読書note|『形を読む』
この世界には何か客観的な宇宙の真理のようなものがあるわけではなく、結局人間が知りたいことを言葉によって抽出しているに過ぎない、そんな意識を常に呼び起こしてくれた。
養老孟司「形を読む 生物の形態をめぐって」
講談社学術文庫2020年1月9日発行(原本は1986年に培風館より)
232ページ
養老先生の本は2003年に出た「バカの壁」が平成で一番売れた新書であり、その発行部数は現在450万部をこえ、日本でベストセラー本のランキングは5位。そんな養老先生が単行書として最初に書いた本がこの「形を読む」である。
この本は10章から構成され、まず第1章と第2章で形態学そのものについての前提を確認し、第3章から形態とはなにかについて論じ、第4章と第5章で形態学の基礎概念について書かれている。そして第6章以降で形をどう意味づけるかという論議を(1)数学的・機械的観点、(2)機能的観点、(3)発生的観点、(4)進化的観点の4つに分けて説明している。
どのようにして形を読むか。教科書で学ぶことは既に出来上がって固定されたように見える知識が多いが、この本のように現在ある知がどのような経緯で得られたかを知ることができるのは面白い。形を読み、そこから規則性や共通の何かを浮かび上がらせるには視点を広げたりあるいは狭めたりする必要がある。
話の引き出しが多く、また複数の視点(そもそもこの問題を考えているのは脳であるという根源的な視点も含め)が常に存在していて、読む人によって感じることは様々かもしれない。何度も読み返したくなる本である。
養老先生は公式非公式ともにインターネットに多くの動画が上がっている。それらの動画を見ていると、養老先生の語りは思考の目的地ではなく道路を提供してくれるように思う。時代が求めている質問を投げかけられた養老先生は笑いながら「そんなもの考えたって仕方ない」とか、あるいは逆に「そんなことわかりきっている」といったような具合に飄々と答える。昆虫採集は好きになれなさそうであるが、あれぐらいの白髪になりたい。
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