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九十五話 出動

 新兵は入隊から三ヶ月経つと、それまでの訓練の成果を、連隊長以下各大隊長、中隊長、その他将校に披露する第一期検閲がある。
 普段、演習は、部隊の核たる古兵を交えて行うが、そこでは新兵オンリー。この検閲を経て、階級が星一つの二等兵から一等兵となり、初めて戦力として見されるのだ。
 通常、一期は三ヶ月。しかし、浅井らの場合、二ヶ月ちょっとで連隊に出動命令が発動されたため、第一期検閲をする前に戦線に向かうこととなった。

 この頃、日本軍の頭脳である大本営参謀部は、密かに支那派遣軍と作戦を練り上げていた。支那各地で亜米利加アメリカ軍が使用している飛行場を、地上から攻撃して殲滅させる一号作戦がそれである。別名、大陸打通作戦といい、支那を縦断する。この気宇壮大な作戦に、浅井が属する支那駐屯歩兵第一連隊も「極二九〇二部隊」と改名して臨むことになったのだ。

 無論、新兵たちはおろか古兵も知る由もない。四六時中、ただただ訓練漬けの身。非常呼集のラッパで、真夜突然起こされ、零下二十五度の山野で、戦闘訓練するのが日課となっていた。
 そのため、今度の出動もどうせ訓練だろう高を括っていた。それが、まさかの展開である。
 連隊兵営に隣接した陸軍燃料しょうの構内、鉄道の引込線上に、突如有蓋貨車に現れる。連隊総員四千九十八名と馬七百五十二頭が乗せられ、行く先も知らされず出発する。

 「こ、これは・・・」
 新兵たちは、思わず声を上げる。
 これなら内務班に戻らないのではないか、イコール古兵に殴られなくて済む――皆何よりも先にそのことをよろこんでいた。

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