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ダブルバインドとは?―公私の二重のメッセージが活用される場面とは―3-⑫

ダブルバインドとは、矛盾した二重のメッセージを伝えるコミュニケーションを意味します。この言葉は「ダブル」(二重・二つ)と「バインド」(抵抗・絡め付け)からなる連語で、日本語では「二重拘束」と翻訳されます。

二重拘束の受け手は、「どうしたら良いのか」「どうすべきか」と、精神的に拘束された状態に陥ります。通常、言語化された指示と言語外の非言語的指示が互いに矛盾している場合に起こります。
例えば、「自分で考えて動け」と指示しておきながら「すべて報告してから動け」と注意するような場面です。

以下に、ダブルバインドの類型や具体的な例を紹介し、その影響や対策について解説します。


否定的ダブルバインドとは?

否定的ダブルバインドとは、二つのメッセージのうちどちらに対応しても、受け手にとってマイナスの状況になる事例を意味します。
次のような例が考えられます。

  • 例1: ミスの理由を聞かれ説明すると、「言い訳をするな」と指摘される

  • 例2: 分からないことは質問するようにと言われたのに、「自分で調べろ」と注意される

  • 例3: 意見を言うように指示されたのに、「君の意見は聞いていない」と冷たい反応を受ける

これらは、否定的ダブルバインドの典型的な例です。
特にビジネスシーンでは、上司と部下の間で無意識のうちに発生しやすいのがダブルバインドの特徴です。このような状況にあった場合、部下は混乱し、どのように対応すべきか分からなくなります。


肯定的ダブルバインドの活用例

一方で、ダブルバインドには肯定的な側面もあります。巧みに利用すれば、相手に創造的な行動を促したり、状況を打開するきっかけを与えることができます。例えば:

  • 例1: 子どもに「宿題をやるのは今か後でどっちが良い?」と選択肢を与える

  • 例2: チームメンバーに「この方法を試すか、別の方法を考えるか」と選ばせる

これにより、相手は主体的に選択肢を考えるようになり、行動の動機付けが高まります。


ダブルバインドの影響

ダブルバインドの影響は、受け手に強いストレスや混乱を引き起こす可能性があります。特に、長期間にわたる否定的ダブルバインドは、精神的な負担が蓄積し、人間関係の悪化や仕事の効率低下を招きます。

主な影響

  • 心理的ストレスの増加

  • 自己効力感の低下

  • コミュニケーションの断絶


ダブルバインドを行ってしまう上司の心理

1. コントロール欲求が強い心理

一部の上司は、自分の影響力を絶えず確認しようとする強いコントロール欲求を抱えています。

  • 矛盾を作り出す理由: 部下を常に不安定な状態に置くことで、自分が「絶対的な存在」であると認識させようとします。矛盾した指示を与えることで、部下が混乱し、自分に依存せざるを得ない状況を作り出してしまうのです。

  • : 「自分で考えて行動しろ」と指示した後、「なんで勝手に決めたんだ」と叱責する。

2. リーダーシップの不安

ダブルバインドを行う上司は、内面的にリーダーシップへの自信を欠いている場合があります。

  • 根本的な原因: 自分の指示が適切であるか、チームが自分についてきているかを心配し、曖昧で矛盾した指示を出すことで責任を曖昧にしようとします。

  • 心理の裏側: 明確な指示を出して結果が悪かった場合、自分の責任が問われることを恐れるため、あえて矛盾する指示を与え、責任を部下に押し付けやすい状況を作る傾向があります。

  • : 「期日を守ることが最優先」と言いながら、「クオリティが低ければ意味がない」と矛盾する要求を同時にする。

3. 自分のストレスやプレッシャーを投影している

上司自身が、組織からの矛盾した期待や過剰なプレッシャーを受けている場合、それを部下に投影することがあります。

  • ストレスの影響: 上司が自分の置かれた状況に対応しきれず、その混乱を部下とのコミュニケーションに反映させてしまう。

  • : 上層部から「売上を伸ばせ」と言われつつ、「経費を削減しろ」とも求められる状況にいる上司が、部下に対して無理難題を押し付ける。

4. 部下を試している心理

上司によっては、部下を成長させる名目で意図的に困難な状況を作る場合もあります。

  • 心理的背景: 「本当に優秀な部下なら、この矛盾を乗り越えられる」という思い込みや、「優秀さを試したい」という動機。

  • リスク: 部下に過度な負担をかけるだけでなく、信頼関係を損なう可能性が高い。

  • : 「自分の意見をもっと出せ」と指導しながら、「上司の意向に従え」と言ってしまう。

5. 自己中心的な思考パターン

自己中心的な上司は、相手の視点や状況を考慮せず、自分の感情や都合に基づいて指示を出します。

  • 原因: 他者の気持ちや反応に関心が薄く、結果として矛盾したメッセージを送ってしまう。

  • : 「もっと意欲的に行動しろ」と言いながら、「余計なことをするな」と叱責する。

6. コミュニケーション能力の不足

単純に、上司自身が効果的なコミュニケーションスキルを持ち合わせていない場合もあります。

  • 背景: 自分の考えや期待を整理できず、言葉に矛盾が生じる。

  • : 「細部にこだわるべき」と言った翌日に、「細かいことは気にするな」と指示を変える。

7. 意図しない無意識の矛盾

上司自身が、自分の言動に矛盾があることに気づいていない場合もあります。

  • 心理背景: 自分の価値観や目標が整理されておらず、部下に伝える際に混乱を生じさせる。

  • : 「主体性を持って動け」という理想と、「私の指示を待て」という現実的な価値観の衝突。


ダブルバインドへの対処法

ダブルバインドとは、一見矛盾する2つ以上のメッセージが同時に与えられる状況を指し、受け手がどちらの指示にも従うことができず、心理的に追い詰められる状態を生み出します。このようなコミュニケーションに対処するためには、以下のステップを検討してください。

1. 状況を認識する

ダブルバインドに陥るとき、多くの場合、自分がその状況にいることに気づきにくいです。そのため、

  • 発信されるメッセージに矛盾がないかを冷静に分析する。

  • 矛盾を明確に感じた場合、それが一時的なものか、継続的なパターンなのかを観察する。

例:上司から「自由に意見を言ってほしい」と言われながらも、意見を述べた後に批判される場合、このような矛盾が継続しているかを注意深く観察します。

2. 自分の感情に注目する

ダブルバインドは受け手にストレスや困惑を引き起こします。そのため、自分の感情状態を把握することが重要です。

  • イライラや不安感を覚えた場合、それがコミュニケーションの矛盾によるものかどうかを考える。

  • 感情に流されず、一歩引いて状況を眺めることを心がける。

3. 矛盾を明確化する

もし可能であれば、矛盾を具体的に言語化し、対話の中でそれを指摘します。ただし、指摘の仕方には注意が必要です。

  • 相手を責めるのではなく、事実に基づいて説明する。

  • 例:「先ほど自由に意見を言ってほしいと仰いましたが、その後の反応が少し批判的に感じられました。この点についてもう少し説明をいただけますか?」

4. 距離を取る

ダブルバインドが長期的に続く場合、心理的に距離を取ることも重要です。

  • 感情的に巻き込まれないように意識する。

  • 必要であれば、物理的または関係的に距離を取ることを検討する。

5. 外部の助けを借りる

信頼できる第三者や専門家に相談することも、状況を改善するための有効な手段です。

  • 職場であれば、人事や信頼できる同僚に状況を説明する。

  • 家庭内であれば、カウンセラーや心理士に相談する。

6. 自己主張を練習する

ダブルバインドに巻き込まれないためには、自分の意見や感情を適切に伝えるスキルが役立ちます。

  • 「アイ・メッセージ」を活用する。

  • 例:「私はこう感じています。」「私にはこのように聞こえました。」といった表現を使う。

7. ケースバイケースで対応する

すべてのダブルバインドが同じではないため、相手との関係性や状況に応じた柔軟な対応が必要です。

  • 時には直接的な対処よりも、流すことやその場を離れることがベストな場合もあります。

ダブルバインドはコミュニケーションにおいて避けられない場面もありますが、正しい認識と対応法を身につけることで、その影響を最小限に抑えることができます。自分の感情と状況を冷静に見つめ直し、必要であれば外部の支援を活用することが大切です。


ダブルバインドを防ぐための組織的アプローチ

ダブルバインドは、職場においてコミュニケーションの混乱を招き、従業員の心理的負担やパフォーマンスの低下を引き起こします。
この問題を解消するためには、個々の上司の行動だけでなく、組織全体の風土を見直すことが不可欠です。

1. 職場風土の見直しの必要性

ダブルバインドが多発する職場では、以下のような特徴が見られることがあります:

  • 上司の権力が絶対視されている
    上司の指示がどんなに矛盾していても、それに異を唱えたり、改善を求めたりする風土がなく、部下は常に指示に従うことを求められています。

  • 悪い行動が見過ごされる
    ダブルバインドを行う上司が問題視されず、その行動が「普通のこと」として受け入れられている場合、問題がさらに拡大します。

これを防ぐためには、上司の行動が常にチェックされ、改善されるような組織文化を築くことが必要です。

解決策: 健全な職場風土の形成

  1. 心理的安全性を高める
    上司の指示や行動に疑問を持った際、それを率直に話し合える環境を整備します。部下が意見を言える風土があれば、矛盾の指摘や改善の提案が行いやすくなります。

  2. 透明性のある評価システム
    上司や管理職の行動を部下やチーム全体がフィードバックできる仕組みを作り、定期的な評価を行います。

  3. リーダーシップの再定義
    「上司=絶対的な存在」という考え方を改め、リーダーシップとは支援的であるべきという価値観を広めます。

2. 上司や管理職への研修の重要性

ダブルバインドが発生する大きな理由の一つは、「上司自身がダブルバインドの概念や影響を理解していない」という点です。
矛盾した指示を出すことで、部下に心理的負担を与えていることを無自覚に行っているケースが多く見受けられます。

上司が無意識にダブルバインドを行う理由

  • 何がダブルバインドに該当するか知らない
    明確な定義や例を知らないため、日常的に矛盾した指示を出していることに気づいていません。

  • 短期的な結果を重視しすぎている
    「早く結果を出せ」というプレッシャーから、矛盾や不明瞭な指示をしてしまう。

  • 自分の責任を回避したい
    あいまいな指示により失敗時の責任を部下に押し付ける傾向がある。

研修のポイント

上司や管理職向けの研修では、以下を中心に学習させることが効果的です:

  1. ダブルバインドの定義と具体例

    • 矛盾した指示や期待の例を示し、それがどのように部下の混乱を招くか解説します。

    • 例: 「自分で考えろ」と言いつつ「なぜ相談しなかったのか」と叱責する。

  2. ダブルバインドの影響

    • 部下が受ける心理的影響(ストレス、モチベーションの低下、信頼関係の破壊など)を具体的に説明します。

  3. 適切なコミュニケーション方法

    • 明確で一貫性のある指示を出すスキルを学びます。

    • 具体的な目標設定や、部下との定期的なフィードバックを通じて矛盾を回避する方法を実践的に学ぶ機会を設けます。

  4. 自己認識の向上

    • 自分の指示や行動を振り返る習慣をつけ、無意識のうちに矛盾した行動を取らないための内省を促します。

3. 組織全体でのダブルバインド防止策

研修や風土改革を行う際は、管理職だけでなく、組織全体で取り組むことが重要です。

  • 全社員向けの意識向上
    ダブルバインドが何であるか、どう対処すべきかを全社員に共有することで、問題が可視化されやすくなります。

  • モニタリングの仕組み作り
    定期的な社員満足度調査や、匿名で意見を述べられる仕組みを導入します。

  • 適切な評価と改善サイクル
    ダブルバインド行動を取る管理職に対し、改善を求める仕組みを設けます。必要に応じて、責任を明確にし、再発防止を徹底します。

ダブルバインドを防ぐためには、上司個人の行動だけでなく、組織全体の文化や制度を見直すことが不可欠です。
適切な研修を通じて、上司がダブルバインドの問題点を理解し、矛盾のないコミュニケーションを実現できるようサポートしましょう。
また、健全な組織風土を築くことで、職場全体が前向きで信頼に満ちた環境を実現できるはずです。


まとめ

ダブルバインドは一見すると否定的な要素が目立ちますが、正しく理解し活用すれば、コミュニケーションの改善や相手の成長を促す手段にもなり得ます。特にビジネスや教育の場面では、その影響をよく理解し、適切に対応することで、より良い関係性を築くことができるでしょう。

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