数学(2022/7/11):キューネン本2冊についての記事_14.ZFC集合論の公理のリスト_12(中間生成物:基数としての自然数全体の集合)
1.『基数としての自然数全体の集合』までのロードマップ
1_1.正則基数
1_1_1.広義の半順序関係における有界と非有界
順序数としての自然数全体の集合、"omega-0" の基数は、有限基数より大きい基数であることが言えるのでした。
これで基本的には基数としての自然数全体の集合、"aleph-0" の構成が、問題なくできように思えます。
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ですが、"aleph-0" には今一つ特別な性質があります。
その性質についての構成を整えてから、いよいよ "aleph-0" そのものの話に入ろうと思います。
どのような性質か。
"aleph-0" は正則基数というものです。
基数 κ においては、「κ 未満の基数の、κ 未満個の和」で表せる場合と、表せない場合があります。
正則基数 κ とは、「κ 未満の基数の、κ 未満個の和で表せない基数」のことです。
ある意味で分割できないものなので、これが基数における、ある種の一里塚とみなしてもよいでしょう。
(ただしこれは順序数の区切りより粗い一里塚です。
例えば "omega-0" の次の一里塚である順序数は "omega-0" + 1 です。
が、"aleph-0" の次の一里塚である正則基数は "aleph-1" で、パッと思いつく "aleph-0" + 1 よりはるかに大きくなります。
さらに実は、 "omega-0" + 1 に対応する基数は、 "aleph-0" + 1 ではなく "aleph-0" に吸収されてしまうのであり、 "aleph-0" の次は "aleph-1" に他ならず、 "aleph-0" + 1 などというものは存在しないのですが、その話は次回します。)
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正則基数の性質を洗い出すのに、いくつかの概念の構成が必要になります。
例えば、以前説明した『上に有界』『下に有界』を共に満たしている場合、こうした広義の半順序関係の空集合でない部分集合は『有界』であると言います。
さて、それでは、
『上に有界』ではあるが『下に有界』ではない、または
『上に有界』ではないが『下に有界』ではある、または
『上に有界』でも『下に有界』でもない、空集合でない部分集合は、
どう呼ぶか。
これらはまとめて『非有界』であると言います。
1_1_2.共終写像
順序数から順序数へ(広義の)函数であり、実際には始域における要素たちに対応する像の集合が終域の「非有界な」部分集合であった場合、この(広義の)函数を、『共終写像』と呼びます。
順序数は半順序関係より高度な構造の中に組み込まれており、もちろん半順序関係をも持つので、これがうまくいきます。
1_1_3.共終数
始域の順序数 α から終域の順序数 β の非有界部分集合に共終写像があったとします。
このとき、上記の条件を満たす α のうち最小のものを、『共終数』 cf(β) と呼びます。
特に β が極限順序数であった場合の共終数が重要であり、よく使われます。
1_1_4.正則順序数
順序数 α においては、「α 未満の順序数の、α 未満個の和」で表せる場合と、表せない場合があります。
正則順序数 α とは、「α 未満の順序数の、α 未満個の和で表せない順序数」のことです。
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先ほど定義した、極限順序数に対する共終数が、実はここで役に立ちます。
なぜなら、正則順序数 β とは、極限順序数であって、しかも cf(β) = β となるもののことでもあるからです。これらは一致するのですね。
このような正則順序数は、基数の一種であるとも言えます。
極限順序数の大きさを、ある意味最も正確に表しているのだから、基数として申し分ありません。
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また、ちょっと面白いのですが、正則順序数は始順序数の一種でもあります。
具体的には始順序数 "omega-0" は正則順序数 "omega-0" でもある、ということです。
ただし、始順序数のうち、正則順序数でないものもあります。
具体的には、"omega-n" の n が極限順序数であった場合、これは正則順序数ではなくなります。
n が自然数であれば、"omega-n" は正則順序数です。
1_1_5.正則基数
正則基数 κ とは、「κ 未満の順序数の、κ 未満個の和で表せない基数」のことなのでした。
これはもう、今となっては簡単です。
順序数の一種として基数がありうるのでした。
だから、基数において、正則順序数について考えたら、それは結果的に正則基数そのものになります。
1_2.基数としての自然数全体の集合、"aleph-0"
順序数としての自然数全体の集合、"omega-0" の基数は、有限基数より大きい基数であり、また「自身未満の順序数の自身未満個の和で表せない」正則基数でもあるのです。
これこそが、基数としての自然数全体の集合、"aleph-0" です。
順序数としての自然数全体の集合、"omega-0" と、
基数としての自然数全体の集合、"aleph-0" が揃ったので、
自然数全体の集合の構成は、たった今こうして完成したことになります。
かなり長かったのですが、とにかく、ようやく、終わりました。
2.次回予告
「自然数全体の集合も余すところなく構成できた。
良かった良かった。もういいや」
となるところです。
もちろんそれでもよく、その場合はお疲れさまでした。
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とはいえ、(緩い)数学的構成主義においては、これで話が終わる訳ではありません。
彼らの扱う数学的対象は、有限のものを扱うために十分であるべきです。
もちろん、有限の数学的対象とは、自然数や今まで作ってきたものたちのことです。
さて、今までの話が、自然数全体の集合の中で、本当に言い表せているのでしょうか。
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ただの集合においては、集合全体の集まり、万有クラスと、それが取扱注意であることについて論じました。
順序数においては、順序数全体の真クラスと、それが取扱注意であることについて論じました。
自然数においては、自然数全体の集合で扱い切れます。
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しかし、実は、有限な数学的対象を言い表すには、自然数全体の集合とは別の数学的対象が必要になります。
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外延によって、整礎的集合が構成されます。
有限の手法で整礎的集合を構成する以上、これこそは文句なしに有限な数学的対象です。
この数学的対象の基数は有限になりますし、だから要素の数え上げももちろん可能です。
(内包で集合を定めると、条件となる論理式によっては、無限になることがあり得ます。
自然数全体の集合は正にそういう条件を複数設けて構成されるのでした。)
有限なある種の整礎的集合全体の集まりというものがあるはずです。
そしてこれは整礎的集合一般の真クラスと同等のはずであるか、あるいは何らかの意味でその部分集合(部分クラス)であるはずです。
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どうもそれは、自然数全体の集合と一致しないように見えます。
あるランクの整礎的集合一般においては、しばしば自然数とそれ以外の整礎的集合が混在しているのでした。
おそらく、有限なある種の整礎的集合全体の集まりは、自然数全体の集合と比べて、
「何らかの意味で、より大きい」
のです。
では、有限なある種の整礎的集合全体の集まり、その正体は何か。
これが分かったら、「有限な数学的対象を言い表す」「別の数学的対象」とやらが、手に入る訳です。
ここまで、(緩い)数学的構成主義を使ってきました。
だから、(緩い)数学的構成主義の目指す果てを、この際全部洗い出してしまいましょう。
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「そんなことは個人的にはどうだっていいのだが…」
それは、まあ、そうかもしれません。
だから、ここから先は、
「せっかくだから、最後まで見届けてやろう」
という気になった時だけ読んで下されば結構です。
やっていきましょう。
(続く)