精神疾患者数400万人(※1)時代の到来 リワーク支援施設「ニューロリワーク」がこの社会でできること
今や年間で400万人を超えるといわれる精神疾患者数。十数年前まで2~300万人を推移していたことを考えると、この社会は「健全」といえるものではないのかもしれません。
「一億総活躍社会」がスローガンとして掲げられ、「働き方改革」が進みつつありますが、「誰もが働ける社会」は、決して「誰もが心に負担を抱える社会」であってはなりません。この社会で心に負担を抱える人たちがいるのであれば、併せて、心の負担を解消させる“社会資源“も必要なのではないでしょうか。
1.社会資源としての就労・復職の支援施設
「就労支援」や「復職支援」という言葉は、もしかするとあまり馴染みのない言葉かもしれません。これらは、精神疾患によって休職や離職を余儀なくされた方への復職や就労の支援を指し、行政福祉サービスの一環としてさまざまな団体や機関、事業所によって提供されています。
私たちインクルードは、復職や就労の支援を行う事業所である「ニューロリワーク」や「ニューロワークス」などを運営しています。社会に多くある支援事業所の中でもあまり例のない、脳科学のエビデンス研究を基にした支援を提供しています。臨床心理士や公認心理師による心理領域だけでなく、脳の健康に良い生活習慣構築に踏み込んで精神疾患の方の復職や就労に向き合っています。
2.社会との接点であり続ける「リワーク施設」
精神疾患などで休職されている方の復職活動は、一般的に「リワーク(return to work)」と呼ばれます。
リワーク施設に求められている社会的意義は、休職からの復職は言うまでもなく、復職後、いかに安定して就労し続けることができるか、(つまりは精神疾患の再発による再休職を防ぐか)にあります。すなわち、「復職して支援終了」ではありません。いわば、一人ひとりの復職後の人生の「その後」に関わらせていただくことになります。つまり、「復職ありきではないリワーク支援」という考え方が非常に大切です。
こうした考えのもと、リワーク施設は休職者と社会との接点でありつづけることが求められています。
私たちインクルードが運営する「ニューロリワーク」もまた、精神疾患やメンタル不調で社会活動を休まざるを得なくなった方々を対象に、リワークの支援を提供しています。
今回は、そんな「ニューロリワーク」の取り組みの一面をご紹介させていただきます。
3.「ニューロリワーク施設長」にインタビュー
編集部(以下、「編」):
「ニューロリワーク」をよく知る施設長、山川(やまかわ)さんにお話をうかがいます。よろしくお願いいたします。
山川(以下、「山」):
よろしくお願いいたします。
編:
まず簡単にご紹介させていただくと、もともとは就労を目指す就労移行支援事業所の「ニューロワークス」に在籍されていて、その後、復職を目指すリワーク施設(※正式には“自立訓練(生活訓練)事業所”)の「ニューロリワーク」に異動されたということですね。
山:
はい。以前は就労移行支援事業所ニューロワークスの横浜センターでサービス管理責任者を務めておりました。横浜センターでは就労希望者と同じくらい復職希望者の問い合わせも多く、私自身も立ち上げから多くの復職利用者と関わってきたことから、リワーク施設のニューロリワークに異動となりました。
編:
ニューロリワークは主に精神疾患やメンタル不調の方が利用されるとのことですが、そうした事業所を利用し、復職に至るまでの流れなどはまだまだ一般的には認知されていないかもしれません。どのような流れで復職を実現されるのかをお話しいただいてもよろしいでしょうか。
山:
利用にあたって、まずは欠席せずに通所ができるようにすることが目標となります。そのために毎日の生活習慣を整え、事業所に通う日中リズムに慣れていくことからスタートします。
編:
「リワーク」というと実務に重きをおいた訓練のようなものを想像しますが、当面はそこから離れ、日常生活に焦点を当てていくということですね。
山:
その通りです。まずは生活習慣を整えることから始めます。事業所に通うリズムが整い、生活習慣が安定すると、その後は休職の原因と向き合う段階へと進みます。同じようなシチュエーションになったときに向けて、どのような再発予防策を練っておくかがポイントです。
それが終わると、職場への復帰に向けた活動を行っていきます。復職前面談の予行練習や、会社までの通勤訓練、自身の復帰前の課題を期限を決めて提出いただくなど、リワーク活動としての総決算となります。こうした取り組みを経てリワークの成果が見込まれ、利用者の方々の上司や産業医、主治医に復職の承諾をいただけると、職場への復帰となります。
編:
これまでに多くの方々のリワークに携わってこられたとのことですが、復職に成功されている方々に共通する部分などはあるのでしょうか。
山:
休職中だけでなく、復職後も焦りが強い方の場合は、体調を崩しやすい傾向があるかもしれません。休職中の方は復職を焦る気持ちが出てしまうものですが、焦らず着実に準備をおこなうことが一番の近道なのです。
復職後の方に関していえば、「成果や結果を出す」「遅れた分を取り戻す」との意識から頑張りすぎてしまう面があります。精神科の医師との話の中でもよく挙がりますが、「7割程度の力で、余力を残して働く」と良いですね。
編:
なるほど。
「がんばりすぎる」というのも、ときに心身の負担になるということですね。
山:
休職者の方々は「とにかく一日も早く復職したい」という想いを持って私たちの事業所に訪れるのですが、体調や状態によってはなかなかそこが難しい方も多く、本人のご希望の時期よりも復職がずれてしまうこともあります。
そういった中でも、「あのときに復職せず、もう少しリワークに取り組めて良かった」「この期間をニューロリワークで過ごせてよかった」とお話をいただくこともあります。
編:
事業所の特色である「復職ありきではないリワーク支援」のひとつの事例ですね。復職後の安定した就労を視野に入れた取り組みには、他にどのようなものがあるのでしょうか。
山:
たとえば、脳科学に基づいて生活習慣を改善したり、自律神経の乱れを整えることを目的とした「パーソナルブレインフィットネス」をパーソナルトレーナーと一緒に行う取り組みや、コミュニケーションの向上を目指した「チームビルディング」などがあります。また、復職後は体調が崩れやすいため、「定着支援」というサービスを通じて復職後のアフターケアもおこなっています。
編:
多くの方々のリワークに携わってきたことを踏まえて、今後、事業所をどのようにしていきたいとお考えでしょうか。
山:
「リワーク」というサービスの認知度はまだまだ低く、社会全体の休職者のなかで、サービスを利用いただいている方はごくわずかです。そのため、まずはリワークというサービスの認知度を高め、メンタル不調で働くことに課題を感じている方々が1日でも早く職場に復帰し、その後も長く健康に働き続けられるよう、リワークというサービスの有用性を深めていきたいと考えています。
編:
社会に対して、まだまだ発信していくことがたくさんあるということですね。発信という点では、これからリワーク施設の利用を考えている方に向けたメッセージなどはありますか。
山:
リワークを始める前や始めたばかりの頃は、「なんでこんなところに居るんだろう」「こんなことをしていていいのかな」という不安があるかもしれません。3か月~半年にわたってリワークを利用する方の中には「そんなに長いの?」と感じられることもあるかもしれません。
ただ、目先の数か月と、これからの何十年と比較をしたとき、疾患と向き合いそこを改善するための活動と考えると、この期間は決して無駄な期間ではないということに気づかれると思います。精神疾患は目に見えない分、再発を繰り返しやすい病気です。「自身が生きていくため」「家族のため」など理由は人によってさまざまだと思いますが、大切にしたい想いがあるからこそ、社会復帰のために自身と向き合い、時間をかけることを意識いただけると良いかと思います。
編:
誰もが健全に、そして末永く働けることが大切ということですね。
そういえば、余談になりますがYouTubeチャンネルにも出演されていますね。事業所の利用者の方々にも認知されていると思うのですが、反応などをいただくことはあるのでしょうか。
山:
毎回欠かさずに動画を観てくださっている方々もいらっしゃって、非常に励みになっています。私が入室すると「あっ!ユーチューバーの山川さんだ!」と冗談を言われることもあります(笑)
また、YouTubeを観て事業所への見学や、ご相談にいらっしゃる方もいます。
編:
いつか、素顔で街を歩けないほどの有名人になるかもしれませんね。
リワークの認知を広めるという意味でも、今後もいろいろな形で情報発信いただければと思います!
本日はありがとうございました!
※1.(出典:「厚生労働省 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」)
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