り、警察署に駆け込んでみても、警官たちはただ肩をすくめるだけ。途方に暮れた彼女は教会に飛び込み、英語の話せる牧師に聞いてみました。

そこで明らかになったのは、「FERMATA」とはイタリア語で「停留所」という意味だということ。それじゃあ、誰も降車する停留所を教えてくれないわけです。結局、運よく同じ留学生チームのメンバーに会うことができ、ホテルに辿り着くことができましたが、治安の悪い場所柄、一歩間違えれば誘拐犯にさらわれていたかもしれません。

アメリカの有料の公衆便所には、1か所だけ鍵のかかっていないドアがあるという話

そんなことないだろうと思いつつ、当時はそうだったのでしょう。鍵のかかっていないトイレはだいたいは一番奥にあるとまで書いてあり、筆者の親切心が伝わってきます。10セントを惜しむ人がその個室を利用するそうですが、ここはあまり掘らないほうがよさそうです。

***

その他、以下のようなエピソードが載っています。

・ウィーンの高級レストランの奥まった一室にルーレット台があるという話
・アメリカの某ホテルチェーンには、ボーイとメイドが結託して「泥棒審議ケート」を作っているところもあるという話
・アメリカンエキスプレスという運送会社があり、世界中の主要都市に支店がある。この会社の旅行者小切手は、すぐにその国の通貨に変わって便利だという話
・フランスのビデで洗濯をしてしまう日本人の話
・"三流"のバーでも、忘れた時計を渡してくれるドイツのバーテンダーの正直さの話

くだらない(褒めている)話が満載ですが、これを比較文化論に昇華させているあたり、さすがとしか言いようがありません。生前の竹村氏に、こんなユーモアな一面があったんですね。もっと前面に出して欲しかったなあ。

復刻版出て欲しいところですが、まあ無理でしょうね。

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