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”自分らしい”味は、田舎で受け入れられる?【#3.愛される飲食の作り方】

私たちジソウラボは、「つくる人をつくる」をビジョンに掲げ、富山県南砺市の井波地域で活動している起業家支援チームです。
地方で、そして井波で起業したいという方々をサポートさせていただく中で、よく伺うのが「食文化をつくりたい」という声です。一方で、飲食ビジネスや地方での起業に関心がありながらも、コロナ禍のためになかなか一歩を踏み出せないという方が多くいらっしゃると感じています。
そこで、サステナブル都市計画家の山崎満広さん、建築家でジソウラボメンバーでもある山川智嗣さんをお迎えして、飲食ビジネスを志す方に向けた対談動画を収録しました。それらをテキストで再録し、4回にわたってお届けします。

「本場フランスの味」に固執し続けた末路とは…?

――飲食ビジネスをやりたい人は、大なり小なり「自分らしさ」を打ち出したいと考えていると思います。そんな人たちが、田舎で飲食ビジネスをする時に気をつけるべきポイント、
「これだけはやってはいけない」ということは何でしょうか?山崎さんはいつも笑顔でかっこよくお話しされている姿が印象的ですが、「これは本当にヤバかった」とか、あまりの失敗に涙した夜とか、これまでにありませんでしたか?

山崎:よく聞かれるんですよね(笑)。失敗なんて本当にいっぱいあるはずなんですけど…寝ると忘れちゃうんですよね。

山川:素晴らしい(笑)。それは才能ですね。

―だから本当は、皆さんの涙を誘うようなしくじりの話をしたいなと思うんですけど…。でも僕は、前回お話しした「アジャイル型」でずっとやっていて、何かまずい出来事が起こると、「これは何かを変えなきゃいけないから起きているんだ」と思って動いてきました。失敗したそのことにフォーカスするのではなく、それをどうリカバリーするか、どう改善するかということに注力するんです。

――失敗を失敗で終わらせないということですね。

山崎:よくあるケースの一例ですが…都会や海外で飲食ビジネスをしていた人が「この味を守りたい」「この味を田舎でも実現したい」と、例えば本格的なフランス料理のお店を出すとしますね。でも、地元の人は毎日のようにフランス料理を食べに来るわけではないので、どうしても商圏を広げざるを得ません。そしてコロナ禍のような事態が起こって人流が途絶えると、お客さんは来なくなり、売上が立たなくなるという悪循環に陥ることがよくあります。そこで慌てて地元客向けにスイッチすると、「ハンバーグ定食ないの?」「オムライスは?」と言われてしまう。それでも頑固に「うちはフランス料理のお店なんです!」とこだわり続けると地元の人も離れていき、結局お店を辞めてしまうという悲しいことになったりします。地元の人が食べたいもの、行きたいお店がある一方、自分が叶えたい飲食の世界観がある。それらをどうやって同居させるのかは、よく考えなければいけないと思います。

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――「俺が修行してきたフランスの本場の味を食べてほしい!」vs.「いつも家では煮物だから、ちょっとおしゃれな洋食でも食べたいわ」という。そのバランスをどう取るかということですね。

山崎:難しいポイントですね。いきなり田舎で皆が急激にフランス料理ばかり食べ始めた地域が出ても面白いと思うんですけど(笑)。誰も知らないものを持ち込んで、それをそのまちのひとつの文化にしていくのも意義あることだと思います。でも、それは膨大な資金があって、10年くらいは儲からなくてもいいや、くらいじゃないとできないでしょう。でも、田舎で飲食をやりたい大多数の人にはそんな資金力や時間はないと思うので、そのバランスはすごく考えないといけない。10人いたら10通りの回答があると思います。前回お話ししたように、絶対成功するフォーマットはそれこそ絶対にないと思うので。

――そのバランスの割合、つまり自分たちが提供したいものと、お客さんが喜ぶものというのは、山崎さんの場合はどれくらいですか?

山崎:「nomi」のマネージャー兼メインシェフは、飲食経験がゼロだったんです。どこかで修行したとか、誰かに習ったというのではなく、ただただすごくおいしいご飯を作る技術があるという人で。彼女は、実は地域の道の駅の仕入れ担当者だったんですね。だから最初から農家さんとのパイプが太くて、「この時期は〇〇さんの里芋がすごくおいしい」「そろそろあの人のほうれん草が出てくる」など、地元農家と野菜のことを熟知していました。そのネットワークがあれば、もう素直に土地のものをシンプルにお出しすればいいなと。外から来た人にとっては「南砺ではこういうものが食べられているんだ」という新鮮な驚きがあるし、地元の人にとっても、季節を感じられるきっかけとなります。「絶対にこの料理を」と最初から決め打ちしなかったのは、ある意味良かったのかなと思っています。

――料理人の声と食べる人の声、そして土地の声がありますよね。「nomi」では土地の声、食材の声がちゃんと反映されている。

山崎:今では、新しく農家を始めた人が「新しいきくらげを作ったので、ぜひ使ってください」と声をかけてくれたりと、いい循環が生まれてきています。それも嬉しいですね。道の駅に出ているような食材は、生産量が限られていたりして一般の流通マーケットには乗らないものが多いんです。だから、東京のお店では絶対に食べられないものを出すことができます。


自分の軸を持ちながらも、変化を恐れず常にチャレンジを

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――では次に、山川さんにお聞きします。ポートランドでは、そのバランスはどんな感じでしたか?

山川:シェフの友人が多く、その中には現地で最も有名な日本料理店のオーナーもいました。彼女たちを見ていると、2つのポイントがあると感じます。1つ目は、自分の軸を持っていること。何かの分野で突出していたり、「これだけは負けない」というものを皆がもっています。そして2つ目は、すごくオープンで、新しいことにどんどんチャレンジすることです。うまくいっている人は、この2つのポイントをちゃんと備えています。そして、挑戦するか・しないかの判断には、広い意味での「カスタマー」の意思を尊重しています。食べに来てくれるお客さんだけではなく、仕入れ先の農家や業者、デリバリースタッフなど、信頼する仲間がやっていることをよく見ていますよね。例えば、農家さん自身が食べているものや、調理の工夫を見て取り入れたり。自分の軸がしっかりとありながら、挑戦を続けてバラエティを広げていけるのは素晴らしいなと思います。飲食はサービス業ですから、お客さんに寄り添うことは重要です。しかし、寄り添いすぎると他と同じになってしまう。自分らしく寄り添うことが、お客さんに違和感を与えないコツなんだと思います。

田舎でサービス業を成功させるには、最も近くでよく顔を合わせる人が集まってくれればいい。だから、人間関係の構築は本当に重要になってきますね。山崎さんが本当にすごいと思うのは、外から来て、ちゃんと地元に根づいて生きていることです。「変わった人だな」と思われたかもしれないけど、ずっとやりたいことを続けてきて、認められて、地域の人も外の人も来てくれる。コンサル的な言い方をすると、「経営者の軸」がちゃんとあるんですよね。経営者がどんな生き方をしたい人なのかを皆が時間をかけて理解して、ファンになっていく。オーナーの生き方は、お店に必ず反映されます。うわべだけをいくらきれいにしていても、軸がなければ地域の人たちはそれをすぐに見抜きます。「その人らしく」を本気で突き詰めていくのが、長い目で見て成功する秘訣なのかなと僕は思いますね。

――軸を持ちながらも、変わっていくことを恐れないということですね。だから、1年前とは全然違う人になっているように見えたりもするけど、実は軸はまったくずれていないという。その日本料理店のシェフの方は、デルタ航空のポートランド−成田便のお弁当も作っていましたよね。

山川:彼女は元はカウンターでお弁当を作っていた人ですから、本当にすごいですよね。そのお弁当が評判になってきた頃にデルタ航空から声がかかって、まずは数の限られたビジネスクラスにお弁当を出すことになったんです。しかし彼女がすごいのは、提供数がケタ違いとなるエコノミークラスもできないかと持ちかけられて「私の夢は食品加工工場を持つことなので、いけます」と答えちゃうところで。アメリカにある日本食レストランが、国際便のエコノミークラスに機内食出そうなんて普通考えないですよね。でも、彼女は自身が何回も飛行機に乗る中で、エコノミーの機内食がどれだけショボいかよく知っているわけです。だから、エコノミーのお客さんにも健康的でおいしいものを食べてもらいたいという社会奉仕的な気持ちも持っていた。大変だし、あまり儲からないけど、それでもやってみたいという意気込みが素晴らしくて、料理のおいしさもさることながら、その心意気に関わる人皆が惚れてしまっている感じですね。


短期戦より長期戦。リフレッシュ&インプットは超重要!


――新しい何かは、たくさんの挑戦して8、9割は失敗して、その中から見えてくるものだと思います。新しい道を見つけるのにどれだけ時間がかかるのかわからない中で、どう時間を確保すれば良いのでしょうか?日々のルーティンを回し、目の前のお客さんに喜ばれることと、新しい何かを探すクリエイティブな時間を持つこと、例えば休むこともそうだと思いますが、山崎さんはどうバランスを取っていますか?

山崎:「nomi」は田舎の飲食店としては珍しく、週休2日なんですよ。その期間に新しい料理を開発することもできるし、もちろん心身を休めてリフレッシュする時間としても非常に大切にしています。「nomi」にはコース料理もあるのですが、シーズンごとのメニュー切り替え時期にはがっつり1週間くらい休みにしています。そうした長い休みの期間は、話題のお店に行ってみるなど、インプットの時間としていることが多いですね。インプットが料理に反映されるのはもちろん、お客さんとの話のネタにもなるんです。田舎のお店では特に、お客さんは料理ともに人に会い、話すことも楽しみにして来てくれます。「最近こんな所に行った」「あの農家のおばあちゃんがこんなものを作ったみたいで」といった話題は、料理とともに楽しめるひとつの新しいスパイスになるわけです。

――いわゆる「身の上話」ですね。自分が見聞きしたことをお互い楽しく伝え合うという

山崎:それが、毎日毎日働き詰めで、決まったフォーマットの料理をただ作って出すという状態だと、話すこともなくなってしまう。「ロシアが侵攻しましたね」なんて、ご飯がまずくなるじゃないですか。そんなニュースでどこでも流れているような時事ネタは、別に飲食店でわざわざ聞きたいわけじゃないですよね。だから、リフレッシュやインプットの時間は、飲食ビジネスに関わる人にとって本当に必要だと思います。短期的には休みが増えれば売上が下がる可能性も大きいですが、長期的に考えれば、1年、3年先のお客さんを獲得することに繋がると思います。自分やお店への投資ですね。

――「長時間」労働より、「長期間」働こうということですね。これから飲食ビジネスを立ち上げる方は、「最初の1年死ぬ気で頑張ろう!」という意気込みもいいんですけど、長く続けるためのバランスのとり方をしっかり考えておくと良さそうですね。

山崎:田舎の場合、火がつくとめちゃくちゃ人が来てしまうんですよ。田舎では未だにスタバに行列ができる感じ、と言うとわかるでしょうか。でも、1年くらい経つとサーッと人がいなくなって…。そこで心身を消耗してお店を閉めてしまうというケースもけっこうあるんですね。ですから、自分らしいペースを守ることも本当に大事です。無理に売りすぎず、自分にとっての最適化を考えていく。実際に、「nomi」もオープン時は一切メディアには出ないという選択をしました。

――それは、あえて出ないということですね。

山崎:そうです。それこそコンサルタントに絶対に成功しないと言われていたから、1年かけて成り立つ仕組みを考えようと思っていたのもありますし、あえて露出しないことで、少しずつ地元に知ってもらい、それから徐々に市外、県外、そして全国の人に波及していければいいなと思っていたのです。

――田舎での飲食ビジネスにおいては、すぐに結果を出そうとする短期決戦ではなく、あくまで長期戦をイメージして準備していくことが大事ということですね。本日もありがとうございました!

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担当:ジソウラボ MAP担当

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