【小説】父娘の動かないボーナス(410字ショートショート)
「こんなに食べてええの!」
12歳の私は跳び上がった。
「ええで。お前のために買ってきたんやから」
父が私の髪をわしゃわしゃ撫でる。
ボーナスの日、父がよくケーキを買ってきた。
親子2人、我が家の特別な日。
10年経ち、私がボーナスを貰う歳になった。
還暦の父は定年退職し、娘が結婚し家を出ることだけを心配する日々を送っている。
買ったばかりのケーキに目をやる。
──父は喜んでくれるだろうか。
「ただいまァ!」
「おお、おかえり」
威勢のいい帰宅に驚く父。
「パパ。これ、ケーキ。初ボーナスやったから。パパいつも買ってきてたやろ」
「せやっけ」
とぼける父。
「1人2個やで」
「そんなに食べてええんか」
「ええで。パパのために買ってきたんやから」
いつか聞いた台詞。
「ありがとうな」
「ううん。このイベントは、これからもずっとや」
私が結婚したらどうかわからないけど──。
そう思ったけど言わないでおいた。
とりあえずそれまでは、我が家の動かないボーナスのイベント。
《終》
たらはかに様の企画に参加させていただきます。
今週のお題は「動かないボーナス」。
素敵な企画ですので、皆様もぜひご参加を。
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