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怪獣と天使と皆既月食
先日、息子が1歳を迎えた。
2キロの一升餅を軽々と担ぎ「こっち、こっちよ!」とみんなに呼ばれながら、高速ハイハイで、彼が選択したカードは「アイドル」だった。
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家族のアイドルであることに違いはないが、1歳を迎え、やんちゃぶりに一層拍車が、かかってきた。
サウスポーで、なかなかいい肩をしていて、とにかく、やたらめったらモノを投げまくる。スマホやコップに食べ物まで。
投げ散らかした後はドラマのいじめっ子みたいなキメ台詞。
「あーあぁ⤵︎」
彼が最初に覚えたコトバがなんとこれ。
満面の笑みで「あーあぁ⤵︎」とのたまう姿は、まるで小さな怪獣だ。何かをやらかしちまった時に初めて聞いた「あーあぁ⤵︎」の響きが気に入ってしまったのだろう。
外出時に抱っこしていて、自分が降りたくなると「グウウゥゥゥゥゥゥ」と周りの人が二度見するぐらいの重低音で威嚇。
それを放置し続けるとたいがいこんな目に……。
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ちょっと前までは、泣いて訴えることしか出来なかったのに、慌てる私を見てアッハーと嬉しそうに笑ってる。
風呂に入れば、湯船に口をつけブクブクするのがマイブーム。静かになったと思いきや、私の左乳首に狙いを定め「とれちまう!」ってぐらいに乳首を引っ張るから、オチオチ風呂も入っていられない。
また冒険が大好きな怪獣くんは、ベビーゲートが開いた音を察し、プリズンブレイクさながらに高速ハイハイで脱走を試みる。
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最近トンネル的なものに、はまっていてどこでも潜っていくから、イスの足に挟まって身動きがとれなくなり、よく悲鳴をあげている。
なら家の庭で好きなだけ、はしゃぐがよい!と開放的に遊ばせて、少し目を離すと、口の周りを土と芝だらけにしてオッェッとえずいている。
こんな感じで、ひとときたりとも目が離せない。
でも彼が「あーあぁ⤵︎」以外に、自分の想いを伝えることができたなら、私たち以上に言いたいことは、きっとたくさんあるはずだ。
👶 👶 👶
急に熱いご飯を口の中に放りこまれて、死ぬかと思ったわ。いきなり水飲めって言われて飲めるかいな。ええ加減にせえ!
鼻水ふかれるの嫌やのに、しつこく追いかけてくるからドアの角で頭ぶつけたやん!
耳に水入りまくっとるでー!シャワーは頭の上からかけてくれー、お願いや!
だーかーらー、なんべんゆうたらわかるねん!!
ボタン!
ボー、ター、ンー!
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オイ、鼻もげるやんけ!
👶 👶 👶
彼から見ると、私たちもきっと怪獣だ。
ボォーッとして、無意識に傷つけてしまったこともたくさんあると思う。
でも彼は、数分後には何事もなかったかのようにニコニコ天使の笑顔。
「ひぃぃぃ、乳首とれるわ」どれだけ乳首を噛まれても彼が満足するまで、いつ何時でもおっぱいをあげる奥さん。
毎日「かわいい」と言い続け、髪が抜けるほど引っ張られても、毎日スキンシップを欠かさない長女。
ママとさえ言わないのに、なぜか自分だけ名前を呼んでもらえて、跳びはね喜ぶ長男。
毎日、熱心に教えていたギャルポーズができるようになって満足げな次女。
一緒に寝ていて、頭を踏み台にされてもケラケラ笑っている三女。
私も怪獣がどれだけ街を壊しても、顔をポリベビーでペシペシされても、彼が抱っこを求めてくれば、いつまでも抱っこしてやろうと決めている。
彼がいるだけで家の温度が2度上がり、そのぬくもりがみんなの笑顔になる。
🌒 🌒 🌒
先日の皆既月食。
ベランダで、彼を抱っこしながらカメラをもって一緒に月見を楽しんだ。442年に一度のそれはもう見事な輝きだった。
真っ暗闇の中、しばらくお月さまを見つけることができなかったが、突然、まん丸と光るお月さまを指してこう言った。
「あーしっ⤴︎」
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最近、覚えたてのコトバ「よしっ⤴︎」と最初に覚えた「あーあぁ⤵︎」をミックスさせた興奮したときに使うコトバ。ちょっと語尾上げ。
腕の中で微動だにせず、ぽかーんと口を開け、ビー玉のように真っ黒に光る目をキラキラさせて、じぃーっと美しく輝き続けるお月さまを眺めている。
彼の横顔を見ていた。
二度と同じ景色を見ることはできない。
成長の喜びや寂しさなんかが相まって、胸がキュッとなり、思わず息子を抱く手に力が入る。
手足がすっかり冷え切っていたが、その横顔はとても尊く、ずっと眺め続けていたかった。
ずっとずっと記憶に残しておきたい景色だった。
🌒 🌒 🌒
風呂上がりの奥さんがパタパタと階段を上がる音で、ふと我に返る。
「なにしてんのー!もう、風邪ひくじゃない!」
めちゃくちゃ怒られた。
そして翌日、案の定、天使は熱を出した。
ほんまかんにんしてや。
怪獣は私。
君はみんなのアイドルだ。
大切にするよ。
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