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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.305 読書 酒井順子 「ユーミンの罪」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は読書 酒井順子さんの 「ユーミンの罪」についてです。


ユーミンファンであり、酒井順子ファンである自分にとってはご馳走のような本。

流石酒井さん、単なるユーミンその人についての音楽目線の本ではなく、ちゃんとその時代(バブル)や女性の社会進出にも合わせて書いてある。

文化人類学、女性学のような本。

でも評論や論文ではなくそこは酒井節が散りばめられ、女性の心理の裏側まで、もう怖いもの無しで、どんどん切り進んでいる。

そして文筆家なので、音楽ではなく、歌詞に重きを置いている。



自分のユーミンとの出会いは、小学生の高学年の頃、姉の持っていた荒井由美ベストのテープを借りたのが最初でした。

時代は聖子ちゃんや中森明菜などアイドルが活躍していた80年代前半。

今まで聴いていた曲とは全く違った世界観。

「翳りゆく部屋」が特に強烈で、死がテーマ。

小学生から中学生になる青春時代、心理的にも微妙な年頃。

完全にノックアウトされました。

それから中学、高校、浪人と毎年LPレコードを買い、ユーミンのラジオを聴いて
大人になる前の憧れの世界を歌うユーミンの世界へどっぷりハマりました。

時代はバブルの時代。

それから大学に入り上京して、社会はバブルが弾けると同時に、自分から進んでユーミンを聞かなくなりました。

今回酒井さんの本を読んで、なぜユーミンを聞かなくなったかもわかりました。

ユーミンはバブル時代と共に膨れ上がり、女性たちの憧れを背負い、目指す道を指し示して、社会進出を助け、キラキラの世界を見せて、

そしてバブルと共に、段々と勢いが無くなってきたのでしょう。

もちろん映画やCMで過去の曲が使われ、ユーミンは豪華なコンサートを開いて、ずっと活躍していますが・・・。

バブル時代とともに活躍したユーミンを見事にこの本は描いています。

こんなに夢中になって聴いたのに、全く女心は理解していませんでしたw

ただオシャレで素敵な世界観だなと。



目次はこうです。

1 開けられたパンドラの箱 「ひこうき雲」(1973年)
軽やかでお洒落な「死」/ユーミンの甘い傷痕

2 ダサいから泣かない 「MISSLIM」(1974年)
届きそうで届かない「憧れ」/自分を客観視する女

3 近過去への郷愁 「COBALT HOUR」(1975年)
元彼と元彼女のドライブ/「卒業写真のあの人は?」の正体は?/若さあってのその明るさ

4 女性の自立と助手席と 「14番目の月」(1976年)
「女の勝手」のラブソング/八王子までの距離が与えたもの、「松任谷」という名字

5 恋愛と自己愛のあいだ 「流線型‘80」(1978年)
もっとリッチで、もっと素敵なもの/女は男を常に「見て」いる

6 除湿機能とポップ 「OLIVE」(1979年)
飛び降り自殺するなら詩的/セックスのベトつきも除去

7 外は革新、中は保守 「悲しいほどお天気」(1979年)
普通の女性たちの気持ち/「安いサンダル」の無念さ

8 “つれてって文化”隆盛へ 「SURF&SNOW」(1980年)
「陸サーファー」の気持ちを摑む/筍山が苗場ブランドに
サンタがつれて行ったおねえさん

9 祭の終わり 「昨晩お会いしましょう」(1981年)
「もっともっと」を欲する気持ち/遊び人の切り替えスイッチ

10 ブスと嫉妬の調理法 「PEARL PIERCE」(1982年)
ブスに優しいユーミン/ベッドの下に仕込んだ真珠爆弾/「嫉妬って、するよね」

11 時を超越したい 「REINCARNATION」(1983年)
スピリチャルな世界との親和性/ユーミン二十九歳の自覚/無常への挑戦姿勢

12 女に好かれる女 「VOYAGER」(1983年)
優しくて陽気な女友達/専業主婦とキャリア女性の分かれ道/結婚へと持ち込む手練手管

13 恋愛格差と上から目線 「NO SIDE」(1984年)
「誰」の彼女かで決まるヒエラルギー/珍味を求めた恋の終わり

14 負け犬の源流 「DA・DI・DA」(1985年)
「女の軍歌」アルバム/男と別れると仕事を拠り所に/晩婚化を促進

15 1980年代の“軽み” 「ALARM a la mode」(1986年)
フジテレビとの好相性/モテ意地の発達/額縁ソングによる自慰行為

16 結婚という最終目的 「ダイアモンドダストが消えぬまに」(1987年)
バブル崩壊を予言する歌/「短大生パーソナリティ」、名前が変わることが「ヒロイン」

17 恋愛のゲーム化 「Delight Slight Light KISS」(1988年)
恋人達の「間」を埋めるユーミン/カーセックスを断った女の歌

18 欲しいものは奪い取れ 「LOVE WARS」(1989年)
バブルと「戦争」/自ら出陣する女性達、ファンの感覚との乖離

19 永遠と刹那、聖と俗 「天国のドア」(1990年)
聖と欲が交差する構造/最も俗っぽい歌、人気絶頂、ユーミンの不安

20 終わりと始まり 「DAWN PURPLE」(1991年)
早すぎた「出産の歌」/恋愛におけるIT時代の夜明け、「砂上の楼閣」とバブル崩壊




もうこの目次だけで、この本の要約ができます。

まさにユーミンは「時代」と「女性」を歌っている。

そしてバブル時代は酒井さんの最も得意とするところなので

いろいろな歌手がいるがユーミンを取り上げたのは正解だと思います。



もう本は折り目ばかりで、納得と驚きの連続でした。

ただ「ソーダ水の中を貨物線が通る〜」っとお洒落な歌詞だなと思っていた自分にとっては、

女性心理をここまで明かされるとは!

ユーミン自らのラジオでもここまで言えません。

酒井さんだからこそ、本人インタビューなしだからこそ、書ける内容でしょうね。

もう妄想が暴走しています!その妄想が的確ですがw

ただユーミン愛に溢れているので、この本は最高です。

またユーミンのベストを聴いてみたいと思います。





ユーミンが我々にしてくれたことは、すなわち「肯定」です。「ユーミンの歌とは女の業の肯定である」と言うことができましょう。もっとモテたい、もっとお洒落したい、もっと幸せになりたい・・・という、「もっともっと」の渇望も、そして嫉妬も怨恨、復讐に嘘といった黒い感情をも、ユーミンは肯定してくれました。
それも「感情の黒さだって、時にはシックよね」と思えるように加工してくれたので、私達は女の業を解放することに罪悪感を持たずに済んだのです。
/P.272「ユーミンの罪」より








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