見出し画像

【独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖】 読書#142

みなさん、いつもお世話になっております!
本日は、私の投稿の軸とする一つ「本」「読書」に関して書かせていただきます。

自己紹介に書いたマイルールを守りながら、私の大好きな本について書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!

今回は、久々の小説です!
日本の時代ものです。

ヘッダーは、SoNoさんの作品を使わせていただきました!
ありがとうございます!!


目次

基本情報

笹目 いく子 (著)
株式会社アルファポリス 出版
2024年5月31日 第1刷発行

全344ページ
読書所要期間 13日

私が本書に出会うきっかけ

著者とは、noter仲間としてと言ったら失礼になるが、ずいぶんと前から相互フォローさせていただいている。
本書が出版される前からお世話になっており、出版へ向けた準備が徐々に進められていく様を記事でよく拝見していた。

たくさんの積読があるものだから、手にするまでにしばらく時間を要することを前置きして、いつか必ず読み、読書感想を書かせていただくことについて著者へご了承いただいていた。

そしてようやく、その時が来た!

私が思う、この本の概要

江戸時代後期、とある家の跡目争いの渦中に二人は出会う。

10歳くらいの「青馬(そうま)」と山辺久弥に名付けられたその子は、耐え難い環境の中で毎日を過ごしていた。

どさくさの中で家を飛び出した青馬は、偶然出会った久弥のもとで過ごすことになる。

久弥は、三味線のお師匠さん。
日々の暮らしの中で、青馬の才能を見出していく。

そんなこんなで、あたたかく平穏な暮らしを築いてきた中、突如として刺客がやってくる。
青馬の父の差金だった。
青馬をまた、劣悪な環境へ引き戻そうとる。

実は久弥は、複雑な家系ではあるが武家出身。
剣の方も、相当に腕が立つ。
送られた刺客を返り討ち、青馬を実の父から守る。

一方、久弥の実家でも跡目争いが悪化しており、久弥はそれを避けるように暮らしていた。
しかしながら、その暮らしを維持できなくなるほどに情勢が変化し、やむなく戻ることになる。

青馬を、三味線の弟子であり、かつ、互いに密かに思いを寄せていた、でもその想いを互いに伝え合うことの無かった真澄へ託すことになる。

ここからは、離ればなれの生活。
そして、武士として命をかけ、青馬や真澄のもとへ帰ることは二度と叶わないかもしれない世界へ身を投じていく・・・

私が感じたこと

家族のカタチ

本書では、様々な人間関係が描かれる。

  • 複雑な出自

  • 複雑な親子

  • 複雑な恋仲

普通とは何なのか、いや、むしろ普通などそもそも存在しない、現在にも通じる様々なカタチが表現されている。

久弥と青馬との絆は、まさにその複雑な人間関係の一形態であるし、久弥と真澄の付かず離れずの関係もまたそうである。
久弥自身の生まれもそうであり、跡目争いという構図もまた、複雑な人間関係が生み出す負のカタチだと言えるのだろう。

言えば言うほど、虚しさだけが胸を喰んだ。

本書P193

この言葉が本書で表される、複雑で何とも言えない人間関係を象徴する言葉のように私は感じた。

「侘び寂び」

ハッキリしない・モヤモヤする一方で、なんだかそこに奥ゆかしさ・美しさといった美徳が存在する。
そんな、古き良き日本らしさが表現されているように感じた。

力だけが身を守る時代

江戸時代後期。
徳川の安定した治世とはいえ、維新の前とは言え、おそらくまだまだ現代とは比較にならないくらい、暴力による、力による現状変更が横行していたことだろう。
しかも、刀という武器まで常時携行する時代。命を失う可能性のある瞬間との距離感の近さは、現代の比にならないはずだ。

久弥は、三味線のお師匠さん。
ソウマは、10歳の子ども。
一見すればか弱い、そんな家庭環境においてすら、暴力により支配しようとする輩が生じる。

それでも2人は生きていこうとする。
生きていかなければならない。

過去に度重なる暴力の経験が、ソウマの心に極めて深く強く刻まれている。

その観点で言えば、現在も変わらない。
DVや児童虐待など、さまざまな暴力が今もなお溢れているのだろう。
武器はそれほどない現代においてもなお。

としたとき、現代における身を守る手段もまた力なのだろうか。
確かに力が必要だろう。
でもしかし、それは腕っぷしという意味合いでの力ではなく、周りに助けを求めることができる力と、それを周りが察知する力がとても重要なんだろうと感じる。

翻って、刀の時代において、それらの力がなかったのか?
その時代から現代に通じるものはなんなのか?
本書を通じて、そうしたことに思いを馳せる機会をいただいたと感じている。

むすびに(まとめ)

本書は、日本らしいなんとも言い切れない複雑な文化・思考様式を背景とした人間関係を、複雑に絡み合う登場人物たちの人生を通じて繊細に描かれているものと捉えている。
そして、特にフォーカスされるのが、タイトルにもある、青馬と久弥の関係を中心とした「おやこ」関係であるように思う。

偶然出会い、様々な難局を経るプロセスの中で、徐々に親子としての関係性を深めていくふたり。

「見習い」ではない、現代にも通じる「本当」の家族のカタチが見て取れる。


普段本を読む時は、ここぞという所に付箋を貼りますが、小説ではそれをしません。
しかしこの度、そのルールは崩れました。
上記に引用させていただいた部分に、とても心が動かされ、ついつい貼ってしまったのです。

「そいうことってあるよなぁ」
といった滲み出るような賛同を覚えたと同時に、今まで自分の中で言語化できていなかったモヤモヤが晴れたような、そんな気持ちになりました。

複雑高度化する人間関係の中で、言えば言うほど
・距離が離れていく
・考えが伝わらない

ということが非常によくある中で、
「あらゆる人が日々そうした状況の中で頑張っているんだよね」
と著者にあたたかく教えられたように感じます。

「エビデンス」
「ハイコンテクスト」

こうしたことが重要視される風潮を感じる中で、
・あえてぼやかす
・言外に込める

といった高度な人間性を改めて思い起こされた気がしています。

笹目さん、貴重な学びをありがとうございました!!
そして本日もご覧いただいた皆さま、ありがとうございました!!

いいなと思ったら応援しよう!

いなかのまどから
もしサポートしていただけるならば、現在投稿の軸にしている本の購入やパピーウォーキングにかかる経費に充てさせていただきたいと考えています。