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【編集後記】(『inagena vol.2』より)

 思いがけず誌面が空いたので、すこし私情を交えて綴ることとします。

 私事ながら金沢市在住で、前号制作中、昨年元日の能登半島地震に続き、今号制作中には能登半島豪雨が発生しました。
 能登には地縁も知人もあり、しかし地震による本業の大幅売上減の影響で、いまだなにもできず、悶々とした日々を過ごしています。

「一人ひとりができることを」の結論には誰もが納得するものの、ここには「では、あなたには何ができますか」の切迫した問いが抜け落ちてしまっています。
 この透明化された悲痛な叫びに対して、自分なりの結論を出している人はどれだけいるでしょう。

 結論を出さずとも行動は可能ですが、迷いなく、より意味のある行動をするために、私は結論を出す必要があると感じました。

 港湾内の隆起によって海路が使えず、もとより陸路も貧弱な能登半島の復興は長期戦が必至で、継続的支援が求められます。
 復興の目的が幸せを取り戻すことであり、幸福が安心と愉悦であるならば、後者は非日常の、前者は日常の中にこそあります。
 ここから「日常」というキーワードを拾うならば、長期支援とは「支援活動を我々の日常にする」ことであり、無理なくこれを行なうためには「私たちの日常を拡張していくことで被災地に接続する」という意識が重要でしょう。

 畢竟「心を能登に向け続け、伸ばせるときに手を差し伸べる」しかないのですが、あるとき輪島市に住む友人が言った「無理しないで」の一言に虚を衝かれたきりです。
 そのうえで到達したのは「支援者である我々自身の日常を、まずは充実させる」という逆説めいた結論でした。
 我々に余裕があれば、そのぶんだけ大きな支援が可能なのですから。

 私にとって冊子制作とはなによりもまず私自身を満たすためのものですが、読者の皆様におかれましては右記の私情など無関係にお愉しみいただければこれに勝る喜びはありません。
 それこそが我々の日常の拡張です。

***

  既刊に引き続き、表紙や組版に一部作品の改稿、また今回は、前号制作時の反省や今後想定されうる課題への予防的措置等を含めた規約やレギュレーションの策定も行ないました。
 ご意見や疑問、そしてなにより作品や冊子の感想がございましたら、奥付のメールアドレスまでお気軽にご連絡ください。
 本書に触れたすべての皆様に、幸多からんことを!

ヤマギシルイ

(note掲載にあたり、レイアウト等を微調整しています)


◆本編はアンソロジー『inagena vol.2』でお楽しみください◆
(『inagena vol.2』は「もじのイチ ~みんなの創作文芸同人誌即売会~ #2」にて販売)

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