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〈CLASSICAL お茶の間ヴューイング〉安倍圭子インタビュー:マリンバは私の魂だから 人生はマリンバと共にある 〜歩み続けるマリンバ界のパイオニア〜(小室敬幸)【2020.8 147】

■この記事は…
2020年8月20日発刊のintoxicate 147〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された安倍圭子インタビュー記事です。

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intoxicate 147


安倍圭子a

マリンバは私の魂だから 人生はマリンバと共にある 〜歩み続けるマリンバ界のパイオニア〜

interview&text:小室敬幸 

1968年10月4日を境に、マリンバの歴史は変わってしまった。この日に世界で初めて、マリンバでしか出来ない音楽表現を追求する楽曲だけで構成されたリサイタルが開催されたのだ。首謀者は安倍圭子――その後、伝説のマリンバ奏者として世界中から尊敬を集めただけでなく、教育者、作曲家としてもあまりに大きな足跡を残してきたリビング・レジェンドだ。その評価はジャンルを超越しており、米国の一流楽器メーカーからライオネル・ハンプトン、ゲイリー・バートンとセットで3大アーティストとしてプロモーションしたい、という契約を持ちかけられたほど。


 「でも断ったんです。日本人だからこそ、自分の納得する楽器を日本から出したいという強い思いがありましたから」


 自分が売れることは二の次、三の次であって、彼女にとって何よりも大事なのは、マリンバという楽器と日本の音楽界が、世界に誇れる存在になること。80代を迎えた現在も献身的な姿勢は健在だ。


 そもそもマリンバという楽器は20世紀初頭、シロフォンをもとにして改良されはじめ、1930年代後半に至って遂に、温かみのある独自の音色を獲得。1940年にはマリンバを独奏者とする最初の作品、クレストンの《コンチェルティーノ》が書かれているのだが、安倍に言わせれば「スチューデント・ピース」に過ぎないという。だからこそ安倍は1960年代以降、マリンバにとって「本当に良い曲」を日本の作曲家と継続的にコラボレーションを重ねて生み出してきたのだ。それらが現在、世界各地で演奏されるマリンバのレパートリーとして定着していったのだが、当時の聴衆からは「すごく肩が凝る」といったような正直な感想も届くようになった。


 そこで適度な息抜きの役割を果たしたのが安倍自身の曲である。彼女の作品の特徴は、まず最初にマリンバありき。楽器が気持ちよく鳴ることを大事にした音楽は、1980年代以降に数多く書かれるようになり、現在およそ100作品を数えるまでになった。世界中のマリンバ奏者がレパートリーとして愛奏する安倍作品を、円熟の極みにある作曲家自身が弾くというのだから、今回のリサイタルは絶対に聴き逃がすべきではない。プログラムも実に多種多様だ。


 「最初の《古代からの手紙》は、古今和歌集や百人一首におさめられた紀友則の短歌『ひさかたの光のどけき春の日に 静心なく花の散るらむ』を読みながら演奏するんですが、いわばコンサートの序文みたいな曲ですね」


 続く、《竹林》と《遥かな海》はどちらも1980年代に書かれた安倍の代表作。オリジナルは独奏だが、今回は信頼を寄せる3、40代の弟子との三重奏版で披露される。


 「《竹林》はデュエット版なのですが、そこに私は特殊なマレットを使って、即興的に笹の音を重ねるんです。次の《祭りの太鼓》はオランダのユトリヒトにいた頃に日本人として何が出来るかと考えるなかで、浮かんだ曲。《山をわたる風の詩》は、自然の風に癒やされるような曲です。《鯨によせる詩》ではフィンランドのコントラバス奏者テッポ・ハウタ=アホが制作した鯨の声を加工したテープに、即興的に音を重ねていきます。《タンブランパラフレーズ》はストラスブールのホテルに泊まっている時に生まれた曲ですね。子どもたちが遊んでいる声が聴こえてきて、フランス民謡を歌いながら石を積んでいたんですけど、それがとても可愛らしくて(笑)。民謡を書き取って、曲のなかで断片的に散りばめています」


 再び80年代の代表曲《風紋》のデュオ版を挟んで、メインとなるのが小協奏曲《ザ・ウェーブ》だ。


 「日蘭交流400 周年を記念して2000年に初演した曲なんですけれど、あの当時、日本企業が南米の山を禿山にしちゃったのを見ましてね……。地球が駄目になると思って、“ こんな社会、嫌” という風にはじまる曲なんです」


 安倍の人生と密接な関係にある曲ばかりだからこそ、思いの乗った自作自演は特別なもの。83歳の巨匠が辿り着いた極地を目撃せよ!


■安倍圭子 (Keiko Abe)プロフィール
国際的マリンバ演奏家。演奏活動は世界50ヶ国に及ぶ。マリンバの新たな奏法を次々と開拓しながら音楽表現の幅を拡げ、数多くの作曲家への委嘱活動を実践すると同時に、安倍自身のオリジナル作品も生み出すことにより、マリンバを独奏楽器として確立させてきた。桐朋学園大学特任教授、名古屋音楽大学大学院客員教授。


安倍圭子j

〈CD〉
『伊福部昭: ラウダ・コンチェルタータ, 他 - 傘寿記念シリーズ』

安倍圭子(marimba)石井眞木(指揮)小泉和裕(指揮)原田幸一郎(指揮)小林
研一郎(指揮)新交響楽団
[EMI X Tower Records/Excellent Collection QIAG-50082] 2CD


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〈CD〉〈輸入盤〉
『Time for Marimba マリンバの時』
三木稔: マリンバ・スピリチュアル/マリンバの時/安倍圭子: 桜の幻影
/武満徹: 雨の樹/湯山昭: ディヴェルティメント/田中利光: マリンバのためのニ章
ダニエラ・ガネヴァ(marimba)
[Signum UK SIGCD057]


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