数学(2022/7/1):キューネン本2冊についての記事_12.ZFC集合論の公理のリスト_10(中間生成物:集合一般における基数)
1.『基数としての自然数全体の集合』までのロードマップ(続き)
1_1.(成果物)集合一般における濃度(再掲)
1_1_A.集合一般における濃度の、基礎公理による構成
1_1_A_a.真クラスとしての濃度
ここで、集合一般における濃度の、ラフな(うまくいかない)アイデアを書きます。
ある集まりと別の集まりに(説明は省略しますが)ある種の全単射があるとした場合、「全単射がある集まり同士」で同値関係を見出し、これで「全単射がある集まり同士の集まり」で同値類を作ることが可能です。
要するに、全単射だったら集合の大きさは同じはずなのです。
ということで、
「この各々の同値類のことを、集合一般における濃度とみなせばよい」
というアイデアがかつてありました。
ZFC集合論以前の、最初の集合論の祖、カントールのアイデアです。
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しかし、実はこれだけだと、この同値類、濃度は、真クラスになってしまうのです。(詳しくは説明しません。)
順序数全体の真クラスや、万有クラスや、累積階層全体の真クラスは、何だかんだで実際にそのものをZFC集合論で扱うことはありませんでした。
ですが、これはそれらとは話が違います。
何しろ、当然扱えていたいはずの、集合のある種の大きさである濃度を、このままではZFC集合論で扱うことができないのですから。
これはとても困った事態です。
仮に、この困った濃度を『真クラスとしての濃度』と呼ぶことにします。
1_1_A_b.スコットのからくり
『真クラスとしての濃度』から、ZFC集合論で扱える集合としての濃度、つまり『集合一般における濃度』を抽出する、何らかの方法が必要になりました。
万有クラスが累積階層全体の真クラスに等しいとする主張を使うことで、これが達成されます。
具体的には、「スコットのからくり」と呼ばれる方法を使います。
スコットのからくりの基本的な発想は、
「ある種の全単射で作った各々同値類から、ランクが最小である集合だけを抽出する」
というものです。
ある集合のランクと、任意の集合のランクがある場合、ある集合のランクが最小である、つまりはある集合のランクが常に任意の集合のランク以下であるとします。
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数学上は万有クラスが累積階層全体の真クラスに等しいとする主張によると、全ての集合は整礎的集合なのでした。
だからランクを常に設定できますし、スコットのからくりが常に通用します。
1_1_A_x.集合一般における濃度の、基礎公理による構成
さて、ここでいうランクが最小である集合のクラスを、正式に濃度として扱います。
これだったら実はこの濃度は内包、そして集合として扱えます。
そしてこれこそが、『集合一般における濃度』の構成法の1つです。
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さて、こうして、『基礎公理』のバリエーション、『数学上は万有クラスが累積階層全体の真クラスに等しいとする主張』に基づく『スコットのからくり』により、ZFC集合論で扱える集合としての『集合一般における濃度』が抽出できるのでした。
1_1_B.集合一般における濃度の、選択公理による構成
集合一般における濃度を定義するための、別の手段があります。
ZFC集合論の公理の別の1つ、選択公理のバリエーションである、整列可能定理によるものです。
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整列可能定理は、
「あらゆる集合を整列可能集合に見立ててよいものとする」
という命題でした。
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さて、『濃度』の構成の際に行った、
「整列可能集合から順序数を介して濃度を作る」
方法を思い出してほしいのです。
このとき、
「ある集合の大きさを測るのに、一番無駄のない必要最小限の目盛りで測りたい。
つまりは、最小の順序数を用意したい」
というフォン・ノイマンの割り当てを使ったのでした。
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そこで、整列可能定理とフォン・ノイマンの割り当てを組み合わせると、
「あらゆる集合を整列可能集合に見立てて、対応する最小の順序数を割り当てて、濃度を作る」
ことができてしまいます。
フォン・ノイマンの割り当ては、もっとも単純な意味での濃度や、特に順序数における濃度を構成する時の作法だったはずなのです。
が、整列可能定理によって、これが順序数のみならず、集合一般において通用してしまうのです。
つまり、整列可能定理と、『特に順序数における濃度』によって、『集合一般における濃度』を構成できます。
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さて、『特に順序数における濃度』として、
「ある集合、この場合は順序数の、ある種の大きさを正確に測りきれる完全な目盛り」
が想定されていました。
選択公理方式の場合は、フォン・ノイマンの割り当てを使うところも含めて、全く問題なくうまくいくのは分かります。
では、基礎公理方式では?
「ある種の全単射で作った各々同値類から、ランクが最小である集合だけを抽出する」
スコットのからくりを、
「特に順序数における濃度は、何らかの順序数である。
順序数が等しいもの同士である種の全単射で作った各々同値類、要するにその順序数の集合から、ランクが最小である順序数だけを抽出する」
と読み替えます。
基礎公理の記事でも書いた、非常に重要なポイントとして、ランク1の累積階層、R(1) とは {{}} であり、順序数としては 1 が該当するのでした。
ランク2の累積階層には {{0}}, {0, {0}} が属します。このうち {0, {0}} は順序数としては 2 です。
ランク3の累積階層を書き下すと煩雑になりますが、12個あり、そのうち {0, {0}, {0, {0}}} は順序数としては 3 です。
以下かくのごとくして、ランク n の集合において、順序数 n そのものが存在します。
これが違っていたら困りますね。ある順序数の集合から抽出される順序数が、ある順序数と異なっていたら、それは矛盾です。
ですがこれは、実際には問題なく同等です。矛盾はありませんでした。
だから特に順序数におけるスコットのからくりは
「特に順序数における濃度は、何らかの順序数である。
順序数が等しいもの同士である種の全単射で作った各々同値類、要するにその順序数の集合から、ランクが最小である順序数だけを抽出する。
そしてこの順序数はその順序数と問題なく同等である」
ということを示しています。
このような順序数は、
「順序数の、ある種の大きさを正確に測りきれる完全な目盛り」
として、申し分ありません。
特に順序数におけるスコットのからくりは、実際にはフォン・ノイマンの割り当てと同様に「最小のものをとる」メカニズムを取っています。
なので、フォン・ノイマンの割り当ての場合と同じ順序数になることは、実際には不思議ではありません。
こうして、『集合一般における濃度』が『特に順序数における濃度』としても問題なく機能することが分かりました。
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というわけで、
ZFC集合論の公理の1つ、『基礎公理』のバリエーション、『数学上は万有クラスが累積階層全体の真クラスに等しいとする主張』か、または
ZFC集合論の公理の別の1つ、『選択公理』のバリエーション、『整列可能定理』を使うことで、
『集合一般における濃度』を、問題なく構成できます。
1_2.集合一般における基数
数学者フォン・ノイマンは、個数を一般化した基数を、
「ある順序数のうち、それ未満のすべての順序数について、それらの濃度が常にある順序数の濃度未満である時の、ある順序数そのもの」
と定めました。
「ある順序数とある順序数の濃度が等しい場合、その順序数」
すなわち『特に順序数における基数』を思い出させる定義ですが、決定的な違いがあります。
この定義では、『特に順序数における濃度』そのものの狭義の全順序関係、濃度における未満が使われています。
このために、選択公理の記事において、濃度における超過未満の話を、項目1つ(下準備を含めればもっとたくさん)割いて行ったのでした。
今までの記事は、やはり必要だったのでした。
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もちろん、『特に順序数における基数』は、『集合一般における基数』の定義と整合的です。
「ある順序数のうち、それ未満のすべての順序数について、それらの濃度が常にある順序数の濃度未満である時の、ある順序数そのもの」
にある任意の順序数を適用したら、それは
「ある順序数とある順序数の濃度が等しい場合、その順序数」
であることは明らかです。
(後者では濃度における未満を使わないだけです。)
こうして、『集合一般における基数』が『特に順序数における基数』としても問題なく機能することが分かりました。
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ということで、これが、集合一般における基数です。
2つの公理等と、その前提となる周辺的な事情と、『集合一般における基数』そのものの話だけで、4回もかけているのです。
が、とにかく、とうとうここまでたどり着きました。
2.次回予告
さて、ようやく『集合一般における基数』を手に入れたのです。
次の暫定目標は、『有限基数より大きい基数』です。
また、たくさん前提が必要となります。
しかし、いつかは到達できる。
やっていく気持ちが大事。やるぞ!
(続く)