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「さびしさは鳴る。」

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自作小説を集めたものです。表題は、某芥川賞作品の有名な冒頭から、拝借致しました。
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2014年8月の記事一覧

「愛のことば」

「愛のことば」

昼間。人のまばらな車内に響く、笑い声で目が覚めた。

ふと目をやると、数人の女子が「そんなに大声出さなくてもいいじゃない」という音量で盛り上がっていた。

同世代の女子が複数で盛り上がっている姿は何かと恐怖を感じる私なのに、彼女たちの、どことなく地味な服装やメイクを見て、根拠はないが何故か安心し、そして思う。

”自分、いやなやつだなあ。”

私はその一瞬で、彼女たちを見下したんだ。自分よりも格下

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「七色の少年」

「七色の少年」

アスファルトがじりじりと熱を帯びる姿は、見ているだけで体感温度を上げた。久しぶりの母校への道は思ったより時間がかかって、毎日ランドセルを背負って通っていたことを考えると、大人が思うよりずっと、子どもって強いんだな、と思った。

「かしこく 明るく なかよく たくましく」

小学校の学校目標だった言葉は、大人になってからいい言葉だと気づいた。自分が生まれたのが早かったせいか、小学校時代の記憶もしっか

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「あの春は二度と来なかった(1)」

「あの春は二度と来なかった(1)」

大学1年生の春は、一度しか来なかった。

当たり前じゃん、とリョウヘイに一笑されてから、いや、当たり前じゃねえよ、と深刻な顔で返したが、自分でもその理屈はわからなかったし、僕の「シリアス」はリョウヘイにとっての「コミカル」だったようで、隣りでうどんをすすっていた学生が、ちらり、とこちらの様子を窺うくらいには周囲を気にせず、げらげらと笑い声をあげた。

「どの春も一回きりですよ」

もう七十二になる

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「レプリカたちの放課後」

「レプリカたちの放課後」

「受験戦争」なんて物騒なネーミング、考えた奴は天才だ。

冬の乾いた教室に立ち込める得体のしれない空気は、どことなく殺伐としていた。音にも声にもならない銃声がそこかしこで鳴っているような気がして、防御するように顔を伏せた。

中学生は大人と形容されることはない。

けれど、「子どもではない」らしい。

うっかりはしゃいでしまえば、「もう子どもじゃないんだから」と窘(たしな)められて、所在ない反論は

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