自治体が有機農業に取り組むための7か条
有機農業による地域づくりを継続している地域(自治体)の特徴をもとに、これから有機農業の推進に取り組む自治体が参考とすべき事項を紹介します。
はじめに
多くの自治体では、担い手不足、少子高齢化、耕作放棄地の増加などの課題を抱えています(図1)。有機農業による地域づくりを継続している地域(自治体)では、これらを克服とは言えないまでも、確実に新規就農者が増加し、地域の活力となり、農業を基盤にさまざまな産業が芽生えているところがあります。ここでは、これらの地域の特徴を整理し、これから有機農業の推進に取り組む自治体の参考となる7か条を紹介します。
第1条 情報を収集する
先進事例(自治体)の情報をもとに、当該地域の現状によく似た事例について、情報を収集し、現地を訪ね担当者の考え、取り組みに触れることが大切です。
なぜ、新規就農者に有機農業を志す人が多いのか。有機農産物に対する関心が高いのか。
先進事例を参考に、推進のイメージを明確にしていきましょう。
第2条 地域の特色にあった目標を明確にする
農産物の「安全・安心」は当然のことであり、地域の特徴にはなりません。「なぜ、ここで有機農業なのか?」を関係者間でよく検討し、「ここでなければ得られない、地域の風土と密接した特色」を共有し、地域づくりの目標を明確にしましょう。たとえば、兵庫県豊岡市、新潟県佐渡市、宮城県大崎市、千葉県いすみ市などでは、希少生物が棲める環境づくりを市民とともに進めてきました。石川県羽咋市では、「はくい式自然栽培認証制度」を設けて、他の地域との違いを明確にしようとしています。
また、多くの消費者が近くに存在する都市近郊か、存在しない地域かでも、目標とする地域農業の姿は異なります。
第3条 志を同じくする仲間を見つける
個性のあるさまざまな方がそれぞれの立場、得手を活かし、協力していくことが大切です。その際、「地域の環境を保全したい」「次代に誇れる環境を残したい」など、活動の中心となる志を深め合える仲間がいないと続きません。地域ぐるみで取り組むには、仲間を増やすことが大切です。福島県二本松市東和地区では、Iターン者を含む複数のリーダーが協議会の構成員となり、農業を軸とした地域づくりを担っています。
第4条 農業に限定せず、地域の将来を見据えた協議会を創る
単に、有機農業の推進、地域農業の維持にとどまらず、商工業や環境保全など、地域の将来をともに考え、実行するため、個人でなく組織としての活動が大切です。たとえばいすみ市では、自然環境保全・生物多様性を進める団体による部会、JAなど農業団体による有機農業や環境保全型農業を進める部会、商工会、観光協会など地域経済の振興を検討する部会により構成する「自然と共生する里づくり連絡協議会」(事務局はいすみ市)を設立し、地域が一体となった地域づくりを進めています。
第5条 地域の篤農家に実施してもらう
地域の特色を活かした有機農業技術確立のキーパーソンをまず探すことが大切です。経営的に余裕があり、しかも技術力、観察力、判断力のある篤農家に、取り組んでもらいましょう。
慣行栽培実施者であっても、地域の将来をともに語り合える農家が、まず田畑1枚から有機農業に取り組めば、新規就農者が試行錯誤しながら取り組むよりも、より速く地域の有機農業技術が確立でき、慣行栽培から有機農業への参入者にとっても参考になります。
その際、農家間に栽培上のトラブルが発生しない配慮が大切です。茨城県常陸大宮市では、「有機農業を促進するための栽培管理に関する協定」を農家間で締結し、農薬の飛散防止や病害虫のまん延防止などに留意した営農環境の維持に努めています。
第6条 新規就農者(移住者)へは、自立を前提とした支援に心掛ける
新規就農者(移住者)に来てもらいたいのは、どこの自治体も同じです。しかし、農業の厳しさを伝えず、成功事例を紹介するだけでは、地域で準備したレールに乗ればよい程度の覚悟で参入してしまいます。Uターン、Iターン志向者が農村、とくに中山間地域でどのような暮らしを求めているのかを知ることも大切です。そして、体験、準備期間を取りながら、参入を決意した人には、定着に向けた支援が必要です。
茨城県石岡市八郷地区や岐阜県白川町などでは、地域ぐるみで受け入れる研修先があり、コーディネーターを中心とした支援体制が充実し、継続的な新規就農者の定着がなされています。
第7条 販路を開拓する
まず、おいしい農産物を生産する技術の確立に、全力を注ぐべきです。そのうえで、地域の独自性を前面に出し、農産物およびその加工品のブランド化を図ることが大切です。
いすみ市では、学校給食用の米をすべて地元産有機米に切り換える取り組みを通して、有機農産物の生産拡大、認知の向上による消費拡大を図っています。都市部の消費者の理解促進も大切ですが、まず、地元という選択肢もあります。
前例のないことに取り組む勇気を
新しい取り組みは往々にして敬遠されがちです。ある自治体で有機農業に取り組もうとした職員に「次にくる担当者が困らないような仕事をするように」と上司から諭されたと、聞いたことがあります。しかし、最も大切なことは前例のないことに取り組む勇気です。
まず、それぞれの自治体で地域の農業や環境保全に関心のある住民とともに話し合う場づくりから始め、「有機農業に取り組むきっかけ」を見つけてください。
参考文献
藤田正雄(2018)「自治体が有機農業に取り組むための7か条」『有機農業をはじめよう! 農業経営力を養うために』有機農業参入促進協議会