お兄さん、一杯いかがですか?にどう答えればいいのかプロに教えてもらったら目から鱗が落ちた
夜、繁華街を歩いていたらお酒を飲まずとも一度ぐらいは…
「お兄さん、一杯いかがですか?」
と声をかけられた事があるのではないだろうか。
こういう時、皆さんならどう返答するだろう?
① 聞こえないフリをして無視する。
② 結構です。いいです。などスパッと断る。
③ もう店が決まっている、帰りなので…など理由を伝え、やんわりと断る。
こんなところだろうか。①とか②でさらっとやり過ごせばいいのだが、なんだかなと思ってしまって、私はいつも③を選択することになる。
先日も出張先で酒好きの先輩と目的の店に向かう途中、繁華街を歩いていたら居酒屋の兄さんに声をかけられた。
「お兄さん、一杯いかがですか?」
「もう行き先が決まっているので…」
理由を伝えて切り抜けようとするわけだが…
「お兄さんハイボール好きですか?今日は特別に一杯目無料です!」
丁寧に断ったつもりが、まだ食い下がってくるやん。
その後も兄さんにモニャモニャしている私を見て業を煮やした先輩。
「違うなぁ。それじゃダメですよ!」
「じゃあ、どうすりゃいいんですか?」
「ありがとう。この一言だけでいいんです」
遠くを見つめながら語る先輩の目は、煌びやかな赤や青のネオンが反射してキラキラ輝いていた。
ここで少し先輩の紹介をしておこう。
彼は三度の飯より酒が好き。酔拳の師範みたいに飲めば飲むほど饒舌に、そして楽しくなる。
食べながらタラタラ飲むことは好まず、食べるときは食べる。飲むときはつまみいらずでトックリを愛でるかのように傾けながら酒を飲み続ける。
なんでも子どもの頃から正月が好きで、3歳の頃からお屠蘇の日本酒をペロペロ舐めていた。それが最高の喜びだったとか……
爺さんの代から酒に取り憑かれていて、飲みすぎて橋の上から落ちて町の伝説になったとか……
ほんまかどうかわからん話も含めて、酒に関するエピソードが酒の肴になるくらいある無類の酒好きだ。
だから酒を楽しむことに関して妥協は許さない。
店選びも慎重で口コミを調べたり、実際に足を運んで客層やメニュー価格を事前にリサーチ(彼はこれを夜の散歩という)したり、絶対に失敗しない店を選ぶ。
こんなところで足踏みしている私を見ていられなかったのだろう。
「次、声かけられたらやってみてください」
大きな交差点にさしかかったところで兄さんが声をかけてきたので、言われた通りにやってみる。
「ありがとう!」
「どちらかお探しですか?すぐ近くにあるんですよ」
「 ………… 」
すぐかぶせて話しかけてくるキャッチの兄さん…。
「甘い!!感謝の気持ちがまったく伝わっていません」
一瞬だけ語気が強くなり、また優しい口調で語りだした。
感謝…?
「本気でしっかり目を見てありがとう。と言わなきゃだめです。気持ちが入ってないのが伝わっています」
本気……?
「声をかけてくる兄さんも友達じゃないんだから、私たちに本当に来て欲しい思っているわけありませんよね。仕事の中で役割を果たそうとしているだけです」
な、なるほど……。
先輩の目がさらに鋭く輝きを増す。
「そりゃ仕事だから必死になる場合もあるでしょう。でも頑張って声をかけてくれているんです。それに対して感謝の言葉を贈るんですよ」
私の胸につかえていたものがすっとおりた。
そういうことか……
「(こんな僕に声をかけてくれて)ありがとう」
と想いながら伝えてみてください。
「はいっ!!」
アムロ行きまーす!ぐらいの勢いで返事して、また兄さんが声をかけて来るのを待った。
そしてついにその時はきた。
先ほどのような勢いはなかったが、声をかけてくれてありがとう。と感謝の気持ちを込めて伝えてみる。
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私の一言で兄さんの動きが完全に止まる。
なに?ありがとうって?
何に対して?
といった感じでちょっと驚いたような表情を浮かべた後、兄さんはちょっと微笑んでいるように見えた。
そしてそのまま何も言わず私たちを見送った。
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「すごい!完全に兄さんの動きが止まりましたね」
まだ飲んでもいないのにちょっと興奮した私に
「感謝の想いを伝えられて気を悪くする人はいませんよ……」
満足そうな表情を浮かべる先輩と、足取り軽く、そこら中の兄さんに感謝の気持ちを伝えながら目的の店へ向かった。
🍺 🍺 🍺
いったい何しとるねん!
出張中のこんな話を読んだら、奥さんはきっと白目を剥いてこう言うことだろう。
でも感謝の想いを伝える機会はきっと増えているはずだ。
それぞれの役割や立場を理解しながら、感謝のコトバを伝えることを日々忘れてはいけない。
道を極めた方の教えは深ーい。