37-1.マインドフルネス事例検討会
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1.マインドフルネスを臨床実践で活用する
マインドフルネスは、疼痛やうつ病の治療法、そして弁証法的行動療法やACT、スキーマ療法などの認知行動療法に幅広く用いられています。さらに、近年では、慈悲や思いやりを深め、トラウマや反芻などの対処に役立つことが示され、心理職の活動を広げるための必須技能として、その重要性が確認されています。
そこで、臨床心理iNEXTでは、「マインドフルネスの習得」を2023年度の重要テーマとして、基本から最新の実践技法までを段階的に学ぶことができるさまざまなレベルの研修会シリーズを企画しています※1)。
※1)https://note.com/inext/n/n9a3848c1db97
今回は、今年度前期の締めくくりとして、マインドフルネスを臨床実践で活用するための「技能向上のためのマインドフルネス事例検討研修会」を開催します。この事例検討会は、今年度後期に臨床心理iNEXTが提供する「事例検討会コミュニティ」※2)につながるものです。多くの方のご参加を期待しています。
※2)https://cpnext.pro/polish/polish2.html
2.マインドフルネス技能の向上の必要性
事例検討会の事例提示は、これまでの研修会の講師を務められたマインドフルネスのエキスパートである大谷彰先生と中野美奈先生が担当します。司会とコメントは、下山晴彦が担当します。プログラムは、下記のようになっています。
大谷彰先生は、反芻(rumination)に対する介入法としてのマインドフルネスの手続きの解説に加えて、米国で実施した強迫症事例における反芻の治療にマインドフルネスを活用した経過を発表されます。大谷先生の関連図書は、『マインドフルネス実践講義』(金剛出版)です※1)。
※1)https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b515555.html
中野美奈先生は、解離症状である身体麻痺事例においてマインドフルネスを活用した経過を発表されます。事例経過に沿って、ヴィパッサナー瞑想、ボディスキャン、手動瞑想なども含めてマインドフルネスをどのように活用したのかを具体的に説明されます。中野先生の関連書籍は『マインドフルネスのすべて−今「この瞬間」への気づき−』(丸善出版)です※2)。
※2)https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b295083.html
3.大谷先生発表「反芻」事例の初回情報
32歳女性。看護師。思春期頃から強迫スペクトラム障害に悩まされる。強迫思考は収まったが、抜毛症とその行為に関する反芻思考が継続した。
抜毛症は、まつ毛、眉毛、陰毛に集中し、ことにまつ毛の抜毛後は周囲の目が気になる。顔面への意識集中は時たまスキンピッキング(皮膚むしり)に至り、これが原因で身体醜形不安も生じた。この時点での抜毛は週2~3回、特に職場でのストレスが高じたときに悪化した。抜毛後は「情けなさ」、「非力感」、「(シェイムによる)自己嫌悪感」にかられ、これがさらに抜毛の引き金となることもあった。
初回面接での “control within” はクライアントにとってインパクトが大きく、抜毛衝動が生じると、これを繰り返した。これが注意操作であることをクライエントに伝え、その反応および効果、さらに皮肉過程プロセスについても確認した。
4.大谷先生発表の「反芻」事例の介入経過
強迫スペクトラム障害及び抜毛症についてバイオサイコソーシャル(bio-psycho-social)観点から詳しい情報を提供し、反芻思考と強迫行動を維持するメカニズム、そしてマインドフルネスを含む認知行動療法、ハビットリバーサル法等についても説明をした。
情報提供は認知的共感を促進させ、クライエントとのラポールづけが確認できた。治療を通じて「(症状を)コントロールする(control over)」のではなく、「(内にひそむ)コントロールを信頼できる(control within)」ようになろうと述べた。クライエントは “Control within, control within” と自ら繰り返した。
タッチ・アンド・リターンによるマインドフルネスを導入する。実践後、クライエントは「落ち着いた感じがした」と述べる。この効果をMRIの画像を見ながら扁桃核とデフォルトモードの変化についても話し合った。
5.中野先生発表「解離」事例の初回情報
34歳女性。発作後の顔面を含む右半身麻痺によりA病院に入院した。心因性非てんかん発作および転換性障害と診断された。
転換性障害は、神経身体症状によって説明できない神経症状を示すものであり、症状として心因性の麻痺であった。クライエントを担当したリハビリ療法士は車椅子での退院を予想していた。1か月半の入院中ほぼ毎日リハビリが行われ、作業療法士による関節可動域訓練等が行われた。
心理職との面接は週3日の頻度で行われ、一回の面接時間は平均40分であった。初回面接時の日本語版Patient Health Questionnaire-9(J-PHQ-9)は22点で“重度の抑うつ状態”であった。
6.中野先生発表の「解離」事例の介入経過
マインドフルネスの技法としては「今ここ」へ意識を向けることに加え、自分の感情に気付き受け入れること、ヴィパッサナー瞑想、ボディスキャン、手動瞑想を行った。
対人関係療法において設定するテーマとしては、「役割の変化」が結婚10か月だったクライエントの問題領域として設定された。セラピーでは,クライエントの家族との関係が吟味され、過干渉な実母へどのように対応するかについての具体的な方法や、夫や義母との会話の仕方などについての新しい戦略が検討された。
結果として、退院時にはクライエントは杖歩行できるようになった。これは身体の全体感の獲得に加えて、反芻、感情の抑圧、自己批判傾向などが軽減されたためであると考察された。
7.マインドフルネス技能の向上の必要性
近年では、発達障害や虐待とも関連して複雑性PTSDや解離性障害が精神症状や問題行動の、隠れた維持要因になっていることが認められるようになっています。そこで、臨床心理iNEXTでは、冒頭で紹介したように「複雑性PTSD」※1)と「解離性障害」※2)の研修会を実施します。
※1)https://note.com/inext/n/n560d7865ed09
※2)https://note.com/inext/n/n5551c315490d
このような複雑性PTSDや解離性障害と関連するトラウマや反芻などの症状に有効性が示されてきているのがマインドフルネスです。そこで、臨床心理iNEXTでは、「最新マインドフルネスの実践を学ぶ−トラウマと反芻への臨床活用−」研修会を実施します※3)。
※3)https://note.com/inext/n/nab5b374254b9
今回のマインドフルネス事例検討研修会に参加される方は、ぜひ準備として、この最新マインドフルネスの臨床活用を学ぶ研修会にご参加ください。研修会のプログラムは、下記のようになっています。
8. 「事例検討会コミュニティ」について
臨床心理iNEXTでは、マインドフルネスを基礎から臨床的応用に向けて段階的に学習を高めていけるように、体系的に発展するように研修会を企画しました。全体の体系は下記のような構図(マップ)となっています。
いずれの研修会も、マインドフルネスのエキスパートである大谷彰先生と中野美奈先生のどちらか、あるいはお二人の先生が指導をします。その点で一貫性のある研修プログラムとなっています。その最終段階が、今回の「技能向上のためのマインドフルネス」事例検討研修会となります。
さらに、臨床心理iNEXTでは、キャリアデザインや技能向上に向けて、心理職が安心して情報を共有し、議論をしていく「コミュニティ」形成を2023年度の重要目標としています。そこで、今回の事例検討研修会の発展系として、マインドフルネスなどを用いた心理支援に関心を持つ心理職の皆様にご参加をいただくオンライン定員型事例検討会を継続的に開催します。
オンライン定員型事例検討会では大谷彰先生と中野美奈先生に下山が参加してファシリテーターを務めます。心理技能の向上を目指す心理職コミュニティとして多くの方のご参加を期待しております。この事例検討会については、後日、改めて臨床心理マガジンiNEXTでお知らせいたします。
記事制作 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
デザイン by 原田優(公認心理師 臨床心理士)
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Copyright(C)臨床心理iNEXT (https://cpnext.pro/)
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