ラストマイルと日本の物流
*あまりネタバレはないですが、気にされる方は映画を見た後で読んだほうがよいかもしれません。
映画「ラストマイル」を見に行った。元々はドラマMIU404とアンナチュラルが好きなので、その2作品の登場人物達が久しぶりに見れる、というのが見に行った理由だ。
しかし、「ラストマイル」というタイトルはちょっと気になっていた。
というのも、ラストマイルは物流でよく使われるワードだからだ。私の仕事も物流関係なので、ラストマイルという言葉はよく使う。
なにか関係があるのかな、とは思いつつもあまり気にせず見に行った。しかし、結果的には映画を見ながら号泣してしまった。
泣いてしまった理由を語りたいのだが、そのためにも、まずは少し物流の話をさせてもらいたい。
例えば、私が大阪に住んでいたとして、東京の友人宅に荷物を送りたいとする。
そのとき、私の荷物だけを乗せたトラックが、私の友達に直接荷物を届ける、ということはまぁまずない。
基本的には、関西で私と同じく関東に荷物を届けたい人たちの荷物をどこか一箇所の物流拠点に集めて、集まった大量の荷物を大きなトラックに乗せて、関東にあるどこかの物流拠点に一度届けている。
その後、関東に届いた荷物は東京行き、埼玉行き、千葉行き…などと分けられて、私の友達の家に荷物が届くのだ。
このとき、「関西の物流拠点から関東の物流拠点」に荷物を届ける輸送を幹線輸送、と呼び、「関東の物流拠点から私の友達の家」に荷物を届ける輸送を、「ラストマイル」と言う。(ちなみに関西の物流拠点に荷物を集めること、関東の物流拠点から各家庭に荷物を運ぶことは、どちらも支線輸送、と言われている。ラストマイルはその中でも、運ぶ方)
基本的には我々一般消費者が、幹線輸送のドライバーさんと接することは少ない。高速道路を走っているトラックドライバーさんを見かけるくらいなものだろう。
一方、家にまで荷物を届けてくれる、ラストマイルを担うドライバーさん達とは、通販でなにかを頼んだことがあれば、接したことはあるはずだ。馴染みのドライバーさんが居る方も多いのではないだろうか。
実は、2024年4月、物流業界は「2024年問題」というかつてない危機にさらされていた。私と同世代の人なら知っているかもしれないのだが、昔はドライバーさんとは、割と大金を稼げる仕事だった、と言われている。
しかし、昨今の働き方改革が叫ばれるようになり、2024年4月、物流業界にもメスが入れられることになった。
長時間の労働は是正された一方、稼げなくなった、というドライバーさんも多い。人にもよるのだが、残業規制なんて要らないから働かせてほしかった、という方もいる。
ただ、それではきっと若い人はドライバーになりたがらないだろう。
物流業界、とくにドライバーさんは高齢化が進んでいると言われている。
実際映画の中にでてきた物流会社である羊急便にも、若い人の姿は少なかった。
物流会社に行くとわかるのだが、あれは本当にリアルな物流現場の姿だ。ドライバーは足りていない。それなのに、ドライバーの給与は下がっている。誰もなりたがらない。負のループが続いている。
ちなみに、ドライバーが減っている一方、荷物が増える中で、国が行った施策がある。「高速道路におけるトラックの制限時速を80km/hから90km/hに上げること」だ。
道路に表示されている制限時速とは別に、中型、大型の車両には専用の制限速度が設けられている。
例えば新東名高速道路には120km/hの区間があるが、トラックはその速度を出すことはできない。今まではそれが80km/hだったのだが、2024年4月から90km/hに上がった。
車の性能が上がっているので、速度を上げても問題ない、とのことだが、私が知っているドライバーさんも、物流会社も、人が足りないなら急いで運べばいい、なんて横暴な理屈が通るわけがない、と憤慨していた。
私たちの乗る自動車の制限持続が10km/h上がるのと、10tトラックの制限時速が10km/h上がるのはわけが違う。
積荷が重ければ重いほど、自動車がブレーキをかけてから静止するまでの距離が伸びる。追突の危険性も上がってしまう。
国が速度制限を緩める中、物流会社の多くは80km/hの速度制限を自主規制として守っている。
映画の中で過酷な労働を強いられていたのはラストマイルのドライバーさんだったが、幹線輸送側も厳しい状況なのは変わらない。
ドライバーが減少していく中、コロナ禍を経て我々はますます通販に頼るようになり、そのしわ寄せが、物流に携わる人たちに行っている。
送料無料、に疑問を抱いたことはないだろうか。
物流には、ガソリン代、ドライバーさんの人件費、倉庫作業員(さっき書いた東京や千葉などに分ける仕事)の人件費、拠点の維持費など、様々なコストが掛かっている。
そんなもの、無料になるわけ無いだろう。
私は火野正平が演じていたトラックドライバーを、知ってるドライバーさんに重ねてしまった。
とある知り合いのトラックドライバーさんは「必要な荷物を必要な人に届けられた」ことにやりがいを感じる、と言ってる方がいた。
火野正平のやっていた役は誇張などではなく、実際にああいう方達が物流業界には沢山いる。
少し段ボールが傷ついていただけでクレームを言われる日本において、物流ドライバーさんたちの荷扱いはとても丁寧だ。(ドイツにいたころ、ドライバーさんに荷物を投げて渡されたことが何度もある。日本の荷扱いが普通だなんて思わないでほしい)
そういったドライバーさん達を待遇の悪い状態で働かせているのは、やりがいの搾取だと感じてしまう。
そう思ったら、映画を見ながら涙が止まらなくなった。自分にできることはなにか、改めて考えたくなった。
では、映画に出てきた、DailyFastは悪なのだろうか。いや、世に必要とされているからああいう会社がある。その「世」とやらを構成しているのは私達だ。
映画の中では、物流会社達は集まって声を上げることができた。ただ、きっとあれは大きな物流会社だ。日本には、無数の中小規模の物流会社がある。
今日頼めば明日届く。送料無料で荷物が届く。
それが普通じゃないことを、もう一度考えたい。
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