数学(2022/5/16):キューネン本2冊についての記事_4.ZFC集合論の公理のリスト_2(空集合公理・対公理・和集合公理・冪集合公理、中間生成物:(集合論的な)関係)
1.ZFC集合論の公理のリスト(続き)
(2022/6/5 15:00頃)2022/6/1予告通り大改訂済
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さて、前回はZFC集合論の公理、『集合存在公理』『置換公理図式』『内包公理図式』『外延性公理』を使って、ただの『集まり』から初歩的な『集合』までを構成したのでした。
さて、この初歩的な『集合』と、その他のZFC集合論の公理から、どのような数学的対象が構成されるのか?
今回はその話をします。
使う公理は『空集合公理』『対公理』『和集合公理』『冪集合公理』です。
1_1.空集合公理
「要素を持たない集合が存在する」
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一瞬「そういうものなのだな」と納得しかかってしまいますが、キューネン本2冊ではこれは採用されておらず、『集合存在公理』等で代替されてしまっています。
キューネン本の大きな特徴でもありますので、もし読むときには意識しておいてください。
1_1_1(成果物).空集合
キューネン的には集合存在公理と内包公理図式と外延性公理、世間的には空集合公理と外延性公理の結果、「要素を持たない集合」、『空集合』が常に作れます。何も入っていない空袋くらいのイメージで考えて良いでしょう。
内包や外延としてみると、何の論理式もなく、何の要素もないのですが、これも集合として扱うこととします。
外延性公理により、中身のないシンプル極まりない空集合は、全て常に同じものです。空集合が出てきたら、特に区別せず「例のあの空集合」くらいの認識でいて結構です。
(中身が入っていると、中身がどういうものかによって、違う集合が当然たくさんあるわけです。
外延性公理は「同じ中身同士が全て完全に一致しないと同じ集合とは言えない」ということを言っている訳です)
1_2.対公理
「要素 x と要素 y (x=yでもx≠yでもいい)のみを持つ集合が存在する」
1_2_1(成果物1).無順序対
(主に)3の結果、「要素 x と要素 y (x=yでもx≠yでもいい)のみを持つ集合」、『対』(キューネン本でいうところの『無順序対』) {x, y} が常に作れます。無順序対において「は」、 {x, y} だろうが {y, x}だろうが、これらは同等の集合とします。ちなみに技術的にはこれに z や v を追加することももちろん可能です。
1_2_2(成果物2).空集合でない集合
『空集合でない集合』は全て『無順序対』です。重要な話で、空集合公理で作れるのは空集合であり、対公理で作れるのは空集合でない集合である、ということです。もちろん、我々の扱うほとんどの集合は、空集合でない集合の方です。
1_2_3(成果物3).単元集合
「でも、この方法では、2個以上の要素がある『空集合でない集合』しか作れないのでは?
要素が1個しかない『空集合でない集合』はどうするのか?」
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まず、実は、要素の数については、この時点ではまだ数え上げる手段がないのです。
だから、要素の数について論じることも、この時点では本当はできないし、ここを混同すると話が混乱するところです。
ですが、数え上げに頼らない説明が、実はこの時点で可能ですので、それに頼ります。
要するに、
「この要素とその要素とあの要素同士が等しくない」
と、2個以上のものを扱う時と同じような扱いができる訳です。
また、
「この要素とその要素とあの要素同士が等しい」
と、1個のものを扱う時と同じような扱いができる。
A≠B≠C≠…はそれぞれ等しくないから、(この場合は)3個以上あるのと同じ扱いができるし、X=X=X=…はそれぞれ等しいから、1個あるのと同じ扱いができる。
(同じような、というところが大事で、実際には『数』として期待される機能として見たら、これでは貧弱すぎるのです。
特にこれでは、次の数を求めることも、数え上げることもできないのです。
今の時点でそれをやったら、本当はズルになります。後述)
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さて、どうするか。
上の説明からすると、x=y であれば、y はこの場合 x と等しいので、無順序対には1つの x しか出て来ないのと同じことになります。
そういうことで、特に x=y の場合の無順序対 {x, x} は、結果的には「要素 x のみをもつ集合」として扱える、ということになります。
(少し違和感があるかもしれません。x は2個あるように見えます。
ですが、見かけ上2個あろうが何個あろうが、この集合の中にある要素は x のみで、何をどう扱ってもその全部の x が一斉に同じ影響を受けるのです。
だから、1個しかない x が影響を受けているのと、事実上同じ振る舞いをしている訳です。
こうなると、要素が x 1個しかない集合とみなしても同じことだ、と考えても全く問題はない訳です)
この {x, x} を『単元集合』 {x} と呼ぶことにします。
1_2_4(成果物4).順序対
数学者クラトフスキの定義により、単元集合 {x} と、単元集合でないふつうの無順序対の組み合わせで {{x}, {x, y}} という無順序対が作れます。
これは結果的には
「要素 x と要素 y (x=yでもx≠yでもいい)のみを持つし、xとyを固定しておいて交換しないことにした集合」
として扱えます。
これを『順序対』 (x, y) または <x, y> と呼びます。
(なお、各種順序関係と似た名前ですが、強いて言えば順序対の方がより根本的な概念です)
1_2_5(成果物5).(狭義の)直積集合
ある集合 A の要素 x と、(同じであっても異なっていても良い)ある集合 B の要素 y で作る順序対 (x, y) 全体の集合を、集合 A と集合 B の『(狭義の)直積集合』 A×B と呼びます。
具体例として、色とりどりの紐と色とりどりの菓子袋の組み合わせを順序対とみなし、可能な組み合わせ全部全部を詰め合わせた大入り袋を直積集合とみなして良い訳です。
(可能な組み合わせのパターンを数え上げることも将来的には可能ですが、やはりまだ今の時点では話が混乱するので省略します)
話を分かりやすくするために、紐と菓子袋は今回は交換不能としました。
菓子袋の中身はお菓子なので食べられます。
紐の中身は糸です。食べない方がいいですね。
つまり、これらは今回は交換不能にしてあります。
これで順序対としての集合、要するに順序対の、具体例として、イメージしやすくなっていればいいなと思います。
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で、実はこの(狭義の)直積集合をちゃんと定義するには、あと1つ公理が必要であり、またあと1つ公理があった方が望ましいのです。(和集合公理が必要で、置換公理図式または冪集合公理があると都合が良い)なので、ここを作るところまで、やっていきましょう。
1_3.和集合公理
「集合 X の要素の要素全体の集合が存在する」
1_3_1(成果物1).集合同士の和集合
(主に)和集合公理の結果、「集合 X の要素の要素全体の集合」、『和集合』が作れます。
まず、『集合同士の和集合』が作れます。
具体例として、卵2個をボウルに入れておき、料理が始まったら全部取り出して割るとします。この、卵の中身2個の入ったボウルを、集合同士の和集合とみなして良いものとします。
1_3_2_1(成果物2の下準備).集合族
後々のために今ここで説明しますが、『クラス』における『集合』と『真クラス』の分け方とは別に、『クラス』の一種として、「いくつかの集合からなる集まり」、『集合族』というものがあります。
『集合』 A, B, C, … をさらに大きな何らかの『集まり』 X の中に所属させたもの、「いくつかの集合からなる集まり」、これを『集合族』 X とします。
上の話から、『集合族』 X の要素は、要するに『集合』 A, B, C, … です。
『集合族』が『クラス』の一種なのは、「この集まりは何らかの集合を所属させている」という意味の論理式に従うからです。
(なお、『集合族』のうち、いくつかは自身も『集合』であり、別のいくつかは自身は『真クラス』です。集合族であるか否かと、集合か真クラスかについては、基本的には関係はないと考えて良いです)
1_3_2_2(成果物2).集合族の要素である全体の集合の和集合
さて、『集合族の要素である全体の集合』でも『和集合』を作れるのです。つまり、『集合族の要素である全体の集合の和集合』ですね(説明が長い)。
具体例として、2個より多い卵をボウルに入れて置き、料理が始まったら全部取り出して割るとします。この、2個より多い卵の中身の入ったボウルを、集合族の要素である全体の集合の和集合とみなして良いものとします。
ある特定の場合(数や無限の概念が出てくる前の、例えば今)、割り切って『集合同士の和集合』を『集合族の要素である全体の集合』に適用したら、『集合族の要素である全体の集合の和集合』になる、と考えてもいい訳です。(この定義では太刀打ちできなくなる場面が出てきますが、その話はしないでも話は成り立つので、特にしない予定です)
そんな訳で、中身の要素だけ考慮したい場合は、和集合、便利です。
1_3_2_3(成果物3).(狭義の)直積集合(再掲)
さっき言及した『(狭義の)直積集合』ですが、キューネン本2冊によると、実は和集合公理のプロセスを要するものです。色とりどりの紐と色とりどりの菓子袋の可能な組み合わせ全部全部を、可能な組み合わせ全部全部を詰め合わせた大入り袋にするには、ここではボウルの代わりに大入り袋を使えばいいのです。ここで実は和集合公理を使っているのと同じことになります。対公理と和集合公理は別物なのですが、(狭義の)直積集合を作る時には、こうやって合流するのですね。
1_4.冪集合公理
「ある集合の部分集合全体の集合が存在する」
1_4_1(成果物1).冪集合
(主に)冪集合公理の結果、「ある集合の部分集合全体の集合」、『冪集合』が作れます。
この「冪」という難しい漢字は、「べき」と読みます。
数学の授業の記憶が残っていれば、朧げに聞き覚えがあるかもしれません。
累乗をより一般的に「冪乗」と呼ぶところがありますが、あれとある種の共通点があります。
(なおこれは数え上げに関するところでもあり、やはり今の段階では詳しく説明できるところではありません)
1_4_2(成果物2).(狭義の古い)直積集合
(狭義の)直積集合を作る方法の一つが、冪集合公理を使うことです。
集合 A と集合 B の、『集合同士の和集合』の『冪集合』を作り、
さらに『集合同士の和集合の冪集合』の『冪集合』を作り、
『集合同士の和集合の冪集合の冪集合』の『部分集合』を取ると、
『(狭義の)直積集合』になるものが出てきます。
キューネン基礎論でも、置換公理図式が認められる前の、歴史的経緯の一環として触れているだけで、あまり詳しい説明はありません。私は賢くないので「そういうものか」と思って読んでいました。
この説明で作られるものを、暫定的に『(狭義の古い)直積集合』と呼ぶことにします。
1_X(成果物).(集合論的な)関係まで
1_X_1(成果物おまけ).(狭義の新しい)直積集合
そういえば、『(狭義の)直積集合』には、置換公理図式もあると都合が良いのでした。
「あると都合が良い」という、歯に物の挟まったような言い方をするのは、キューネン基礎論によると前述の冪集合公理で代替できるからでした。
でも、置換公理図式を一度導入すると、『(狭義の)直積集合』を作る時点でとても楽になります。
要するに、「特定の性質を持つ論理式」として「ある集合の要素に対応する順序対を作る論理式」を用意し、加工によって「順序対の集合」を作れば、これが(狭義の)直積集合になります。
これはつまりは、(狭義の)直積集合を、「特定の性質を持つ論理式で加工した成果物による集合」の一種として作れる、ということです。
この説明で作られるものを、暫定的に『(狭義の新しい)直積集合』と呼ぶことにします。
1_X_2(成果物3).(狭義の)直積集合(再々掲)
奇妙な話ですが、『(狭義の古い)直積集合』も『(狭義の新しい)直積集合』も、結果的にはできるものは同じ『(狭義の)直積集合』です。だから、単に(狭義の)直積集合を作るためなら、どちらかがあれば良いのですが、後々のために両方この時点で紹介しておきました。
(『(狭義の新しい)直積集合』から『(狭義の)直積集合』まで)
1_X_3(成果物4).(集合論的な)関係
(狭義の)直積集合がいったんできると、ふつうに生きていると直面するであろう、「あるものとあるものの間の関係」、『(集合論における)関係』が、比較的容易に構築できます。妙な話ですが、人間関係もその具体例です。ようやく見覚えのあるところにたどりつきました。
『関係』というと、「あるものとあるものの関係」ということで、なんかIT業界の人はER図(実体関連図)とかを思い出すかもしれません。
人によっては哲学(特に存在論)っぽいイメージがあるかもしれません。
(なお、ある局面においては、あるレベルの論理学でも『n項関係』という概念が出てきますが、これは後で扱いたいと思いますので、ここでは言及を避けます)
さて、集合論では関係について、扱いやすい定式化がなされています。
これが『関係』と呼ばれるもののすべてかどうかは分かりませんが、その大半を説明できるようには見えます。
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『順序対』を『要素』として、これを『所属』させた『集合』のことを、『(集合論的な)関係』と言います。
人間関係のたとえで言うと、AさんとBさんがジャンケンをしたら、お互いの出した手で「AさんとBさんはこういう手の組み合わせを出した関係にある」とみなして良いことにする、ということです。
(哲学寄りの人の感覚だと、なんか共通の性質を持っていてほしいかもしれませんが、そういうことはZFC集合論では特には要請しません。かなりゆるい関係を想定しているように見えます)
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実は、(狭義の)直積集合と(集合論的な)関係は、非常に似た作り方をしています。
どちらも要素が順序対であるような集合なんですね。
それで、(狭義の)直積集合は可能な組み合わせ全てを、(集合論的な)関係はその部分をなします。
そうなると、『(集合論的な)関係』は、結果的に『(狭義の)直積集合』の『部分集合』でもある訳です。
実はこんな形でつながっていたのですね。
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本当に厳密なことを言うと、(集合論的な)関係の定義そのものに必要な概念は、あくまで順序対と集合です。
(狭義の)直積集合の部分集合であることは「結果的にそうである」ということに過ぎません。
しかし、だからこそ、
「単純な定義だけで分かることではない、有意義な知見である」
と言えるでしょう。
「別々のものが、結果的には近い立ち位置にあった、それらの関係はこうである」と
いうの、知見としては大事な話です。学問をやるなら、ちょっとした発見、大事にしたいですよね。
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おそらく、数学寄りの方やその他ある種の方々には
「順序対という同じ要素でできている、特定の集合である(集合論的な)関係が、一般的な集合である(狭義の)直積集合の部分集合であるのは、言われるまでもなく当たり前ではないのか?」
と言いたくなるかもしれませんが、今回は愚直に明記しました。
(そういう方々の観点だと、一般の(狭義の)直積集合から特定の(集合論的な)関係を絞り込みたいし、さらに狭い条件を設けて、例えば順序関係や写像などの関係の一種にまで絞り込みたい。ということを考えるかもしれません。
ご安心ください。今後の記事も、基本的にはそのように展開します)
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なお、数学寄りでない方々にお伝えしたいのですが、
「数学(等)では一般の何か「から」特殊な何か「へ」、という定義の流れが多用される」
ということを、是非頭の片隅にでも置いておいてください。
ちなみに特殊な何か「から」一般な何か「へ」の流れがないわけではありません。
今作っている各種定義は、しばしば要素が有限個の場合にしか通用しないので、要素が無限個の場合には無限個でも通用するように拡張しなければならなくなります。
しかしその時には有限個の場合の定義を何らかの形で応用することがほとんどなので、最初から無限個でも通用する一般的なものを作る、ということができない場合があります。
実は、さっきから言及している直積集合も、いろんな段階に拡張することができます(が、その話をすることは基本的にない予定です)。
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そんな訳で、実は遠回りをしたのですが、有意義な遠回りであると考えて書いたものです。
2.次回予告
次回の記事では、関係の例として、ふつうに生きていると直面するであろう、さまざまな『順序関係』が構築できることを見ていきます。
順序関係、普通は何となくしか考える機会がないと思いますが、実はきちんと書くとかなり面倒な条件が必要になります。
とはいえ、それらを適正に満たせば、妙な話ですが、これでドングリの背比べもできるというものです。
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また、次々回の記事では、関係の別の例として、ふつうに生きていると直面するであろう、「あるものを入力したらあるものが出力される仕組み」、『写像』または『(広義の)函数』も構築します。
これまた妙な話ですが、問を投げかけたら答を返してくれる物知り博士や、コインを入れたらコーヒーが出てくる自動販売機とか、労力を投入したら報酬が返ってくる給与体系(十分かどうかわからないが)とかも、その具体例です。
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また、これらを組み合わせた結果、なんと『順序数としての自然数』や『基数としての自然数』が構築できます。
まずこの時点で驚きます。
「何でお前がこんなところに!?」
くらいの気分になります(私はなった)。
ともあれ、これでやっと次の数を求めることも、数え上げることも、ごく自然にできるようになるのです。
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そして、それ以降の話になりますが、『基数としての自然数』を使って『(ZFC集合論の条件を全て満たす)集合』を作ることになるので、さらに驚きます。
そこまでやらなきゃなんないのか!?
やらなきゃならないのですね。
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まあ、ともかく、見覚えのあるところまでたどり着くことができるようになります。
そこまで、しばらく、お付き合いください。
ご清聴ありがとうございました。
(続く)
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