濱元伸彦

大阪大学大学院(修士)、アメリカ・ニュージャージー州の教育学大学院(博士)を修了。公立…

濱元伸彦

大阪大学大学院(修士)、アメリカ・ニュージャージー州の教育学大学院(博士)を修了。公立中学校教員を経て、現在は関西にある大学の教員。専門はインクルーシブ教育の実践および制度、人権教育。

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「インクルーシブ教育を受ける権利」を三層で考える

日本も批准する障害者権利条約においては、「インクルーシブ教育」が全ての学習者の権利であると規定しています。障害者権利条約における教育条項の詳しい解説を示した一般的意見第4号(2016年)は、その標題が「インクルーシブ教育を受ける権利」(the right to inclusive education)と付けられており、インクルーシブ教育が権利であることが前面に出され細かな説明が出されています。 では「インクルーシブ教育を受ける権利」とはどのような意味なのでしょうか。残念なが

    • インクルーシブ保育と合理的配慮①

       私の専門は校種的にいえば、小・中学校であるわけですが(大学では就学前のことを学ぶコースの学生とも接点があります)、今回、初めて、就学前の先生方を対象にした研修「子どもの保育と合理的配慮」を担当させてもらいました(子ども情報研究センター主催・人権保育・教育連続講座の一部)。もう一人サポートいただける先生がおり、いっしょにグループワークなどもまじえながら実施させていただきました。  相変わらず、最後の内容が時間ぎりぎりになる展開でしたが、保育現場の先生方のお話も聞かせていただき

      • インクルーシブ教育と子どもの持ち味

         2024年の夏休みは、大阪府のT市の小学校での校内研修や二つの自治体での小・中学校の先生方に対するインクルーシブ教育に関する研修を行いました。  その一つはS市での教職員の研修で、人権教育の研修の一講座として担当させてもらいました。S市は、大規模なインクルーシブ教育のオンライン学習会を定期的に開催している東京大学・バリアフリー教育開発センターと提携して、インクルーシブ教育推進の取り組みを行っており、「インクルーシブな学校づくりハンドブック」を刊行しています。  そのようなイ

        • インクルーシブ教育の前提となるインクルーシブ保育

          先日、大阪府で50年近く障害児共同保育に取り組んできた保育園の保育者と同園を研究する研究者が登壇する学習会に参加いたしました。 ★ 障害児共生保育の交流学習会1~『保育を含めた就学前の共生』 私自身は、専門が学校教育(義務教育レベル)なので、就学前の取り組みについて研究の場で知ることが稀であることもあり、大変興味深く学ばせてもらいました。 同園の取り組みは、現在「インクルーシブ保育」と呼ばれるものの先駆けとなるもので、学習会では現在の園の日常や大切にされていることなどが話さ

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        「インクルーシブ教育を受ける権利」を三層で考える

          「共に生きることを学ぶ権利」について

          海外のインクルーシブ教育の実践に思うこと  以前のnoteで、オーストラリア・クイーンズランド州やカナダBC州のインクルーシブ教育について紹介してまいりました。その実践や考え方からは、日本にいる我々が学びうることが多くあると思います。  しかし、一方で、私自身、インクルーシブ教育に熱心に取り組んでいるとされるイギリスやオーストラリアの実践においても、やや物足りなさを覚える部分がありました。それは「共に学ぶ」ということの価値が教員の言葉としてあまり語られないことです。「多様性

          「共に生きることを学ぶ権利」について

          オーストラリア・QLD州のインクルーシブ教育②

          はじめに    前記事(クイーンズランド州の公立高校で見たインクルーシブ教育①) に引き続き、オーストラリアのクイーンズランド州のインクルーシブ教育について、調査訪問した学校の様子を紹介しながら述べたいと思います。2018年、2019年と私たちの研究チームは、クイーンズランド州北東部にあるケアンズの3つの学校を訪問しました。3校のうち2校は公立校(州立)で、一校が小学校、一校が高校です。ちなみに当地では、小学校の卒業後、7年生から高校に進学します。高校は、公立校の場合は選抜は

          オーストラリア・QLD州のインクルーシブ教育②

          オーストラリア・QLD州のインクルーシブ教育①

          はじめに  私の研究テーマの一つはインクルーシブ教育です。より詳しくいえば、インクルーシブ(包摂的な)学校をどうつくるかに注目して研究しています。 インクルーシブ教育という言葉に出会ったのは、私が大阪府の公立中学校の教員をしていた時でした。当時、私はある学級の担任をしていましたが、ある障がいがあるという生徒の保護者と話していた時でした。その保護者が、国のインクルーシブ教育システムに関する資料などを持ち寄られ、合理的配慮に基づいた支援や成績の評価をしてほしいとの願いを語れまし

          オーストラリア・QLD州のインクルーシブ教育①

          カナダBC州のインクルーシブ教育を振り返って

          カナダBC州(バンクーバー)のインクルーシブ教育の研修をふりかえってですが、たいへん多くの出会いと学びがありました。 長年、インクルーシブ教育の制度を研究してきた一木玲子さんらが「分けないから普通学級のない学校」(もちろん支援学級もない学校)と呼んだ学校や学習の在り方にふれることができました。学びの仕組みとしては、少人数学級をベースに、多様な学び方を許容する学びの環境、そして、個に応じた支援が柔軟にあること、また、学びの場を分け隔てないことを重視する姿勢があります。 ただ

          カナダBC州のインクルーシブ教育を振り返って

          『インクルーシブ教育ハンドブック』刊行から約1年

          倉石一郎さん、佐藤貴宣さん、渋谷亮さん、伊藤駿さんと一緒に監訳にたずさわりました『インクルーシブ教育ハンドブック』(ラニ・フロリアン監修)が北大路書房より刊行されて約1年となります。国内の30人以上のインクルーシブ教育に関わる研究者がこの翻訳にたずさわった、まさに大著です。多くの図書館や専門機関に置かれるようになり、普及しつつあると思われます。改めて内容を紹介したいと思います。 黄色く明るいカバーデザインの「ハンドブック」ですが、全然ハンディーではなく、864ページというま

          『インクルーシブ教育ハンドブック』刊行から約1年