2014年8月の記事一覧
「あの春は二度と来なかった(1)」
大学1年生の春は、一度しか来なかった。
当たり前じゃん、とリョウヘイに一笑されてから、いや、当たり前じゃねえよ、と深刻な顔で返したが、自分でもその理屈はわからなかったし、僕の「シリアス」はリョウヘイにとっての「コミカル」だったようで、隣りでうどんをすすっていた学生が、ちらり、とこちらの様子を窺うくらいには周囲を気にせず、げらげらと笑い声をあげた。
「どの春も一回きりですよ」
もう七十二になる
「レプリカたちの放課後」
「受験戦争」なんて物騒なネーミング、考えた奴は天才だ。
冬の乾いた教室に立ち込める得体のしれない空気は、どことなく殺伐としていた。音にも声にもならない銃声がそこかしこで鳴っているような気がして、防御するように顔を伏せた。
中学生は大人と形容されることはない。
けれど、「子どもではない」らしい。
うっかりはしゃいでしまえば、「もう子どもじゃないんだから」と窘(たしな)められて、所在ない反論は